取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
「要が歌ってくれたらいいな」っていうのが自分の中ではあったんです(堂珍)
──それではミニ・アルバムのお話を。この『BLUE CHEMISTRY』ですが、しっとりとした大人の魅力が味わえる作品だなと感じました。作り手の想いもあると思うんですけど、受け手の聴き心地まで考えられている気がして、リラックスして聴き通せます。タイトルの“BLUE”という言葉には、どんな意味が込められているのですか?
川畑 ジャズミュージックで象徴される「青」っていう色がイメージとしてありました。僕たちもデビューして23年経ちますし、おっしゃっていただいたように「ちょっと大人っぽい雰囲気のアルバムができたらいいね」っていうところから始めて制作を進めていきました。結果的には新曲が2曲あり、ジャズアレンジのカバーがあり、さらに『THE FIRST TAKE』の2曲もあったりと、それぞれ違う雰囲気を持った聴きごたえのある内容になりましたね。
──1曲目「Play The Game」は、野球中継のテーマソングで、作詞を松尾潔さんと共作されています。どんな流れで歌詞を作っていったのですか?
川畑 野球中継の曲だとわかってましたから、できあがったメロディを聴いて思いついた、できる限りのワードを投げて、それを松尾さんにまとめてもらいました。
──野球という競技や選手のどの部分にフォーカスを当てていきたいと思っていましたか?
堂珍 影になるというか、陽の当たらない部分というのは、めっちゃ大事だなと思っていましたし、僕はわりとそこをたくさんプッシュして投げていきました。そういうストーリー性を歌詞の中で持たせるには、どういう主人公がいいのかなっていうのはすごく悩んだんですけど、曲調が明るいだけに、前向きな言葉だとちょっと逆にコーディネートがうまくいかないんじゃないかなって気がしていたんで。
──確かにミュージックビデオでも、そういう意図を感じさせるディレクションでしたね。
川畑 あそこだ……。
堂珍 ロッカー?
川畑 たまたまだったんですけど、僕もその影というか、見せなくていい、みんなが知らない努力をしている、自分が葛藤している姿を思い浮かべました。僕はワークアウトをやるので、自分と同じようにやっているときの選手の気持ちってどうなんだろう?みたいな。きっと楽しいだけでやってない、結果を残さなきゃいけないって不安もきっとあるだろうし。そういったものをとにかく書き殴って投げました。
──この曲のヴォーカリゼーション、歌唱のほうで強く意識した部分は?
堂珍 スクエアに歌うっていうのは意識しましたね。こういう曲ってテンポ感あるし、うしろでも前でもちょっと目立つんで、そのドンピシャのちょうどいいところでやらないと。あとは、陽の当たらないところも描いていると言っても、明るい曲でもあるので「テンションを上げていかないと合わないしな」っていうところがありました。
──サビでふたりの声が重なるところも心地いいですし、ヒラウタの掛け合いの部分もすごく楽しいですよね。こういった掛け合いについては、事前のディレクションでかなり細かくカチッと決めているんですか? それともレコーディング現場での呼吸みたいなもので決まるのですか?
川畑 現場ですね。コーラスも当初より増えましたから。その場で「こういうのも入れましょう」みたいなことでスピード感を感じることができたりするし、そうやって現場でどんどん足していきますね。
──リードトラックですし、カラオケで歌ったり、カバーしたりしたい人へ、歌いこなすコツを教えていただけますか?
堂珍 縦に合わせるというか、はめるのが難しいのは、《トキメキをいつもさがしている》の部分かな。ただでも……自由に歌ってもらっていいですけどね。
川畑 うん、気持ちよく歌ってもらえればいいです!
