横山 剣(クレイジーケンバンド)インタビュー

【インタビュー】横山 剣(クレイジーケンバンド)、アルバム『世界』のレコーディング&制作秘話と理想のヴォーカリスト像を語る。“人間の声は最高の楽器”

取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)
ライブ写真撮影:本多亨光(ダブルジョイレコーズ)

言霊ってのはすごく強いので、意味を超えちゃうぐらいです

──「宇宙ダイバー」の歌唱では裏拍もポイントだと感じるのですが、歌い方で意識していることはありますか?

横山 天然で出てくるんですね。不良音楽っていうのは、裏を感じれるかどうかがポイント。昔はダンスでもちょっと拍をずらしてうしろにする文化があって、そういうものの癖もあるんじゃないかと思うんです。黒人のロックンロールって、ちょっとヴォーカルがうしろに行ったりしますよね。だから昨今のR&Bもそうだけど、ちょっと拍ずらしって言ってもいいぐらいうしろにずれてる。裏を感じるのはもう天然で、気がついたら身についてた感じです。

──「Do it!世界は愛を求めている」は脳内にあったメロディということですが、今回収録することになったきっかけはありましたか?

横山 たまに古いメロディが脳内で蘇って鳴ったりするんですけど、その典型で。90年代と80年代後半は、このコード進行でけっこう作ったんですね。ソウルミュージックとファンク系だけど、ちょっとUK的な気分が当時あった。80年代後半から90年代前半にロンドンとかよく行ってたんで、それでちょっと思い出したんです。

それに対してサードプレイスのPark君くんが、親子ほど歳が違うのに、その脳内音楽をすぐに推察して、“ストリングスとかこんな感じじゃないですか?”みたいな。“なんでわかるの?”って。シンセの感じとか、その頃生まれているかわかんないぐらいの歳なのに、なんかわかっちゃうんですね。不思議ですよね。

──そういったストックがたくさんあるんですね。

横山 これは、脳内ストックですね。なので録音物はないんです。録ってないのに思い出すメロディはこのアルバムの中でも何曲かありますけど、なんかの拍子に思い出して鳴るんで、運が良ければここに至るんですけど、そのまま忘れちゃってスタジオに着くまでに残念ながら消えちゃうこともあります。“記録より記憶”ってのが気分で。せめて自分だけにはウケてないと、聴く人にはもっとウケないと思って。

──「東方旅館 – Oriental Hotel -」は実在した横浜中華街のホテルの名前ですが、着色してイメージを膨らませていったのですか?

横山 実際本当に汚いホテルなんですけど、中華街に実在して、東方旅館って書いてあるんです。主に中国から来たコックさんなんかが使ってたみたいですけど、ここからイメージを膨らませて。場所も中華街じゃなくて海の側のヤバヤバなホテルというイメージで。ゲストハウスみたいなイメージが浮かんだんで、浮かんだものを忠実に再現してできたんですね。

──ヴォーカルはサビのアタック感も特徴的ですね。

横山 歌いにくいって言われるんですけどね。(ハネて歌うところは)ちょっとしゃくってますね。自分にとっては放っとけば出てくるので得意なことなんですけど、逆に言うとみんなが簡単にできることが僕はできなかったりする。自分にとって苦手意識のあるものは、スクエアなもの。ハネだったり、裏とかはできるんだけど、いわゆるエイトでハネないで歌うのはすごく苦手なんですよね。

──「マンダリン・パレス」は冒頭でアルバムのキーになった楽曲と仰っていましたが、どんなふうに生まれたのですか?

横山 これはサビのメロディが浮かんだときに、“やった!”と思ったんです。自分の中の大ヒットなんです。今まで出そうで出なかったメロディが出てきたみたいな。

──タイトルは最初のほうに決まっていたんですか?

横山 最初は「エアーコンディショナー」ってタイトルだったんです。でも、実在する曲のタイトルにかぶせるのが好きで、平山みきさんに「マンダリンパレス」っていう京平さん(筒美京平)の曲があるんですけど、あえてそこに当てました。オリエンタルなリゾート感みたいなものを、タイトルを変えて出そうと。世界観はエアコンがキンキンに効いたような気持ちいい感じ。

──「お湯」は歌詞も相まってとてもキャッチーです。前回のインタビューで“曲をハナモゲラ語から作ることが多い”と仰っていましたが、「お湯」はそういったスタイルでできていったのでしょうか?

