取材・文:舟見 佳子
90年代前半に「離したくはない」、「Bye For Now」などの大ヒットを連発したロックバンド、T-BOLAN。
1999年に森友嵐士(vo)が「心因性発声障害」と診断されたことでバンドは解散。
森友はその後10年間にわたり失った歌声を取り戻すために懸命なリハビリの日々を送り、2009年、奇跡的にソロ活動で復活。
2012年にはT-BOLANを再結成。2014年のツアーをもって活動休止を発表したが、2017年に完全復活を宣言、昨年デビュー満30年を迎えた。
3月14日にリリースされた『愛の爆弾=CHERISH 〜アインシュタインからの伝言〜』は、1993年の『LOOZ』以来、なんと約28年ぶりとなる6thオリジナルアルバム。
ジャケットには森友の友人で、アインシュタイン直系の一族であるマーク=アインシュタインが起用されたことも話題となっている。
絵画を描くように作り上げられた新曲を含む13曲で聴ける森友の歌は、90年代の艶と色気を残しつつ、さらに進化した印象さえ受ける。
その“歌声”を取り戻すための闘いと、そこから見えた真摯な歌への向き合い方をぜひ感じてほしい。
今回、T-BOLANはアインシュタインの言葉を届けるためのパイプ。
──今回のアルバムのテーマは、アインシュタインが娘に宛てた手紙の中で「愛は何もかもすべてを超越する能力がある」と書いたメッセージにインスパイアされたそうですね。
森友 このパンデミックがなかったら、こういうテーマには行かなかったと思う。90年代は日常の中でこぼれ落ちたようなことをかき集めたものをアルバムにしてきたので、ひとつのテーマを掲げる作り方はしてこなかったんですよ。でも、パンデミックはすごく大きなことで現在もその渦中にいるわけです。デビュー30周年は制作のきっかけのひとつではあったけれど、何よりこのパンデミックはテーマとして外せないと思っていました。その中で言いたいことを残さなかったら、アルバムを出す意味あるのかな?って。“愛”って、ひと言で言うとあまりにも大きな漠然としたことだけど、それをどういう作品として形にするのが一番振り向かせる力があるんだろうっていうのを、まず考えましたよね。
──今作には、B.B.クイーンズに提供した「声なき声がきこえる」のセルフカバー、ドラマのオープニング曲・主題歌にもなった「俺たちのストーリー」、「My life is My way 2020」、映画主題歌「ひとつの空-no rain no rainbow-」、「ずっと君を」、「Re:I」など、T-BOLAN再始動後に発表された楽曲がすべて収録されていますが、今回のアルバムのための新曲制作はどんなふうに進めたんですか?
森友 実は自分の作るメロディにちょっと飽きてるところもあって、半年間ぐらい曲ができなかったんですよ。作っては捨て、作っては捨てて……。テーマも最初はぼんやりとしていて、“愛”っていうキーワードは出てきてるんだけど、今までも全部“愛”だしな、みたいな。より具体的ではっきりしたものが欲しくて。何か強いもの、人の気持ちを“何それ?”って引くような力があるもの。ポップで、色も鮮明でとか。それを作ろうとするんだけど、なかなか形にならなかった。
そうやってテーマについて悩んでるときに、十数年前に読んだ“アインシュタインが娘に宛てた手紙”っていうのをふと思い出したんです。どんな内容だったかなぁって読み直して、これじゃん!って。だから、あくまでもT-BOLANは今回、それを届けるためのパイプ。“アインシュタインがこんなこと言ってるよ”っていう曲を作ろうと思ったんです。それが「愛の爆弾=CHERISH ~アインシュタインからの伝言~」で、これができた瞬間に並べたい曲が見えてきて、「NO CONTROL ~警告~」ができ、「A BRA CADA BRA ~道標~」ができ、「祈りの空」ができ、いろんな曲がそれに繋がってきた。最初は半年間うずくまってたんですよ。で、「愛の爆弾~」ができてからは、ダダダッとできてきました。
──「愛の爆弾~」は、《愛に限界はない》っていうフレーズがすごくインパクトあります。
森友 僕じゃなくてアインシュタインが言った言葉ですけどね(笑)。でも確かに、人間が持つ力の中で本当に限界がない力っていうのは、やっぱり愛だと思う。愛っていう力が、その人が持ってる力をはるかに超えたところまで行ける唯一のものだなと思いません?