──2曲目は「No More」で、これは切ない別れの歌ですね。バックトラックもヴォーカルもグッとレイドバックしていて、ほぼ日本語の歌詞なのに洋楽を聴いている感覚にとらわれました。
川畑 レイドバックはもちろんですけど、メロディの運び方のグルーヴィなところは、すごく大事にしたいなっていう気持ちはありました。流れるような、波打つようなメロディが歌っていて気持ちがいいので、この気持ちよさが聴いてる人に心地よく届けばいいなって。
堂珍 洋楽っていう部分では、ちょうどアイズレー・ブラザーズの話になってましたね。例えばギターとヴォーカルの関係性だったりとかで。「Play The Game」もそうですけど、ビート関係をもっと強くしていくと、どんどんゴージャスなR&Bみたいになっていくから。もともとちょっとフォーキー的なものを目指していて、そこを(プロデューサーの)松尾さんに振ると「うまいことクロっぽくなるんだろうな」というディレクターさんとの話の中で、そういう見積もりがあって。
川畑 でも、レコーディングのときにギターはまだ入ってなかったよ。だから「どこがアイズレーなんだろう?」って(笑)。
堂珍 ああ、エレキってこと?
川畑 そうそう。だから歌い終わって完成したものを聴いたときに、「ああ、なるほど」と。「このギター感は確かにそうかも」みたいな。
堂珍 あと全然細かいことなんですが、最初は下ハモしかなかったんだけど、「たぶんあとでゴージャスになったときに聴きたくなるから、一応上ハモも録っておきましょうか」と追加しました。あとあと足りなくならないように部品を揃えておくっていうのはありました(笑)。歌い方については、この曲は個人的な恋愛観を当てはめるのって難しいかもしれないじゃないですか。自分もこういう苦しい恋愛をしていなかったら「ちょっと気持ちが入りづらいな」とか。やっぱり本人だと余計そういうのが出てくるんで、何かその一部分でもいいし、そういうところから自分でスイッチが入れられるものを見つけていくっていう感じでした。
──3、4曲目はカバーソングです。「さよならいとしのBaby Blues」は安藤秀樹さんがオリジナルで、鈴木雅之さんもカバーしています。
堂珍 もともと好きな曲で、最初はソロのライブでやってみようかなと考えていたんです。それでリハスタに入ったら、「あれ? これはふたりのほうがいいかな」と思って一回収めました。今回カバーの企画の話もあったし「要が歌ってくれたらいいな」っていうのが自分の中ではあったんです。コンセプトが“BLUE”ってこともあり、ジャズアレンジになりましたね。
──「SWEET MEMORIES」は、松田聖子さんが歌った、誰もが知る名曲です。
川畑 松田聖子さんは早い段階からカバー候補としてスタッフの間で話に出てましたね。「こういうのを聴いてみたい」って。僕も正直やりたかったし、誰もが知る曲を歌う難しさって、そこに何かやる意味がある。あとは単純に「ふたりで歌ってみたらどうなるのか?」っていう気持ちがありましたね。
──女性ヴォーカル曲ですし文字通りスウィートな声質で歌われています。女性曲をカバーする際に意識したことはありますか?
川畑 keyは大事ですよね。ひとつ下がれば雰囲気も変わるし、ひとつ上がればまた変わる。
堂珍 この曲は歌詞の始めのほうの言葉の節々で、語尾が《〜わ》ってなるじゃないですか。そういうところですかね。結果的にそこは要が歌ったんだけど、自分が歌うと良い意味ですごいポップスになるんで、それに徹して自分色で潰しました。あと「SWEET MEMORIES」をやるにあたり、改めて「これってどういう曲だったんだろう?」っていうところから勉強してみたんです。ニューミュージックとか、いろんなジャンルの流れがある中で、トップアイドルがあの曲を歌ったという時代の流れなども自分の中で消化しました。それから今まで誰がカバーしているんだろって調べたら、僕が観た中では2人組で歌った人たちはいなかったですね。そういった意味ではふた通りの解釈、アレンジャーも含めて3通りの解釈が、ひとつの音源で楽しめると思います。