文:本山nackeyナオト(SMDボーカル教室)
写真:ヨシダホヅミ
声量アップ、ハイトーン発声のために
その1:表声の安定感を高める
無理せずラクに発声できる表声のレンジ幅(音域・声域)から広げよう。今の段階で「少し頑張れば発声できるkey」の音を、表声でラクに発声できるようになるまでトレーニングする。
声帯を動かしているのは筋肉だ。筋肉は使ってあげないと育たない。声帯も伸び縮みすることで柔らかくなっていき、ギリギリ発声できたkeyがラクになってくるはずだ。
さらに、表声での発声練習が声量アップ、ハイトーン発声に効果的なのは高いkeyの音程に限らず、実は低いkeyでの音程の発声もトレーニングになる。声量アップ、ハイトーン発声のためには、表声を出す声帯と裏声を出す声帯の両方をトレーニングしなくてはならないんだ。
まずは表声で低音から高音までバランス良くトレーニングしよう。それから裏声のトレーニングだ。さらに「表声」、「裏声」から第3の声種とも言える「ミックスボイス」の発声スキルが必要になってくる。それについては次回以降をお楽しみに。
声量と言えば、単なる「声の大きさ」のことだとみんなは思っていないかな? 実は、声量には声の大きさだけではなく、「声の響き」や「声の抜け」も含まれるのだ。単純に声音量が大きくても、しっかりと響きを意識しなければ声が抜けにくくなったり、表現が伝わりにくくなったする。
声量アップやハイトーン発声には、舌の使い方をコントロールすることが必須。声がこもって聴こえることにも注意が必要だ。メロディの力強さや優しさといった感情が聴いている人(オーディエンス)に伝わりにくくなる。
声量アップを目指すなら、単なる声の大きさだけではなく「響き」と「抜け」を意識してボイトレすることが大切。これについては、次回で詳しく説明していく予定だ。
その2:腹式呼吸には数種類ある
さて、僕たちにはしゃべるときに、声と一緒に出るものがある。それは「息」だ。発声するときには必ず息が出る(もちろん息を吸いながら発声するデスボイスなどで使われるテクニックもある)。
「息」の圧力を「声帯」で振動させて音声に変える。これが発声のメカニズムだ。だから息を大量に多く送ると、大きな声が出る……とされている。これ自体は間違いじゃないんだ。
ここで「歌は腹式呼吸で」を振り返ってみよう。そもそも「歌は腹式呼吸が必要」とされたのはいつの頃からだろうか。それは歌う場所が舞台しかなかったときの話。マイクがなかった時代の話なんだ。だから会場全体に聴こえる、大きな声が必要とされたんだね。でも現代では大きな会場でマイクを使わずに歌うことはまずないはずだ。
でも、「そうか、腹式呼吸のトレーニングはナンセンスなんだ!」っていうのもまた違う。実は腹式呼吸と呼ばれるものはひとつではない。これがみんなが“コンガラガル元”なんだ。多くのヴォイストレーナーや専門家の意見も「いや、腹式はそのやり方じゃない」とか「腹式呼吸はいらない」とか「腹式呼吸は絶対」とか実にさまざまだ。
僕の回答はズバリこうだ。
歌の呼吸はジャンルによってさまざまで、腹式呼吸には数種類ある
準備・ウォーミングアップに適した腹式呼吸と、トレーニングのための腹式呼吸は、目的が違えば実践方法も違う。まず今回はウォーミングアップに適した腹式呼吸と、トレーニングのための腹式呼吸を解説しよう。
①ウォーミングアップに適した腹式呼吸
目的は「歌う前の準備とリラックス」だ。みんなはいきなり「明日ステージに立つ本番!」って言われたらドウスル? 緊張しちゃうよね。当然だ。もしかして声がウワズルかも知れない。もしかして足が震えるかもしれない。緊張するから普段よりのどが乾き、痰が絡まるかもしれない。声がかすれるかもしれない。のどがガッチガッチになっちゃうかもしれないね。
だけどプロのヴォーカリストは、緊張はしても音程をはずすこともないし、声がかすれることもない。しっかりパフォーマンスができる。なぜでしょう?
そう、ヴォーカリストだけでなく、人前でパフォーマンスをするプロはみんな実践している。一流であればあるほど、このことを大切にする。
それは「意識して平常心を保つトレーニング」を、日々のヴォイストレーニングで実行しているからだ。α波(アルファ波)の状態にするのだ(動画参照)。
写真1:「お腹」というとみんなこの位置をイメージしてしまっているかもしれないね。実はこの部分に力を入れると、のどが閉まって声が出にくくなってしまう。
写真2:おへその位置から3センチくらい下、「丹田」が歌のツボだ。ここを中心に力を入れるのではなく、空気の出し入れをしていくイメージだ。
②トレーニングのための腹式呼吸(ドッグブレス)
目的は「トレーニング」だ。だからかなりハード。慣れないうちは本当に無理をしないでほしい(可能ならヴォイストレーナーについていてもらいたい)。息を吐くのも大切だけど、実は吸う力で歌の肺活量は作られる。のどに力を入れずに、なるべくゆるめ、あくびをする感覚で、口内、首全体に空洞を作る意識でやろう(動画参照)。
不随意筋(自分ではコントロールできない筋肉)の横隔膜を動かすので、インナーマッスル強化だ。
1:足を肩幅よりこぶし一個分広めに開き、頭のてっぺんを上から引っ張られてれているように立ち、なるべく全身の力を抜こう。
2:まずはゆっくりと口で吸う(丹田を膨らませる横隔膜が下がるイメージ、ゆっくりと口から吐く(吐きながら下腹部=丹田を凹ます)。
3:続けて発声はしないで、犬のように「はっはっはっ」と息を吐き、吸う。
4:朝・昼・晩に行なう。
【ポイント】
・息を吸うとき丹田が膨らむ。息を吐くときに丹田を凹ませる。
・のどはあくびのど(空間を意識する)
【注意】
食後はやらない(食後2時間は空ける)。くれぐれも無理をしないで。3分間が目標だけれど、最初は10秒から行なうくらいから始める。
特に血圧の高い人や高齢者は少ない回数から。ドッグブレスは、息をしっかり吐き、のどを締めつけないことが大切。
腹式呼吸で発声しよう!
さて腹式呼吸はできるようになった。でも歌に活かせているかわからない……といった人もいるんじゃないかな。
次はこのトレーニングをやってみよう。「かめはめ波大作戦」だ。別にふざけているわけじゃない。丹田に手を置いて横隔膜を上にあげるイメージだ。
先ほど習得したドッグブレスで発声するだけだ。男子はD4かE4で、女子はG4かA4でやってみよう。低すぎても膨れないしトレーニングにならない。
表声を意識しよう。だけど、喉の力は抜く。そして口から「かめはめ波」を出すイメージで「ハッ」と発声しよう(動画参照)。