上杉 昇、自身のことばを紡いだ全歌詞集発売。制作時のエピソードから自身の歌声についても語る最新インタビュー!

2023.12.21

撮影:前貴文
取材・文:舟見佳子

ファン待望の全歌詞集を発売した上杉 昇。
ツアー会場にて先行販売を行なっていたが、ついに全国発売日を迎えた。
これまで綴ってきた141曲の歌詞と、1曲ずつ紐解くように自身が語る全曲解説付きの大ボリュームな1冊となっている。
そんな「上杉 昇 全歌詞集 1991-2023」の制作時のエピソードを振り返るインタビューを決行。
また、最近の自身の歌声について、喉ケアについても語ってくれた。

最初はどっちでもいいと思っていたんです。最初はね。

──全歌詞集を出すと決まった時はどんな気持ちでしたか?

上杉 昇 ついに実現するんだっていう。単純に嬉しかったですけどね。

──ついにっていうことは、前から何となくイメージしていたってことですか?

上杉 マネージャーからのアイデアで、正確には6〜7年前って感じですね。そのアイデアを聞いて、いつかできたらいいなぐらいな感じで考えていました。自分としては、最初はどっちでもいいと思っていたんです。最初はね。だって、好きじゃない作品も全部入るわけだから。自分ではちょっと納得いってない頃の歌詞も入っちゃうから。それをもう1回改めて背負うみたいな感じもあったんですよね。なので、最初はどうなのかなと思っていたんですけど。でも、すべて自分がやってきたことには違いないし、消せる過去でもないし。自分がやってきた足跡としては、残せるのであれば。それは光栄なことだなと思いましたね。

──不本意だった作品もあったにせよ、物を作ってきた人にとって作品集っていうのは、感慨深いものがあるんじゃないかなと思います。

上杉 そうですね。デビュー当時は本当にあまり歌詞のこと考えていなかったんですよね。それこそヴィンス・ニール(モトリー・クルー/vo)みたいに、他の人が書いた歌詞を歌うっていうのでも、全然OKだったんですよ、俺的には。だけども、長戸さん(当時の所属事務所であるビーイングの社長・長戸大幸氏)に機会をもらって、書いてみて。繰り返し作品を書いて出していくごとに、自分の詞に着目してくれる人もだんだん増えてきて。この曲はこうでしたねみたいなファンレターをもらったり、スタッフの間で何か言われたりとか、当然のことながらやっていく中では評価がつきまとってくるわけで。評価も、割とやりがいを感じられるような言葉が入ってきていたので。やっぱり作詞って、自分の言葉で歌うっていうのは、ある種の強みでもあるんだなと思って。自己表現っていう意味では、もっと広げていけるのかなっていうこともだんだん思い始めて。

──元々洋楽から聴き始めた人って、そんなに歌詞を重要に捉えてないところありますよね。

上杉 はい。だからインディーズ時代もヘベレケ英語で歌ってたりっていう作品もあったし。

──初めて書いた詞がいきなりCD作品になったんですよね。デビュー曲の「寂しさは秋の色」は、生まれて初めて書いた歌詞だったそうで。

上杉 いきなりレコーディング作品になったという。詞を書くノウハウも全部ゼロから教わって書いたんで。最初はとにかくこの宿題を何とか終わらせようっていう感覚でしかなかったんですけど。

──シンガーとして歌うための素材、ぐらいな意識だったのかな。歌うためには作らなきゃって。

上杉 そうですね。あとからだんだん欲が出てきて。何かうまいこと言いたいというか、比喩でも何でもいいんですけど、人が感心するようなことやフレーズを入れたいなと思いだしたりとか。

──物を作るっていう意識が大きくなっていったってことかな。

上杉 はい。そういういろんな反応とかが言葉の表現に対する意識を育ててくれた、みたいな。「もっと強く抱きしめたなら」だったら、“この街に降りだした雨さえ 君を想う時やわらかな優しさになる”っていう詞があるんですけど、10代そこそこでこんなこと書いたんだなって。今でもそういうのは、うまいこと言ったなと思いますけど。

──言葉を音として聴く時と活字になった時って感じ方が変わりますよね。

上杉 実は活字での表現もけっこうこだわってるんですよ。CDの歌詞カードにしても“ここで改行”とか、“ここは鍵括弧をつけてね”とか。人から聞いた言葉とかには、絶対鍵括弧をつけてほしいとか。

──この行とこの行は発言者が違うよ、とか。

上杉 そうです。

──音で聴くより先に、この歌詞集で最初に詞を知る人もいるかもしれないですよね。

上杉 詞だけを読まれるっていうのは、ちょっとこっ恥ずかしいものもありますね。音ありきで作っているものだし。やっぱり音数の制約とかそういうのがあると、表現も全然変わってくるだろうし。それが歌詞の面白さかもしれないですね。

──アルバム曲などを深く聴いてない人も手に取る可能性があるというところで、これから詞集を読む人に対しては、どういうところを読んでほしいとか気づいて欲しいですか?

上杉 まずは、ソロになってからの詞と、昔のプロデューサーのもとでやっていた頃のものとが、どのように違うかっていうのを、見てほしいですね。

──WANDS時代、al.ni.co、猫騙、ソロ。スタンスやサウンドが変わると歌詞のアプローチも変わるし、それは興味深いですね。同じ1人の作詞家が発した言葉だけど、表現も変わってくる。

上杉 そうですね。

──今後は、またさらに変わっていくかもしれないですけど。

上杉 まあね、生きてればね。変わりますよね。

──トークイベントなどの先行販売で既に詞集をゲットしているファンの方も多いですけど、リアクションはどうですか。

上杉 いや、全然見てないからわからないです。ファンの人のそういうオンラインでの発言とか。X(Twitter)もやってないし。

──反響は楽しみじゃないですか?

上杉 そうですね。人づてに聞ければ、一番いいです。いい噂だけ(笑)。

──時代によっていろいろなテーマを歌ってきていますが、硬派な作品も多いですよね。社会問題や政治的なことを取り上げていたり。一般的にそういうイメージって持たれていると思います?

上杉 ファンの人は知っているだろうけど、一般的には持たれてないと思います。どうしても「スラムダンク」(テーマ曲の「世界が終るまでは•••」)のイメージぐらいで認識しているリスナーも多いと思うので。特に海外の人たちは「スラムダンク」以外の曲を全然知らないですよね。

──アルバム『The Mortal』(2018年発表)は、日本の先達に敬意を表して書かれた詞も多く収録されていましたが、そういう内容を歌詞で表現するアーティストって多くないと思うんです。特に日本のポピュラー音楽では、素敵なものやラブソングだったりが題材とされることが多いので。

上杉 最近、海外から見た日本という国のイメージっていうのが、日本人が思ってる3倍ぐらいアメリカの属国って思われているらしいんですよね。世界からは、日本っていう一つの国として認められてないというか、アメリカのおまけ、アメリカの子分みたいに思われているという。

──アルバム『Dignity』(2021年発表)では日本人としての誇りとか、それぞれの国の人の誇りみたいなものも歌詞に書いてますね。

上杉 はい。だけど、一般的にはそういう内容を歌っているアーティストだとは思われてないんじゃないかなとは思いますね。単なるわがままシンガーとは思われているとは思うんですけど。好きなことをやるためにWANDSをやめちゃって、とか。それだけでも十分わがままシンガーだと思われているのかな。

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