【インタビュー】ひとみ(あたらよ) 1stアルバムに詰め込んだ多彩な歌唱表現。進み続ける中でも、ブレない自分の「芯」

取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)

“私ここ叫んでみたいんだよね” 新たな表現を詰め込んだ最新アルバム

──今回のアルバム『極夜にして月は語らず』の“極夜”というワードはどこから出てきたんですか?

ひとみ バンド名の“あたらよ”が、(明けてしまうのが惜しいほど美しい夜という)夜関連の言葉なので、今回も夜関連で探してたんですけど、『夜明け前』を EPで使っちゃったので、そこからいきなり夜が明けるのはまだ早いなと(笑)。夜が明けない微妙な時間の言葉を探していた時に“極夜”という言葉を初めて知って、面白いなと思って。

“白夜”っていう一日中太陽が昇ってる日があるんですけど、“極夜”はその逆で、太陽が昇らない日のこと。早朝明け方ぐらいの薄明るい感じがずっと続いていて、でも月は見えないらしいんです。月は見えないけど、でも確かにそこにあって、佇んでいる。それが静かに寄り添うようなあたらよの楽曲にリンクするなと思い、タイトルに決めました。

──収録曲にも「極夜」というタイトルの曲がありますね。

ひとみ これはまーしーがデモを持ってきた曲なんです。あたらよの曲の作り方は、私が弾き語りで作った歌とアコギ、または歌とピアノだけのデモにみんながアレンジを乗せるという方法と、まーしーがドラム、ベース、ギターを作ったデモに私が詞とメロディを乗せるというふたつの作り方があって。この曲は、まーしーがデモを送ってきた時点でもう「極夜」ってタイトルがついてたんですよね(笑)。

──どっちが先に決まったんですか?

ひとみ アルバムのタイトルが先です。

──じゃあ、アルバムのテーマにインスパイアされた部分もあるかもしれないですね。

ひとみ たぶんそうだと思います。あと、まーしーから「極夜」は、アルバムに収録されている「祥月」のアナザーストーリーといいますか、繋がってる感じで書いてほしいと言われていて。「祥月」もまーしーがデモを作ってるんです。

──疾走感溢れるロックサウンドの中で、ひとみさんがファルセットで切なく歌うサビも印象的ですが、高いメロディラインをというこだわりもあったんですか?

ひとみ それは特にはなかったんですけど、まーしーがデモを作ったので、私が作る曲よりもキーが高かったんですよね。浮かんできたメロディも高かったので、妥協して低く歌うよりはいいかなと、頑張りました(笑)。サビはファルセットだけど弱くならないよう、しっかり息を吐き切ることに気をつけました。あと、この曲は息を吸うタイミングがなくて、ブレスも苦戦しましたね。

──一方で「outcry」は、オーケストラサウンドとひとみさんの歌声が混ざるハーモニーが美しいです

ひとみ 1回やってみたかったんですよね。この曲は壮大なイメージで作ろうというのがあったので、このタイミングでチャレンジできて良かったです。聴いてみてめちゃくちゃいいなって思いました。自分で言うのもあれですけど(笑)。

──途中で叫び声が入っているような気がしたんですけど……。

ひとみ はい、叫びました(笑)。普段、レコーディングは1日でヴォーカル録りも含め全部やっちゃうんですけど、この曲はストリングスやピアノなどいろいろ入れたので、楽器隊だけ先にできあがって、後日ヴォーカル録りだったんです。その間、デモを聴いているうちに、頭の中で叫び声が流れたんですよね(笑)。あそこはギターも上のほうまでキーンって行くんですけど、そこで叫び声が流れたらギターと馴染んで、曲の中の苦悩や葛藤が表現できるなって思って。レコーディング当日、「あの〜私ここ叫んでみたいんだよね……」って話したら、みんなまったく想像ができなかったみたいですけど(笑)、いざやってみたら「おお〜いいじゃん、いいじゃん!」と言ってくれて。

──表現へのこだわりを感じます。「嘘つき」にも「10月無口な君を忘れる」のサビのフレーズが入っていますね?

