パワフルヴォーカル! “メンバーやオーディエンスを魅了する歌声”大作戦!【集中連載】『ロック・ヴォーカリスト“THE BIBLE”』Vol.2
2022.07.23
文:本山nackeyナオト(SMDボーカル教室)
写真:ヨシダホヅミ
心を揺さぶる歌声を発声するために必要なレッスン方法3
【レンジ幅】
レンジ幅を広げるためのボイトレ
レンジ幅とは発声できる音域・声域のことだ。低音も高音も自分が思うように発声ができたらいいよね。歌をカッコよく歌うには音域を広げる必要があるんだ。
声の区分と声の種類を知ろう
『声区』
声区とはまさに声の区分だ。声区を大きく分けると3つ。声帯がどのように震えるか、その形を指す言葉なんだけど、みんなには「どこに響きを持ってくるか」と考えてほしい。大切なのはヴォーカル用語を覚えることじゃないからね。でもね、声帯の仕組みを知ることが結局近道なんだ。カッコいいヴォーカリストになるために知ってほしい。
声区1:胸に響きを持ってくる。
胸部共鳴だ。胸に手を当ててそこに意識を集中させる。発声角度は下の歯に当てるイメージだ。周波数は低いので声帯のアタックの回数は少ない。しっかりと合わさって当たってる。声帯の形は太くて長いから男性には発声しやすい声だ。息をしっかり使えるので声量を得られやすい。声帯が太いままで、音域を上げていくとこれ以上伸びない形になるんだ。
もっと高い音を出すには声帯を薄くして、伸ばして、さらに声帯の一部分だけ閉じた状態にしなければならない。要するに震わせ方が変わるということになるので、声区も変わるのだ。
声区2:眉間に響きを持ってくる。
口を閉じて「N~(ん〜)」とハミングしてみよう。それだけで息の流れは鼻腔に流れる。先に練習した鼻腔共鳴だ。上の歯~上あごに息を当てよう。声帯は胸部共鳴より音が高くなるのでアタック数も多く、薄くこすれ合う。声帯全体はピッタリとは閉じていない。胸のほうに響きを持ってこないで、上あごで鼻腔共鳴するため眉間やおでこで鳴っているイメージだ。
声区3:頭に響きを持ってくる。
頭全体が震えるイメージ。頭蓋骨共鳴だ。息は軟口蓋に当てる。声量が欲しい場合、頭のてっぺんから突き抜けるイメージを持つとバッチリだ。声帯の状態は鼻腔共鳴よりもさらに薄くこすれ合う。声帯は合わさった状態ではなくなり、声量を上げていくにはトレーニングが必要だ。
声区を理解し、コントロールすることがなぜ必要なのかというと、同じ声区(響かせる場所)で高い声の発声は限界があるからだ。ある程度高いピッチで発声すると、低めの音より声量が自然と出てくるのがわかるかな。
腹式呼吸で気持ちよく張った声は魅力的だよね。歌っていてもキモチイイ。でもそれ以上になると途端に苦しくなるよね。なぜかと言うと音程が高くなると空気圧も増す。声帯は伸びて固くなり、しなやかさがなくなるからだ。さらにピッチを上げようとして、そこから変えようとすると、緊張で固くなった声帯はすぐに対応できないため、声がひっくり返る現象が起こるんだ。だからヴォイストレーニングが必要なんだけどね。
つまり、ある声区の枠を超え、どうしようもなくなってから声区を切り替えると声はひっくり返ってしまうということなんだ。ボイトレしてない、まったくの素人さんがよくひっくり返っているよね。
『声種』
声種とはそのまま声の種類のことだ。さて、声にはどんな種類があるだろう。これは前回やった。大きく分けるとふたつだったよね。そう、裏声と表声だ。ここでさっきやった『声区』を考えてみよう。声区は3つ。胸に響きを持ってくるのが「胸部共鳴」だったよね。
発声する声の種類はなんだろう? 裏声で胸に響かせるよりは、表声のほうが響かせやすいことに気がついたかな? そう表声が向いているんだ。さらに響きが胸に来るから『声種』は「胸声」(チェストヴォイス)になる。舞台ではよく使われるね。宝塚の男役はまさにチェストヴォイス。イメージをするとピッタリだ。
その考え方で、まずは頭蓋骨共鳴を考えてみよう。そもそも高い声は裏声と表声だったらどっちが発声しやすいと思う? 当然、裏声だ。「裏声」だったらHighA(A4・ラ)だって発声できちゃうよね。高い声は頭のてっぺんから突き抜けるように発声する。共鳴は頭蓋骨だ。頭だから『声種』は「頭声」(ヘッドヴォイス)になる。そして裏声のほうが向いている。
さあ残りは眉間に響きを持ってくる「鼻腔共鳴」だ。眉間は人間の顔の真ん中だと言われている。だから「中声」(ミドルヴォイス)が『声種』になる。はて、裏声と表声どちらが向いているのだろうか? それは「人によって違う」が正解だ。共鳴は鼻腔だけど声は表声でも裏声でもかまわない。ただ、裏声だとなかなかパワフルに歌えないよね。裏声よりは表声に近くしたいし、表声よりは裏声のように軽くしたい……混ぜたらどうなるのだろう?
これこそが裏声と表声を混ぜ合わせた「ミックスヴォイス」だ。まさに先ほど挙げたすべてのプロ・ヴォーカリストが、この声を使いまくっている。「ミックスヴォイス」は、バンド・ヴォーカリスト必須のテクニック。次回はたっぷりこのレクチャーをするので、乞うご期待! 下のイラストは、今回説明した「声区」と「声種」、共鳴させる部分を表にまとめたものだ。