横山 剣(クレイジーケンバンド)インタビュー

【インタビュー】横山 剣(クレイジーケンバンド)、アルバム『世界』のレコーディング&制作秘話と理想のヴォーカリスト像を語る。“人間の声は最高の楽器”

取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)
ライブ写真撮影:本多亨光(ダブルジョイレコーズ)

人間の声は最高の楽器だなって、ハモリをつけたときにとっても思います

──「残り香」はAyeshaさんの歌唱ですが、ヴォーカルを決めたきっかけはありましたか?

横山 これは僕のプロデュースで、作曲もお願いしようと思ったのも僕の判断でした。全部Ayesha本人の作詞で、作曲はPark君に。このバックトラックは僕が選んで、Ayeshaに歌わせたいっていうのを決めました。それを生ドラムでやるか、打ち込むかギリギリまで迷ったんですけど、白川くんがやる気満々で生ドラムでやってみようよって言うので、そうしようってことになりました。

──Ayeshaさんのヴォーカルを録るときは、剣さんが声をかけたりされるんですか?

横山 この曲に関してはPark君がメロディを作ったので、最終的に聴いて気になるところがあれば言おうと思ってたんですけど、まったく問題なく満足のいく仕上がりだったんで、何も言わないで終わりました。

──「Sweet Soul Train」のヴォーカルはスモーキー・テツニさんですね。

横山 基本的な作詞はテツニ本人がやって、僕はメロディだけを提供しました。テツニが最初に歌詞を作ってきたときに字余りみたいになってて、僕がテツニの書いた歌詞で歌ってみたんだけど、これじゃダメだろうってことで、もう少し文字数を減らしてくれとか、譜割り通りに収まるように書き替えてほしいというリクエストを出しましたね。

──Ayeshaさんとテツニさんの声の魅力を、剣さんのお言葉で教えてください。

横山 まずAyeshaの声は透明感があって、アジアンな表現やエキゾチックな表現がとってもイイ感じで出てくる。あまり暑苦しくないというか、グッと想いは内面にあるんですけど、想いを込めたような感じじゃなくサラッとしてる。僕はシャーデー(シャーデー・アデュ)が好きなんですけど、シャーデー的に涼しく表現できるシンガーだなと思って。彼女はパキスタンのハーフなんで、やっぱりそういう血みたいなものが出てくるところにエキゾチックな魅力が感じられますね。

テツニは、なんつうかね、ジェームス・ブラウンが“ゲロッパ!”って言うと(合いの手で)“ゲローラ!”って声を出すボビー・バードって人がいるんですけど、テツニはこのボビー・バードと同じような声が出るんで、なかなかこういう日本人はいないなって。ブラックミュージックが得意な方は、鈴木雅之さんとか久保田利伸さんとかたくさんいらっしゃいますけど、このワイルドでダーキーな声を出せるシンガーはなかなかいなくて、貴重な声を持つシンガーだと思ってますね。

──そんなテツニさんのリードの声は、カラッとした歌い方をされてるように感じました。

横山 本来のアニマルな歌い方をしないで可愛く歌ってますけど、曲調が曲調なのでそうしたと思うんですね。本当はこういう曲調よりも柳ジョージさんの「雨に泣いてる…」のような曲が本領発揮となるんですけども、こういう可愛い曲もあえていいんじゃないかなと思いまして。そしたら本人も『アメリカン・グラフィティ』って映画が好きで、そういうドリーミーな感じにやりたかったって言うので、何か一致したのかなって。

──説明できない懐かしさというか。

横山 説明できない、何か思い出せない記憶みたいなものを揺さぶる声ですよね。とってもいい歌い手さんになってきたなと。前もよかったですけど、特に最近色気も出てきたし。テツニとAyeshaの歌にすごく僕は救われていますね。

──「TERIYAKI」は大好きなコード進行で作ったという。

横山 マーサ&ザ・ヴァンデラスの「Heat Wave」のコード進行で、何曲も作ってるうちのひとつになりました。これ、なんで歌詞に全然TERIYAKIが出てこないのにTERIYAKIかっていうと、《上を向いて歩こう》なのに「Sukiyaki」なので、じゃあこれ「TERIYAKI」だって。で、コードは違うんですが、柳ジョージさんの「本牧綺談」の《まどろむ心に》のあとにギターが入ってるんですけど、これが「TERIYAKI」にピタッとハマるので同じような音色とメロディでオブリをくっつけました。あえてこれはもう、つつみ隠さずもそのまんまオマージュで弾いてもらいました。昔、横浜のレジェンドバンドがみんなやってた手法だったんですけど、あのギターの音はレスリー・スピーカーで流したんです。

──本物を持ってきたんですか?

横山 はい。シミュレーターじゃないんですよ。シミュレーターは音色を変えたりいろいろできるんですけどね。変な利便性よりも、サウンドの“ダマ”で。

横山剣 クレイジーケンバンド

──「レコードの日」は作詞の名義が横須賀くらげですね。

横山 甘ったるい歌詞を書き過ぎちゃったときは、横須賀くらげ。1stアルバムのときはもう恥ずかしくなっちゃうんで横須賀くらげにしたんですけど、自分なんですけど、今回もそうで。結局言っちゃうんですけどね(笑)。言っちゃうんだけど、ちょっと恥ずかしいですよっていう主張はしておかないと。

──「レコードの日」は鍵盤を弾いていてフレーズが浮かんだということですが、『世界』でほかにも鍵盤から生まれた曲はありましたか?

横山 「夜は千の目を持つ」のAメロ、Bメロは鍵盤からだったと思うんですね。あと、「お湯」もそうですかね。「TERIYAKI」、「東方旅館 – Oriental Hotel -」、「Do it!世界は愛を求めている」とか。バックトラックありきで作ったのが、「SHHH!」と「マンダリン・パレス」ですね。バックトラックありきで作るようになったのは、ヒップホップやレゲエの人とコラボレーションしたときに、トラックだけ与えて“この小節にリリックとメロディを乗っけてください”って注文が来て、バックトラックがあるとより歌いやすいと思ったから。

もっと古くから言うと、小学4年生ぐらいのときに『円楽のプレイボーイ講座12章』っていうインストゥルメンタルのレコードがあって、それにメロディを乗っけたりしてたんで、バックトラックがあるとすごくやりやすい。欠点は、サビで違うコードに行きたいのにレコードだと行かないってこと。それがPark君くんが作ってきたバックトラックならサビで違うコードに行きたかったら作り直せるんで、かつてのヒップホップみたいなレコード縛りじゃないっていうのは自由ですよね。

──コーラスも素敵ですが、どんな音の積み方をイメージしていったのですか?

横山 ちょっとテンションを入れるのが好きなので、テンションが鳴ってんだけど具体的に鳴んないときはPark君に頼って、“この音にもうちょっとこういうテンション入れたい”って言うと、その積みを変えてくれるんですね。トップノートはこれで行きたいけど、その場合は中のコードを一部変えなきゃいけないっていうときも、そういう面倒くさいことをやってくれたりとか。懲りずにいろいろやってるんです。

──「レコードの日」は下が厚めのコーラスだと思うんですけど、それも剣さんのイメージで決めているんですか?

横山 カラー的に、色合い的に、そういう注文をしてます。3声で入れてみて足りないと思ったら足していくこともありますし、入れたものを消したりすることもありますね。それはザ・ビーチ・ボーイズの影響ですね。フォー・シーズンズとか、コーラスものが僕は大好きなんで。やるとなるとすごく大変なんですけど、人間の声は最高の楽器だなって、ハモリをつけたときにとっても思いますね。

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