ひとみ この曲は、制作段階でスタジオ練習をしていた時に、たなぱいが、“この曲ってなんか「10月無口な君を忘れる」の男性目線みたいだよね”ってポロッと言ったんです。じゃあこの曲のサビに「10月無口な君を忘れる」のサビを重ねたらめっちゃ楽しそうじゃん!と案を広げていって、気づいたらアンサーソングになっていたんです。

──アルバムの幕開けを飾るのは「交差点」です。ひとみさんの歌とアコギだけで始まるアレンジで、グッと世界観に惹き込まれます。

ひとみ 今回のアルバムのリード曲は「悲しいラブソング」 なんですけど、「交差点」は「悲しいラブソング」 と並ぶぐらい、どっちをリード曲にしようか迷っていたんです。メンバーもあたらよチームもすごく推してる曲だったので、最初に持ってきました。

──ラストの《Woo Woo〜♪》という厚みのあるコーラスもカッコよかったです。

ひとみ この曲を作った時点で、私ひとりですけどその部分は歌ってました。最初はギターでこのフレーズをなぞってもらおうかとかいろいろ考えていたんですけど、人の声で歌ったら楽しそうだなぁと思ったんです。コーラスっぽくするのも、あたらよとしてはやったことがなかったので、途中からみんなでオーオー言う感じにしようぜって決めていきました。

──あれは誰の声なんですか?

ひとみ メンバー全員と、急遽レコーディングスタジオのスタッフさんに集まっていただいて、10人ぐらいですかね。1回みんなで歌って、その後女子だけで歌って、男子だけで歌って……と何回も録ったのを重ねて、何百人もいるように聴こえる仕上がりにしてもらいました。すごかったです。

──リード曲という「悲しいラブソング」は、アルバムの中で異彩を放つ軽快な曲調ですね。

ひとみ 実は、この曲の1コーラスは学生時代に作っていて。「10月無口な君を忘れる」で賞を獲ったあとに、スタジオに入る機会があったので、私が1コーラスを作って、みんながちょっとアレンジを触っていました。 今回のアルバム収録曲での話し合いで、まーしーが“俺、昔やってた「悲しいラブソング」をやりたいんだよね”って言ったんです。なので、曲の一部は学生時代の私が作って、残りは最近の私が作ってるんです。

──物語のモデルは実在する方ですか?

ひとみ 実在しますね。

──思い出してすぐスラスラと書けるものなのですか?

ひとみ まあ、曲にするぐらいなのでけっこう思い入れもありましたし、思い出して書くのはわりと簡単でした。

──ひとみさんが曲を作りたいと心動かされるのはどんなときですか?

ひとみ 「悲しみ」をテーマに曲を作ってるので、個人的に悲しい出来事があったり、あとはモヤモヤするとき。“人に言うまでもないんだけど、どこかに吐き出したい”という気持ちになったときに曲を作ってます。

──「知りたくなかった、失うのなら」は人気コンテンツ『純猥談』に投稿されたお話をもとに書き下ろした楽曲です。書き下ろしの難しさはどんなところですか?

ひとみ 自分で書く分には、自分の感情をさらけ出せばいいと思うんですけど、今回はもともとの文章の中に投稿した方の「本当はこう伝えたい」は詰まっていて……それを探し出すのがすごく難しかったです。何回も読んでいくうちに、だんだんと私だったらこう思うだろうなと置き換えができるようになっていって、気づいたら書けていたんですけど、最初はけっこう苦戦しましたね。

──アルバムの締めくくりは「差異」です。ラストに持ってきたのにはどんな意図があったんですか?

ひとみ この曲の終わり方が、私のアコギとヴォーカルになるんですけど、(アルバムが「交差点」でアコギとヴォーカルから始まり、)またひとりで終わるのが、アルバムの終わり方として綺麗でいいなと思ったので、最後に持ってきました。

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