──それは年々、歳を取れば取るほど思いますね。
森友 それは愛が深くなってる証拠ですね(笑)。
──(笑)。1曲目の「A BRA CADA BRA ~道標~」は、メインヴォーカルにも深くエフェクトをかけたり、楽器パートのバランスもエディットしたり、サウンドメイクが斬新です。
森友 「A BRA CADA BRA~」に関しては、普通に歌ったときから生の声だと何か違う感じがしていて、エフェクティブな感じで歌いたかったんです。僕はエンジニアじゃないので細かいことはできないから、とりあえず自宅スタジオにあるエフェクトを端から手当たり次第に試したんですよ。3つぐらいのものを重ねてるんですけど、かける順番を変えるとまた音が変わるんですよね。試していくうちに、これ!っていう音ができた。でも、使ってるエフェクターのどこをどう使ったかよく覚えてないぐらいの感じで。それをほかのところで同じように作れって言われたら絶対作れない。
──再現性がないんですね。
森友 プリプロで自分がエンジニアに渡す2ミックス(※曲制作の最終段階でパート毎の多数のトラックをL+Rのステレオ2チャンネルにミックスダウンすること。またはミックスダウンした音源)の音にはそのエフェクトがかかってるけど、それとは別に歌のデータは裸(エフェクトなし)で行くわけです。2ミックスを参考音源として「こんなイメージで歌のエフェクト処理、試してみて」ってお願いするんだけど、全然違うものになるわけ。そりゃ、できないよね、(2ミックスでは)どうやってるかわからないから(笑)。で、「森友さん、何かけたんですか?」って訊かれて。
──さっき、“何を使ったかよく覚えてない”って言ってましたけど……。どうしたんですか?
森友 (作ったエフェクトは)プリセットされてるから、それを開いて全部写メして送って。それでやっと同じになった(笑)。あと、横から出てくる合いの手みたいなヴォーカルがあるんだけど、それは元々のメロディにはないわけですよ。ガイドヴォーカルを入れていく中で、“何か足らないな”となる。そうすると(頭の中に)出てくるんです。
──1本メインを歌ったら、“ここにこういうメロディがあったらいいな”って?
森友 そう、聴こえてくる。最初は単語じゃなくて音だったりもする。「A BRA CADA BRA~」には英語の朗読も入ってるでしょ。この曲って元々は五味(孝志/g)が作った曲があったんだけど、僕はそのメロディが全然気に入らなくてね(笑)。でもオケの感じは面白かったので、五味に黙って勝手にメロディも全部作り直しちゃったんですよ。《DANDAN DUBIDUBA DUBIDU DANDAN》ってフレーズが最初にできて、それは外せない。でもそのおかげで歌詞を乗っけられる部分がすごい少なくなっちゃったわけ。朗読を入れてるところは、もともと五味のオケの中では何か違う表現だったんだけど、“ここ、言葉乗っけられるじゃん”って。日本語だとちょっとピンとこないので、伝えたいことを英詞にして、全体の意味合いがもうちょっと具体的になるように朗読を入れたりとかね。そういうのは全部、あと付け。
──面白いですね。いじってる作業の中でアイディアが生まれてきたりするのって。
森友 今回は絵画的に作ってるんです。書(道)って、書き始めたら絶対終わっちゃうじゃない? でも絵って、途中で止めては、離れて見て“ちょっと足らないな”とか“やり過ぎたな”って削ったり。いつでも終われる(=自分で決められる)でしょ。“はい、今終わった、完成!”って。今回「愛の爆弾~」以降に書き下ろしたものは、僕のイメージでは絵画的な感じで作りたいと、はっきりわかってた。その代表的なものが、「A BRA CADA BRA~」ですよね。
──乗っけていって、重ねていって。
森友 取ったり外したりもしたり。それを良しとしたアルバムです。今まではやっぱりバンドっていうのが僕の憧れだったから、“行くよ~、カンカンカンカン(4カウント)、ダーン!”って始まって流れるものをそのまま収録したい。それがバンドじゃん?って思ってたところがあって。今回はバンド感よりは作品感にたぶん自分が行ってる。
──作品感?
森友 うん。足したり引いたりして、作品として自分のイメージに近いところに持っていきたかった。言葉も含めて“曲がたどり着くべき場所にたどり着きたい”っていう……それは歌に限らず全部。一生懸命やりましたね、作品に対して誠実に、できることは全部やり尽くした。“やれるとこまでやり尽くして、結局最初に戻っちゃった!”みたいなことはあるけれども、挑戦はいっぱいしました。ひと言で言うと“やりきった!”っていう気分ですね。
……やっぱり28年ぶりだから時間もかかるんですよ。錆びついた場所もあっただろうし、感性の中に。それをもう一回オイルを挿しながら動かしてるわけで。作業の後半に行けば行くほどパッションが上がってくる。“もっとここをこうしたい”っていうものがいっぱい生まれる。周りは大変だったと思うけど、それを誰も止めることなく。だから、思い残すことはないです。