横山 そうです。ハナモゲラ語ですね。《お湯》だけはなぜか浮かんだんですけど、その“お湯”はホットウォーターのお湯じゃなくて、“FOR YOU”とかの英語だったんですね。適当な英語だったんですけど、日本語にしたいなと思って“お湯”にしました。

──ラストのサビの《お湯》はヴォーカルのニュアンスにも変化がありますが、レコーディングではいくつかのテイクを録って選んでいるのですか?

横山 もうひと展開欲しいっていう気持ちはあったんですけど、やってるうちにそうなっていきました。録り方としては最初から最後まで歌わずに、こっからここまでで録って、まずいところは止めてもう一回やり直して……って感じで。あとは飛ばしてどんどんいっちゃうんだけど、気持ちよく歌ったら止まらないでそのままいく。でも、ちょっといまいちと思ったら止めて、“ここだけ直します”みたいな感じ。

一番困るのは、レコーディングは呼吸のことを考えないでちょっとずつ進めるからうまくいくんだけど、ライブのときに“あ、息を吸うところがない!”ってことになるんで、もうちょっと考えないといけないとは思うんですけど(笑)。

横山剣 クレイジーケンバンド

──ライブでは歌のニュアンスが毎回変わるのも魅力だと思うのですが、音源にするときのゴールとしてこだわっている部分はありますか?

横山 ちょっとハシったなと思ったら画面上で直してもらったり、何ミリかうしろにしてもらったり。昔はそれができなかったんで、1回録り直すたびに大ひんしゅくだったのが、今はそういうプレッシャーから解放された。いい歌が歌えたんだけどタイミングが悪いっていうときは、直したほうがいいじゃんっていう感じなんです。ところが、それはそれでキリがなくなっちゃってですね……。味まで殺しちゃう場合もあるので、あんまり直しすぎってのも考えもんだなって。便利ぐらいのレベルにして、必要以上に直さないようにしてます。

──「Sweet Vibration – CKB tune -」は待望のセルフカバーになりますね。

横山 これはレコーディングしたのは初めてなんですけど、ライブでずっとやってた曲です。神崎まきっていう女の子に1回メロディだけ提供したものはまったくアレンジも歌詞も違うんですけど、それを自分たちで本来やりたかった感じにしました。89年にZAZOUってバンドでどうにも消化できなくてですね……すごく悔しい思いをしたんですけど、今のCKBだったらうまくできるなと思って。

──98年の自宅録音シリーズ第2集に収録されている「スゥイート・ヴァイブレーション」とは近いアレンジなのですか?

横山 それには入ってますね。バージョンはわりとそれに近いです。歌詞は原型をちょっとブラッシュアップしたぐらいで、それほど変わらないですね。歌詞は意味を考えないでハナモゲラ語に近いぐらいメロディと一緒に出てきた言葉だったんです。もうその言霊ってのはすごく強いので、意味を超えちゃうぐらいです。

その言葉じゃないとうまく発音できないとか、うまくメロディを乗っけらんないとかだったんで、意味のある歌詞にしようと思ってもなかなか……。どっちを優先するかってときに、“ダマ”を優先しようってなりました。洋楽を聴いたときにグッと来るのって、意味とかじゃなくて響きだったりするんで、そういうことですね。

──最初に出てきた子音や母音を、歌詞を変えることで崩したくないと。

横山 そうですね。フロウというものに置き換えれば、そういうことなんです。それが非常に重要です。甲本ヒロトさん(ザ・クロマニヨンズ)も同じようなことを言ってらっしゃって、“そうだよな”って思ったんですね。

──いつかこういうアレンジでリリースしたいという思いも強くずっとあったんですね。

横山 ずっと強かったんですね。やっとできる時期になった。時間がかかりすぎですけど、やっぱりZAZOUのときに出さなくてよかったです。編成も全然違うし、メンバーの反対もあったし。僕のマネージャーだけは気持ちが合ってたんですけど、マネージャーが演奏するわけじゃないので、そのときはすごく孤独でしたね。

──「Sweet Vibration – CKB tune -」は、1曲の中で特に声の質感を変えているような印象を受けました。

横山 そういうのはちょっと意識してますね。パーカッシブに。この音色でいきたいとか、ここはタイトで、ここはちょっと曖昧でいいやとか。正解は見えないんですけど、自分的にそうしたいっていうのがあって。洋楽を聴いて感じた“カッコいい”とか“グッとくる”っていうのは、意味よりもそういうところだったりするので。

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