取材・文:鈴木 瑞穂(Vocal Magazine Web)
撮影:HayachiN
歌詞から作るものは、言葉のイントネーションをすごく大事にしている
──「悪魔の子」のカップリングに収められた「まっさらな大地」は“ミカサ・アッカーマンの感情を歌っている!”という反響も聞こえていて、“守る側”と“守られる側”、互いに呼応する2曲のようにも感じられますが、そういう意識はあったのですか?
ヒグチ 2曲に対してどうこうというのはあんまり思ったことがないですけど、「まっさらな大地」に関してはミカサの歌で間違いないというか、自分の中ではミカサの目線のつもりで書いています。もともと私は他の作品も含め、アニメ自体を観る機会がかなり少ないほうだと思うんです。なので、キャラクターソングというものが存在していることをイマイチ知らなかったんですよね。でも、普段から曲を書くとき、まず誰かの目線で書くということを考えて、主人公やその人がどう思ってるかみたいなところを書くことが多いので、そういう意味では「まっさらに大地」はすごくわかりやすい書き方をしてるかなって思ってます。
──今回のアルバムでも、例えば「ハッピーバースデー」や「サボテン」は、終わってしまった恋愛のストーリーが描かれていて、それぞれの主人公は性別も違うし、実にいろいろな目線に立って書かれてますよね。
ヒグチ 男性も女性も全然書きます。“これは男の人が歌ってる感じのほうが伝わるな”と思えば男性を主人公にしたり。フィクション感を出したくてちょっと離れた感じで書きたいときが男の人にすることが多いかな。逆にもっと自分に近いものをみんなに聴いてほしいと思えば女性を主人公にするし、恋愛の曲などはそういうふうに書くことが多いんじゃないかな。あまり俯瞰せず書くことが多いです。
──そのときは自分の中に人物を憑依させる感覚なんですか?
ヒグチ どうなんでしょうね。しっかりフィクションで書く曲は、紙にこの人はどういう人でどういう服を着て何歳でどんな兄弟構成で……とかを書いたりして、人物像を考えてから書いていくことも多いです。自分のことを書くときは、自分の中から出てきた言葉がすごく多い。自分の身に起こったことから書き始めることも多いので、憑依するというよりは自分自身が書いているっていう意識です。
──「劇場」は誰か特定の人を描いているんですか?
ヒグチ 歌の中では、ステージの上で踊ったり歌ったりというふうになっているんですけど、世の中で普通に働いている方たちも含め、みんなそれぞれがステージに上がっているというか。例えば会社でも、時が経つにつれて、上司が辞めて自分がその立場になって、その上司とはもう今後会うことはないかもしれない。そしてまた新しい人が入ってきて……という自分の周りの人たちの移り変わりを考えていくと、どんな人でも人生は「劇場」に例えられるなと思うんですよね。
子供の頃はあんなにモテたのに大人になってから全然モテなくなっちゃったみたいな、自分を一番認めてくれる年齢ってあると思うんです。でも、そんな時でも一番自分の大切な人は目の前に座ってくれていたり……それぞれの“人の移り変わり”というのを「劇場」に例えて、みんなに当てはまるといいなと思って書きました。
みんなそれぞれが人生の主人公だということが伝わってほしいし、本当にそう思ってるんですよ。自分の人生面白くないって思っている人もいるかもしれないけど、ちゃんと面白いと思うので、自信を持ってほしいです。
──曲の展開も印象的で、第1章、第2章、第3章……と朗読劇のようにドラマティックに進んでいく印象を受けます。楽曲はどういうふうに作っていったんですか?
ヒグチ ふふふ。作ったときのことはよく覚えていて、朝4時くらいに布団入ってそろそろ寝なきゃなって思ってたんですけど、寝られなくて、そのときに《ステージの上 一本のスポットライトがさす》という歌詞を最初に思いついて。もうこれは歌詞を書いたほうがいいなと、布団で寝転がって歌いながら書き続けて、2時間ぐらいで曲ができあがったんですよ。そこから歌詞は1回も変えていないので、なんか不思議な2時間っていう感じでした。
──えっ! てっきりものすごく時間をかけたのかと勝手に想像していました。メロディもその時に浮かんでいたんですか?
ヒグチ そうですね、歌詞と一緒にメロディが出てきて、それに合わせて2番も作っていってという感じです。一緒に出てくることはたまにありますけど、サビだけとかAメロだけとかで、こんな全部一気に作れることはあんまりないですね。あと、基本はメロディよりも詞が先にできることが多いです。
──詞からメロディを作るまではどういう順序があるんですか?
ヒグチ どうしているんだろう……もう、頑張るしかない(笑)。ただ、歌詞から作っているものに関しては、言葉のイントネーションをすごく大事にしています。例えば「イントネーション」という言葉の発音も「ネ」が一番上にくるじゃないですか、だからメロディを作るときもそこがちゃんと上がるようにする。メロディ的に「ネ」を一番下の音にすることはやらないですね。
──メロディを作る前にコード感を固めたりはしますか?
ヒグチ メロディを作るときはいつもピアノを弾きながらやっているので、コードからってことでもないし、メロディからって感じでもなくて、なんとなく合わせていってしっくりくる伴奏やコード進行にしたら、そこからメロディをちょっとだけ変えていく感じです。メロディとコード感は一緒に作っていきます。
──ヒグチさんは2歳からクラシックピアノをやっていたそうですね。コードの知識はどのタイミングで習得しましたか?
ヒグチ コードというものを知ったのは、たぶん高校生だったと思うんですけど、小学校低学年のときに、ポップソングは大体カノンコードでサビが歌えるということを知って、“どの曲もこうやってやれば歌えるじゃん!”ってみんなに自慢していました(笑)。その頃からカノンコードがあれば曲が作れるという感覚は自分の中にあったんです。そういう意味ではメジャー、マイナー、テンションコードとかの和音も、今までのクラシックの中にいっぱいあったもので、名前をつければ“あ、Fなんだ!”とか“メジャーセブンスなんだ”と結びついた感じです。クラシックピアノをやってる人には多いんじゃないかな、“あれがこういう名前だったんだ”とあとから気づくことが。
──コード譜だけのものと、クラシックピアノのように音符ベースの譜面はどっちが好きですか?
ヒグチ コード譜でもらったほうが適当に弾けるからいいなっていう感じはありますけど(笑)、音符は一瞬で読めるので、どっちもいいところがあります。音符の楽譜はそのまま弾けるし、コード 譜は好きなように弾ける。
──ほかの人の曲を聴いて、サウンド面でインスパイアされることはありますか?
ヒグチ 自分でもイマイチわからないんですよね。例えば、いろんな曲を聴いててもすごく綺麗だなとは思うんですけど、何で綺麗だと思うのかはあまりわからなくて。でも、なんとなく“踊れるかどうか”みたいなことは気にします。踊れないんですけど(笑)。私の踊れるってヒップホップじゃなくて、バレエとかのほう。動きが繋がってるかどうかという話なので、そういうふうに踊れるメロディが私は綺麗だなと思います。波のように音符が繋がってる感じで聴こえるほうが好きですね。