【インタビュー】スージー鈴木、『平成Jポップと令和歌謡』から語るヴォーカリスト比較論

2021.11.3

インタビュー:藤井 徹(Vocal Magazine Web)

2つのバンドの登場と“平成Jポップの終焉”。

──そしてKing Gnuです。“すべてが新しい。J-ポップの終焉を感じさせる”と激賞しています。

スージー “平成の最後に生まれた新しい音楽”です。あのオクターブ・ユニゾン、超ハイトーン・ファルセット……。彼らがもたらしたものは大きいでしょうね。『紅白歌合戦』での生演奏もすごく感激しました。ただ「白日」が、出来すぎてた感じはしますね。それぐらい素晴らしい。そもそも基本的にはJポップの人じゃなく「Jポップやりました」的にやっているので、彼ら自身に “第二の「白日」”を作ろうとする気持ちがないかもしれませんね。

──なぜJポップというジャンルが終わったと感じたんですか?

スージー ひとつはJポップとまったく違うタイプのKing Gnuが出てきたこと。もうひとつはJポップを総決算し、そのすべてを兼ね備えたOfficial髭男dismが、30年分のJポップのアイディアを、「宿命」や「Pretender」の1曲に詰めていたこと。この2つのバンドの登場で、平成Jポップは終焉を迎えたと感じましたね。

──なるほど。Official髭男dismの音楽は、平成Jポップの完成形であったということなのでしょうか?

スージー そうです。この本にも書きましたけどね。あんな忙しいコード進行と、センチメンタリズムの水浸し……。そう、今まで話してきて何かわかってきたんですけれど、結局その音楽の作曲法とかコード進行とかテクニックとか、僕がこの本の中で過大評価している若い連中は、みんな耳年増っていうかミュージシャンズ・ミュージシャンで、素晴らしい理論とテクニックを兼ね備えているんです。それは、わかりやすく言うと、それだけの情報がインターネットの上に並んだからだと思うんですね。70年代の若者がそれこそ“歌本”とかでコードを拾っていたものは、今は瞬時に手に入って、しかも整理されている……。

──確かにコードも見つかれば、楽器の弾き方もすぐ見つけられます。

スージー 奥田民生とかトータス松本っていう僕と同世代や渋谷系の人間っていうのは、レコードからCDに変わる瞬間に、CDで再発されたさまざまな旧譜を横並びで入手したんです。だから前の世代に比べたら音楽を聴く速度が早かったんですけど、それが今はネットで情報が林立していて、もっと速いものだから、極めて耳年増で知識偏重な若者が増えている。それはヴォーカリストにも言えて、「ドライフラワー」の優里っているじゃないですか。マキタスポーツとも話すんですけど、“彼はめちゃくちゃ歌がうまい”と。歌唱テクニックとか、ほぼすべてを兼ね備えている。

Official髭男dismはヴォーカルも含めてJポップの総決算という感じがするけど、多分に今日話題に出てきた若い連中は“総決算感”を持っていて、それはヴォーカリストとして身につけるべき知識とかテクニック、理論などをネットで総ざらいしているからですよね。だから面白いし、逆に総決算がインフレしているというか、全般にそういうことを感じましたね。

──確かにZ世代が推している歌い手たちも抜群に歌がうまいですね。

スージー 地声がファルセットに変わる瞬間とか、息を入れたりとか、それらをすべて意識しているというより、YouTubeで観て、聴いて習得するんでしょうね。自分の研究と繋げていくと、米津玄師が、桑田佳祐や佐野元春が生み出した“日本語をリズムに乗せる歌い方”を一般化した。

1980年、佐野元春の「アンジェリーナ」を聴いて、《シャンデリアの街で眠れずに〜》でビックリしたのが、今や米津玄師「感電」の《逃げ出したい夜の往来 行方は未だ不明》が普通に聴こえる(笑)。これは佐野元春、桑田佳祐、矢沢永吉の唱法っていうのが、すでに空気のようになったということ。過去の蓄積というものが確実に生きていて、そこを繋ぐことをしないと、まったく過去の音楽と分離してしまい、評論文化が成立しないので、米津玄師の歌い出しを佐野元春と繋げるのは歴史を紐解く意味があるんですよ。

まあ『EPICソニーとその時代』(集英社新書)で、佐野元春に“米津玄師は知ってますか?”って質問したら、“曲は聴いたことないですね”っておっしゃってましたけど……。とにかく“総決算感”なので、オジサンにとって今の最新ヒット曲は面白いに決まっているんですよ。我々が聴いていたものが全部入っているんですから。

──“歌は世につれ、世は歌につれ”と言いますが……。

スージー だから“今の世の歌は、過去の世の歌につれてます”。

──聴くに値する曲ばかりだと。

スージー そうそう。最高だよ!って(笑)。あの頃バンド・ブームでライブハウスに行っては、“メジャー・デビューしました”とかいうのに、ヘタクソなバンドのようなことはない。“今はとりあえずヘタクソはいないよ”って。あ、これいい話だな(笑)。

──最後にスージーさんの、2021年10月現在のベストソング候補は?

スージー まだランキングは作ってないんですけど、米津玄師「死神」、池田エライザ「Woman“Wの悲劇”より」を超えて、Adoの「踊」。“今まで聴いたことも見たこともない音楽”っていう、過去との紐付けが今のところ難しい曲です。ただ日本人として土着な“盆踊り”のような感じがする。今の段階では、まだ分析途中の「踊」が、今のところ2021年の1位かもしれません。あ、邦楽ではないですが、BTS「Butter」は別格で。


書誌情報

『平成Jポップと令和歌謡』
スージー鈴木

定価 本体1,900円+税
出版社 彩流社
ISBN978-4-7791-2779-2

出版社オフィシャルページ


プロフィール

スージー鈴木(すーじー・すずき)

1966年、大阪府東大阪市生まれ。ラジオDJ、音楽評論家、野球文化評論家、小説家。

<著書>
2021年
『EPICソニーとその時代』(集英社新書)
『平成Jポップと令和歌謡』(彩流社)
2020年
『恋するラジオ』(ブックマン社)
『ザ・カセットテープ・ミュージックの本 〜つい誰かにしゃべりたくなる80年代名曲のコードとかメロディの話〜』(マキタスポーツとの共著、リットーミュージック)
2019年
『チェッカーズの音楽とその時代』(ブックマン社)
『80年代音楽解体新書』(彩流社)
『いとしのベースボール・ミュージック 野球×音楽の素晴らしき世界』(リットーミュージック)
2018年
『イントロの法則 80’s 沢田研二から大滝詠一まで』(文藝春秋)
『カセットテープ少年時代 80年代歌謡曲解放区』(マキタスポーツ×スージー鈴木、KADOKAWA)
2017年
『サザンオールスターズ 1978-1985 新潮新書』(新潮社)
『1984年の歌謡曲 イースト新書』(イースト・プレス)
2015年
『1979年の歌謡曲 フィギュール彩』(彩流社)
2014年
『【F】を3本の弦で弾く ギター超カンタン奏法 シンプルなコードフォームから始めるスージーメソッド』(彩流社)

オフィシャルサイト>
週刊スージー


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