【インタビュー】横山 剣(クレイジーケンバンド)が初登場! 結成25周年を迎えての意欲作『樹影』制作話と、唯一無二のヴォーカルスタイルを深堀りして訊く!

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
ライブ写真:©️本多亨光

ハナモゲラ語が実は一番グルーヴが出るんですよ、困ったことに(笑)

──昨日クールスRC時代の剣さんの歌唱映像を観たんですけど、思っていたよりもキーは高かったんですね。

横山 実は今より低くて、クールスの中では一番低かった。でも低いのに高く聴こえるって意味では得しました。みんなが淡々と歌えるような曲を同じキーで歌うとすごく高音で歌ってるように聴こえるんですよ。例えば、同じ100キロでもアメ車なら余裕だけど、軽自動車みたいだった僕の声はウインウインウインと唸るピーキーな歌声だから“キー高いですね!”って勘違いされてました(笑)。エンジンをボアアップしたみたいに、キーはあの頃より今のほうが全然出るようになったんですよ。

──なるほど。となると、同じ音でも若いときは排気量が少ないから……。

横山 そう。もういっぱい、いっぱい(の感じになる)。当時はバイクって感じだったんですけど、今はキャデラックって感じですかね。

──最近の若手男性ヴォーカリストの歌などは聴かれますか?

横山 藤井 風くんとか、Kroiってバンドとか、Suchmosのヨンスくんとか。年齢的にはみんなそこまで若くはないけど、僕と比べたら親子ほど離れてる人たちのヴォーカルも聴きますし、好きなタイプは多いですね。

自分はこんな声だけど好きなのはハイトーンで、ソウルフルなこぶしができるヴォーカリストが好きです。特にスティーヴィー・ワンダーの歌声が大好きなので、本当はああいう声に生まれたかったんですが……まぁ、ならなかったんで、JBとか、ウィルソン・ピケットとか、そっち方面を目指したんです。

──さっき剣さんの声をアメ車に喩えさせていただいたのですが、そういう意味では、最近の若いヴォーカリストはハイブリッド車のような感じがしますよね。実に燃費良く高音を出してるなと。

横山 そうですね。うまいヘタで言うとうまい人はすごく増えてはいるんですが、昔って、うまいとかヘタの規格に入らない独自のヴォーカリストがいっぱいいた。決して美声じゃなくても、もんたよしのりさん(もんた&ブラザーズ)の声とか、ザラつきがあるんだけど、そのまま高音が出る。そういうあり得ないスーパーな声を持つ人がいましたよね。

永ちゃんもそうだし、達郎さんも。あと細野晴臣さんはボソボソと歌うのに、スタイリッシュでポップに抜ける力強さがある。ヴォーカリストの個性って意味では、70年代は独自の方が多かったとは思いますよね。

──メロディができて歌詞ができあがるまでには、仮歌の段階があるのですか?

横山 キャッチーな部分とか、要所要所は同時に歌詞が出てくることもあるんですけど、浮かんでない部分は“めちゃくちゃ語”というか、意味にならない日本語を乗っけてたりします。全編ラララとかってことはないですね。

──いわゆる“ハナモゲラ語”ですか?

横山 そうそう、タモリさんの(持ち芸の)ハナモゲラ語ですね。ハナモゲラ語が実は一番グルーヴが出るんですよ、困ったことに(涙)。歌詞を乗っけた途端にグルーヴが損なわれることがあるので、意味はどうあれハナモゲラ語で出たときの母音に日本語を当てたほうがグルーヴ的っていうか、パーカッシブ的には良くなることがあるんです。そこを重視すると歌詞だけを見て意味が伝わらなくても、音楽になったときに何か“ソウル電波”がビリビリビリって出るんじゃないかって信じてるところがあるので。

永ちゃんも達郎さんも歌詞を超えた“音霊”っていうか“言霊”っていうか、確実になにか“ダマ”がありますよね。ソウルミュージックの何たるかっていう部分ですけど、それを感じる声の人が憧れですね。

──きれいなロングトーンが出やすいので、語尾に母音の「あ」を持ってくる方が多いと思いますが、剣さんの歌詞の特徴として、ロングトーンの母音は「い」が多いような気がしました。

横山 「い」の母音で行くと高音が出るんです。でも「え」の母音、例えば《手》とか、これがダメなんですよね。「え」の母音だと、なんか高いキーが出ないんですよ。そのギアが入る、入らないがあるから、“意味的に本当はこっちなんだけど、こっちの言葉のほうが発音が良い”とか、ポテンシャルが発揮できるほうでチョイスしてます。あとは音程が安定する、しないも意外と母音で左右されるところがありますね。

──「い」や「え」の歌い方も、ハッキリ出すだけでなく、「い」と「え」がブレンドされたような、なんというか「ie」って感じの母音もありますよね。

横山 発音記号にしたら、“大体こんなんじゃないかな?”みたいな。なるべく歌詞がわかるように歌いたいんですけど、逆に自分がこれまでグッときた曲で言うと、何を言ってるかわからない部分を歌詞カードで見て、“あ、こんなこと言ってるんだ!”って知るのも好きで。だから自分の中でのせめぎ合いがあって、その辺はブレながらやってるところなんですけどね。

──また、“剣さん印”というテクニックの中にはビブラートと、グッと歪ませた声などがありますが、ご自身では何種類ぐらいの声を使い分けているイメージですか? 

横山 3種類ぐらいですかね。細かく言うとグラデーション状にいろいろあるんでしょうけど大きく分けるとウィスパーとかエアーを“ハァー”と混ぜるのと、高音で一番張るところと、普通にストレートに歌っている感じの3つですかね。

──ビブラートは何種類ぐらいありますか?

横山 ビブラートは一種類かなあ。もしかしたら気づかないうちに細分化してるかもしれないですけど、意識してるのは一種類だけです。黒人のシンガーがやってるビブラートに感化されたので、そういうのを真似したりしましたね。ご本人は無意識かもしれないですけど、矢沢永吉さんもアル・グリーンがよくやるようなビブラートのかけ方をしていたりするんですよ。アル・グリーンとかゴスペルの人がやるような歌い方の響きを出すと、魂の振動みたいなバイブレーションがビリビリ伝わってくるような気がしますね。

──それは、先ほどおっしゃった“こぶし”と同義ですか?

横山 そうですね。こぶしもテクニカルに回すんじゃなくて、回そうと思ってないのに魂を込めて歌ったら、“あ、回っちゃった!”ってのがイイんです。“どうだ! うまいだろう”という歌い方はあんまり響かない。それはそれでアクロバット的には素晴らしく感動しますけど、それよりは“自分の中にあるものを吐き出すんだ!”とか、“伝えるんだ!”という電波が届くほうが好みですね。

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