【インタビュー】「伊東歌詞太郎の歌には“SOMETHING”がある」。新作『魔法を聴く人』から紐解く伊東歌詞太郎のヴォーカル・ストーリー

2023.11.8

取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)

「先生と生徒」ラストサビの歌の難しさ

──最新アルバム『魔法を聴く人』は昨年11月から連続配信リリースされた“Storyteller”シリーズを始め、ストーリーをテーマに、10曲の物語が詰まっているそうですね。改めて、どんな1枚になったと感じますか?

伊東 “Storyteller”シリーズは4曲あり、ストーリーを伝えていくというテーマで作っていたんですね。それが今回のアルバムのコアな部分にあるんです。この作品を作るには、本当に紆余曲折がいっぱいあって、でも紆余曲折って、最終的に作品ができあがったときには「いろいろあったほうが面白かったね」と言うことができて、ストーリーになる。そういう意味でも“ストーリー”という言葉が、このアルバムではすごくキーになったんじゃないかなと思います。

──曲順にも起承転結のストーリーを感じました。例えば中盤の「革表紙」、「都会の風景」、「ランダムウォーク」あたりは落ち着いた曲調で、リスナーの耳のことをちゃんと考えていたり。

伊東 そうですね。全部のアルバムでそうしているんですが、例えばライブでこの10曲のセットリストを組むとしたら、どんな順番だと一番みんなの心に残るだろうかと考えていて。マスタリング中も「この曲とこの曲の間は何秒か」までこだわって決めています。

──アルバムのラストに「Storyteller」を持ってきているところも気になりました。《今見えた希望は離さず ずっとずっと歩いてく》と、強い決意を感じる1曲です。

伊東 『Storyteller』ツアーを今年の前半に行なっていて、そのツアーでは「Storyteller」は1曲目だったんですけど、今回はアルバムの核となるので、1曲目か10曲目だと思ったんです。でも、ただの表紙で終わらせたくなかったという想いが強くなって、もう10曲目しか考えられなかったので、まずここを決めました。

──ヴォーカルの表情が全曲異なっていて、どれも難しい歌だと思いますが、特にチャレンジングだった曲はありますか?

伊東 うわ〜そうですね〜。チャレンジングというか、きっとみなさん歌えないんじゃないかと思うのは、「先生と生徒」の最後のサビ。この息が続く人ってなかなかいないと思います(笑)。僕、レコーディングに向けて練習をしたら良いモノができないと思っているから、一切歌わないで当日を迎えるんですけど、そこで《大切な君へ ありのままで/受け止めて欲しいのさ/傷をつけてしまっても/後悔なんてしないでよ/悲しくて泣いた君を忘れちゃダメだよ/大切な君へ》までブレスがほとんどないと気づいちゃって。もう無理じゃない?ってなったんです(笑)。ただ、今までもそういうことはあって、乗り越えられなかったことはなかった。今回は1テイク目で「無理!」ってなって、2テイク目は頭を使って挑んだけど、ダメで。3テイク目はもうちょっと考えて、呼吸に関してのテクニック的なもの、ヨガみたいなものをやって歌ったら、いけました!

──カラオケで挑戦したい方へのアドバイスが欲しいです。

伊東 《大切な》、《君へ》、《ありのままで》って歌ったほうが良いよって思います。

──ロングトーンも特訓されていますか?

伊東 いや、したことはないんですけど、やっぱり歌を歌うことがすごく大事なんじゃないかだと思うんです。歌う行為を繰り返すことによって、ちょっとずつ筋肉の層が厚くなって、しなやかな筋肉ができていくような。なのでロングトーンの練習というよりは、さっきみたいな無理だと感じるフレーズや曲を歌い続けてできるようになっていくんじゃないかなと僕は思ってます。

──伊東さん作詞作曲の「先生と生徒」と、タナカ零さん作詞作曲編曲の「senseitoseito」は、まったく異なる世界観の楽曲ですが、タイトルの音の聞こえが同じですね。ここには何か意図があったのですか?

伊東 「senseitoseito」は、“Storyteller”シリーズ4作のうちのひとつ。「Storyteller」は伊東歌詞太郎が作詞作曲の僕らしい曲だったので、続く3つは、僕が絶対書かないであろう物語を作りたいと思ったからこそ、タナカ零さん(「senseitoseito」)、烏屋茶房さん(「Virtualistic Summer」)、そしてマキシコーマさん(「STARLIGHT」)にお願いして。初めて「senseitoseito」のデモを聴いたときは、なんじゃこりゃ!って思いましたよ。すごい曲きた、でも確かに絶対僕は書けないなと思ったんです。「senseitoseito」というタイトルですけど、《線 生と、聖と、》という作者の色があって、TeacherとStudentではないんですよね。

でも伊東歌詞太郎を昔から知っている人だったら、僕が音楽で食えなかったとき、家庭教師や塾講師をやりながら生計を立てていたことを知っているから、センセイトセイトって音を聞いたときに、そういう曲を考えていたのではないかなって。それで「先生と生徒」のほうを書き始めて。ちょうどそのとき、昔、僕が教えていた生徒のお母さんから、その子が引きこもりになってしまったという連絡が来て。で、その子の元に会いに行って、車で星を見に行ったんです。そういう経験も重なってできあがった流れでしたね。

──作詞作曲はスルッとできますか?

伊東 できますね。特に作詞に関しては、30分以上かかった曲ってないんですよ。

──メロディと歌詞はどちらを先に?

伊東 同時に作っています。今みたいにインタビューを受けている時や、終わって家に帰る間も、世の中のこと、周りのこと、自分のこと、音楽のことをずっと考えているわけじゃないですか。となると、書きたいことは自分の引き出しの中に沢山あって、曲を作る時は、それを開けているだけなので。言いたいことは、サビのメロディとともに出てくることが多いです。

──今作の作曲された中でイレギュラーな作り方だった曲はありますか?

伊東 「革表紙」(TVアニメ『虫かぶり姫』エンディングテーマ)はあっという間に、それこそ5分程で書きあげたので、ある意味イレギュラーかも。そのとき読んでいた本があって、それが『虫かぶり姫』の内容とものすごくリンクしてて。その本にすごく感銘を受けたので、それにヒントを得て、上から下まで本当に5分で書けた楽曲で、思い入れがあります。あとは「singer.song.writers.(alpinist.)」もイレギュラーかな。最初はBメロがなかったんです。E.S.Eさんと一緒に作業をしていく中で、「ちょっと今Bメロが頭に浮かんでるから、家帰って打ち込んでいい?」って言われて。自分としては「Bメロが良かったら入れる、もとのままのほうがいいって思ったらなしにしよう」って言おうとしていたんです。次の日デモを聴いたら、なんならBメロが一番気に入ってしまって、いや〜天才です、ありがとうございます!って思いました。Bメロがアドされたから、この曲は作曲編曲がE.S.Eさんと僕の連名になっています。

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