【インタビュー】ヒグチアイ 新作『最悪最愛』から紐解く、歌にしかならないもの(撮り下ろし写真掲載)

2022.03.2

取材・文:鈴木 瑞穂(Vocal Magazine Web)
撮影:HayachiN

筋トレをすると、気持ちが乗ってないときでもお腹で支えられるようになって、歌唱の全体的な平均点が高くなってくる

──「縁」は、ドラマ『生きるとか死ぬとか父親とか』のエンディングテーマとして書き下ろされた楽曲です。ヒグチさんの歌声が心に届き、“明るい曲調なのに染みる”といった感想を多く見かけました。レコーディング中には逆に明るく歌ってみようといった試みもあったんですか?

ヒグチ ありましたね。実はこの曲だけヴォーカルをディレクションする方がいなかったんですよ。それまでは、 “もうちょっと明るくしたほうがいい”とか“口角上げたほうがいい”と言ってくれる方がいたんですけど、ちょうどレーベル移籍のタイミングで、ヴォーカルディレクションを立てられなかったんです。なので、自分で歌ったテイクを聴いて、“これちょっと違うかな”と録り直したりもしたんですけど、できあがってみたら全然暗くてびっくりしました(笑)。

私の中では、もうちょっと明るい感じにしたかったっていうのがあって。でも、もしかしたらちょっと寂しい感じが出ていて、それが結果的に良かったのかもしれないです。

──伸びやかな歌声の中に、ちょっとだけ声が揺れるニュアンスがあって、そこがより心に響いてきます。これは以前からご自身のヴォーカルスタイルとして確立していたものですか?

ヒグチ 本当はずっとなくしたかったんです(笑)。憧れてるのは、ケイティ・ペリー、アデルとか。もともとマライア・キャリーが好きで、そういうパキッと音が出る声にすごく憧れがありました。18歳の頃、最初に自分の声をレコーディングしたときに、人に聴こえているぶんには真っ直ぐ聴こえているもんだと思っていたら、すごく揺れてて……。それをどうにか直そうと頑張ってた時期もあったんですけど、どこかから諦めちゃいました(笑)。

──でも、より惹きつけられる部分でもあると思うんです。大学はジャズヴォーカル科にいたそうですね。そもそもどうしてジャズを選んだのですか?

ヒグチ 「ジャズ・アンド・ポップス」って書いてあったんですよ。ポップスをやりたいと思って入ったら9割ジャズで、ちょっと騙されたなって思ってるんですけど(笑)。そこの先生に“あなたのそのビブラート、揺れてるところはあまり良くないから直しなさい”って言われたんです。“でも、声質がすごく合ってるからジャズを続けたほうがいい”とも言われて、そこでジャズやめようって思いました(笑)。ジャズが合うんだったらやらなくていいかなって。まあ、その頃は性格もひねくれたところがあったけど、合うんだったらやったら良かったのにねって今は思いますけどね。

──「悪魔の子」で海外のリスナー層も増えましたし、ヒグチさんが歌う英語の曲もちょっと聴いてみたいと個人的には期待してしまいます。

ヒグチ 話せたらいいなとは思うようになりました。ジャズを勉強していたときは、歌詞の意味や発音を全部調べながらやっていたんですけど、実際は話せないのに歌ってるということにすごく違和感があるというか。形だけじゃないほうがいいなと思ったので、話せるようになって、自分で英語の歌詞を書けるようになったら歌いたいな。

──「火々」のサビの《想い出を燃やして生きてく》という低い音のところは、アルトヴォイスが美しいですね。《僕らは》という歌詞表現にもあるように、主人公が男性というところも意識していましたか?

ヒグチ それは特にはなかったです。この曲はサビをオクターブのハモリにしたいと思っていたんですよ。1人では歌えないけど、バンドでやるときはコーラスも入れるし、やろうと思えばそういうエフェクターもあるので、何とかできるなと思って。もともとオクターブのハモりがすごい好きなんですよね。あと、サビで声を張る歌い方じゃないものもたくさん作りたくて。喉がそんなに強くないので。こんなこと言っちゃあれなんですけど、あんまり歌が上手じゃないと自分では思っているので(笑)、大変じゃない歌い方を探していて、それで下げたというのはありますね。

──身体がほぐれていると歌いやすいということはありますか?

ヒグチ ありますね〜。朝9時から歌ってくださいとか言われたらすごく嫌な気持ちになるし(笑)。朝起きなきゃいけないとか、その前に寝ないほうがいいとか、昼寝しちゃいけないとかもあるし、ご飯食べないほうがいいとか……けっこういろいろありますよね。もう13年も歌っているとやっぱり身体が変わってくるので、そうするとまた合うものを探さないといけない。身体もほぐし過ぎず、少し肩が凝ってるぐらいが安定したりします。けっこう難しいですね。未だに正解を見つけられてないです。

──今、歌声をキープするために気をつけていること、行なっている習慣はありますか?

ヒグチ とにかく筋トレをしてますね、走るのはすごく嫌いなので(笑)。筋トレをすると全然違います。気持ちが乗ってないときでも、お腹で支えられるようになるというか、(歌唱の)全体的な平均点が高くなってくる感じですね。お薦めです。

──どんな筋トレをやってるんですか?

ヒグチ なんでもですよ。スクワットもそうだし、体幹、プランク、寝転がって足上げて下げてとか。毎日40分ぐらいやってます。

──声を出す前に行なうルーティンはありますか?

ヒグチ 最近は瞑想にハマってます。緊張すると呼吸が乱れるので、強制的に呼吸を整えるというのをやってます。もうひとつは、歌う前にスクワットをやって、“緊張して心拍数が上がってるんじゃなくて運動して心拍数が上がってるんだ”と自分に錯覚させるという方法。その日の気分によってどっちかをやってます。

──レコーディング時のドリンクや喉ケアで、こだわりはありますか?

ヒグチ 水は決めていて、『南アルプスの天然水』を飲んでます。あと、最近これは絶対やったほうがいいなって思うのは、毎日の鼻うがい。私、鼻の奥の上咽頭があまり強くないんですけど、鼻うがいをするとそこがめちゃくちゃ楽になるんです。乾燥してると鼻の奥が痛くなったりするじゃないですか。鼻が痛くて歌うのキツいなっていう人は、鼻うがいがすごくお薦めです。

逆にのど飴はほぼ舐めないです。あんまり合わないというか、口の中が乾いちゃう気がするので。そのときはいいんですけど、歌を歌いながらはできないですし、歌うときにすごく喉に引っかかる感じがして、咳が出やすくなっちゃったりするので、あんまり頼ってないです。

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