【インタビュー】竹内アンナ、そのギター同様にカラフルな歌声を響かせた、5th E.P『at FIVE』を語る。楽曲の主人公に“寄り添える声”の魅力とは?

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)

どこか“俯瞰で歌ってる感じ”ではあるかもしれないですね

──今回のEPに、この5曲を選んだポイントは?

竹内 “めちゃくちゃ絶対この5曲!”みたいに考えたわけじゃなくて、私としては結果的にこの5曲が集まってきたっていう印象です。というのも、今作で5枚目になるこのEPシリーズは“いろんな竹内アンナを見てもらう”というコンセプトのもとやっていて、それは“そのとき私がやりたいことを出していく”っていうものなんです。この『at FIVE』も、その制作時に私が今やりたいことのデモをどんどん出していたら、結果的にこういう5曲が揃ったっていう感じでした。だから、そこまで計算したものではないんですけど、並べてみると曲が持つ色合いとかも含めて、“バラバラだけど、ちゃんときれいに繋がったな”って思います。

──“この曲が軸になるかな?”といった感触はどこで?

竹内 配信の3曲は同時期に制作していて、それぞれに全然違ったカラーを持っているので、じゃあ『at FIVE』のリードにする曲は、このタイミングでまた改めてアコギを前面に押し出した曲、バチバチな1曲を作ろうっていうところで「WILD & FREE」ができて。最後に「生活 feat. パジャマで海なんかいかない」ができたっていう順番ですね。

──フルアルバムは、もう少し“コンセプチュアルなものを”っていう考えですか?

竹内 そうですね。アルバムのほうは、前回の『TICKETS』だったら「旅」というテーマを持って、“いろんな景色とかいろんな感情を旅する”みたいなもので作りました。アルバムは、いろんなサウンドは入れてるんですけど、バラバラになり過ぎないように気をつけていますね。でも、このEPシリーズに関しては、私もスタッフも“実験的なことを何でもやろうよ”みたいな考えでやってるので、見事にバラバラになったなっていう感じなんですけど(笑)。

──1曲目の「WILD & FREE」は、確かにアコギもバチバチですが、いろんな曲がミックスされたような展開の多い楽曲ですよね。作曲の軸としてはどこが最初にあったんですか?

竹内 この曲は《Da da da…》のリフが最初にできました。展開が多いっておっしゃっていただいたのは、まさに“違う2曲をくっつけて作った”からなんです。だから1回しか出てこないパートがたくさんあったりしてジェットコースターみたいな曲なんですけど(笑)。でも、特徴的なリフのおかげで、すごくまとまりのある、疾走感のある曲になったかなって思います。

──クロマチック(半音)進行を使った印象的なギターリフですよね。

竹内 アコギをメインに出したかったので、何か面白い、キャッチーなリフないかなって探してて。このリフありきで1曲作りました。そのあともう1曲作ったんですけど、そっちはラップパートのほうのリフかな。それが「どっちも面白いね」ってなったので、くっつけちゃいました(笑)。

「WILD & FREE」

──もともと違う曲だったということは、異なる設定のヴォーカル、世界感の違う歌い方が存在していたのでしょうか?

竹内 くっつけて1曲にしたあとは、まとまったひとつのお話になるので主人公自体は一緒なんです。ただ、私はよく曲の中でラップをするんですが、どの曲に関しても“ラップのところだけは別人格を置く”っていう歌い方にしています。レコーディングもラップだけは別に録ったりと、頭を切り替えていくことが多いですね。なんかラップをするというよりも、言葉を畳みかけるっていうイメージで歌っていて。言葉を畳みかけたいときって、“感情が沸騰しているとき”だと思うので……。言葉にするのは難しいんですが。

あと、私は歌詞を書く前にショートストーリーを書くんです。歌詞は自分の経験をもとには書くことが多いですけど、自身の経験から直で歌詞に書いちゃうと、すごく自分目線になっちゃう……主観的になっちゃうので。そうなるとピンポイントにしか届かなくなっちゃうから、それは避けたいなと思って、毎回自分とは切り離した主人公を置いてお話を書くようにしています。それで考えると、どの歌も“すごい入り込んで歌ってる”というよりは、どこか“俯瞰で歌ってる感じ”ではあるかもしれないですね。

──竹内さんの歌を聴いていると、俯瞰している様子も、よくわかります。

竹内 良い意味でちゃんと距離を置いて俯瞰しつつも、“もし私がこの主人公だったらどんな気持ちになるだろう?”みたいに共感しながら歌ってる。だけど、入り込み過ぎないようにも気をつけながら歌っているところはあるかもしれないです。

──それは音楽をやっていて身に付いてきたものなのか、性格的なものなのでしょうか?

竹内 もともと文章を書くのが好きだったので、何となくストーリーを書き始めたんですけど、それが自分に合っていたんでしょうね。続けているうちに、歌詞の中で“好きな距離で見られる”ようになってきた気がします。“天の視点から見たい”と思ったら、そういう気持ちで見られるようになったし、逆に“(主人公の)隣にいたい! それぐらいの近い気持ちで見たい”と思ったら、そういう風に見られる。曲作りを重ねるごとに、その解像度を上げられるようになった感じがします。

──非常に興味深い話ですし、セルフプロデュースが熟成されていく様子が感じられます。2曲目の「サヨナラ」ですが、こちらはエッジヴォイスが魅力的ですね。

竹内 今そう言っていただいて“ああ、そうなんだ”と思ったんですけど、これは何ヴォイスで……みたいなことをまったく意識したことがなくて(笑)。たぶんそれも俯瞰して見たときに、このお話の主人公は、このパートではきっとこんな気持ちだろうな。すごい落ち込んでるよねって考えるんです。だから、ちょっと低めのトーンで息多めで、“ため息ついているような感じで”となったので、そういう歌い方になっているっていうことなんです。この曲全体として、ちょっと悲しく切ない恋愛の歌なので、絞り出すような歌い方はすごく意識しました。

──失恋が身近に迫っている切ない心情を歌った曲ですが、最後の歌とピアノだけになるところでは、また違った声のトーンになっているように感じました。

竹内 これ、実際に友達から聞いた話をもとに書いているんです。「別れちゃうってわかってるけど、思い出すのはきれいなことばかり」って……。すごい切ないなって思ったんだけど、落ち込んでる友達に、私は“やっぱり前を向いて元気になってほしい”とこの曲を作ったので、大サビまでは切なく絞り出すような歌い方だけど、最後は“ちゃんとこの曲の主人公が前を向いていきますように”って、どこか吹っ切れた感じをすごく意識しました。“次へ行こう”みたいな、切なさの中にも希望を感じられる歌い方。だから、それまでよりはトーン的にはちょっと上げたつもりではあります。

──その前の転調部から“前向き感”がありますね。

竹内 そうですね。そこら辺からちょっとずつブーストしていって、最後は“もう完全に吹っ切れて、前を向いて歩いていく”みたいな。

──さっき話に出た、寄り添う距離感ですね。

竹内 はい。まさにこの曲はそんな感じです。主人公……友達のすぐ隣で見てる私が、“きっとこんな気持ちだよね”みたいに思いながら歌っています。

「サヨナラ」(Lyric Video)

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