【インタビュー】YU(I Don’t Like Mondays.)、『ONE PIECE』主題歌で魅せた新しい歌唱表現。詞に込めた人生の挑戦と葛藤

取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine web)

やっぱりルフィはすごく強いです。でも、僕はそんな強くないんですよね。

──勇気を届けてくれるストレートな歌詞で、今までのYUさんの歌詞と比べると少しテイストを変えられているのかなという印象です。重要視したのはどんな部分でしょうか?

YU 僕がみんなを応援する曲ではなくて、自分のための応援歌を作りたいなと思ったんですよね。僕は僕のために作って、それが結果、『ONE PIECE』を通じて共鳴していけばいいなと。

1番の歌詞では、世の中が混乱している状況下で自分自身を振り返ったときに、自分が好きなものに突き進んでいったら道が開いていくということを改めて感じたので、それを素直に書こうと思いました。ワードチョイスは『ONE PIECE』から海賊や海などを彷彿させるものをフレージングやフレーバーに入れていきました。サビは、せっかくの『ONE PIECE』作品なので、キャラクターを彷彿させたいとルフィ、ゾロ、サンジの順番で《いざ手を伸ばして(=ルフィ) 風を切り裂いて(=ゾロ) 暗闇を蹴っ飛ばして(=サンジ)》というフレーズを作っていきました。自分的にはけっこういいものできたなと思えたので、そこからさらに展開していきましたね。

──素敵なアイディアですね。

YU でも、そのままの方向で2番を展開していくと何か自分ぽくないし、僕の中で『ONE PIECE』の大好きなポイントは、主人公ルフィがくじけてもそれを乗り越えていくところに勇気をもらったんです。常に成功が続いてるわけじゃないのは自分の人生においてもそうだし、それを入れたいなって思って。ちょうどそのとき東京オリンピックが開催していてすごく感動したのと同時に、表彰台に立つ人たちがいる一方でそこに立てない人たちがほとんどだし、自分の人生においても全然立てていないなと改めて思って。それでも人生は進んでいく中で、どうやって自分のモチベーションをキープしていこうかということを感じたんですよ。

だから2番は栄光の光が当たっていないところにフォーカスして作りました。2番のサビでは、今いるのは自分の理想ではない。それは僕もそうだし、僕からしたら成功してすごく順風満帆に見える人でも、もしかしたら彼らにとっては理想ではないかもしれない。でも人生そういうもんだなって思って、それを入れ込んだ歌詞の展開にしました。

──ルフィがくじけても乗り越えていくところに勇気をもらったんですね。『ONE PIECE』の好きなところをもう少し教えていただけますか?

YU 好きなポイントはいっぱいあるんですけど、まず僕はルフィとは程遠い人間なんです。でも、だからこそ憧れがあるし読みたいと感じるというか。やっぱりルフィはすごく強いです。でも、僕はそんな強くないんですよね。自分ではすごく弱い人間だと思ってて、それでもどうにか自分をキープしていかないといけないし……というのでいつもワーってなるタイプです。

──それは、傷つきやすいとかそういった面で?

YU 傷つきやすいし、けっこうおよび腰だし、それこそ今回のチャンスをいただいたときも……。明るくてポジティブってよく言われるんですけど、それはそう考えるしかないって行き着いている結果、そう見えるのかなと。ネガティブな自分を理解しているから、その対処法を常に試行錯誤していて今の自分があるので、その結果ポジティブな人って思われがちですけど、僕からすると“ネガティブのままのほうが、それでいいと思ってる部分でポジティブじゃん!”って思います。

そういう意味で本当に勇気をもらえる作品だなと思いますし、あとは、ポップに、老若男女にわかるような形で世界の真理を描いている部分ですかね。『ONE PIECE』の世界は綺麗事だけじゃないところが惹かれるポイントです。あと設定も含めキャラクターひとりひとりの心理がすごく細かく描写されているポイントも好きですね。

──YUさんが好きなキャラクターは誰ですか?

YU 難しいですけど、ルフィが好きなことは大前提として、悪者が好きなのでクロコダイルやドフラミンゴが好きですね。なんか魅力的に見えちゃう(笑)。あとローも好きです。ちょっと擦れてる感じがカッコいい。でも、麦わらの一味はみんな好きかな。

──ちなみにガチ泣きしたシーンはありますか?

YU 王道になってしまいますが、エースの最後は泣かざるを得ないですよね……!

──泣けますよね。そこから歌詞に活きた部分はありましたか?

YU そのシーンというよりは、頂上決戦があってルフィが自分の無力さに気づいたところ、そしてまた修行して再出発するところは、この曲には絶対入れたいポイントでした。

──ラスサビの《僕らは何処までもゆける》という歌詞は、《僕》ではなく《僕ら》となっていて仲間感を感じました。ここはあえてですか?

YU 『ONE PIECE』を読む中でバンドもすごく近いなと改めて思いました。形は違えどチームでやっているのは同じで、ひとりでやれることってたかが知れてるというか、周りの方々の支えなしでは成り立たない。『ONE PIECE』はその部分をすごく描かれていると思うので自分も絶対入れたいなと、最後に向けてDメロの部分からそういう歌詞にしていきました。

──YUさんが曲の中で1番好きなフレーズを教えてください。

YU サビの1行目の《いざ手を伸ばして 風を切り裂いて 暗闇を蹴っ飛ばして》の部分です。

──この部分の歌い回しのポイントは?

YU (実際に手を伸ばしながら)手を伸ばしてって感じ! それはすごくイメージしながらレコーディングにも挑みました。

──サビは曲の中で4つあって、ひとつ目のサビは曲頭に持ってきていますよね。その意図を教えてください。

YU アニメが始まりタイトルがバーンと出るタイミングでサビがあるといいなと思いました。歌唱アプローチとしては初っ端が一番勢い大事! 後半は楽曲のグルーヴが出て、いい意味でみんなが寄り添ってくれるので。

──作詞はどうやってされてますか?

YU 僕は家のパソコンでデモを聴きながら。歌詞が浮かんだのが出先だったらメモしたりするんですけど、基本的には家で“制作するぞ!”と気合を入れてやるタイプです。

──どのくらいで書き上げるんですか?

YU 時と場合によるんですけど、ワンピースは歴代の曲を聴いたり作品を読んだり、取り掛かるまでを長く取ったんですよね。書き始めてからは1週間ぐらい悩んでサビ頭のフレーズが浮かんだので、そこから広げていくのはそんなに時間がかからなかったです。

──2021年8月にリリースしたアルバム『Black Humor』の特集映像の中で、メンバー内で歌詞に関して衝突があった話を拝見しましたが、今回はどうでしたか?

YU 『Black Humor』での試行錯誤を経てからの今回の制作だったので、葛藤や迷いみたいなものは逆になかったんです。メンバーもすごくいいじゃんって言ってくれて。

──今回は書き直しもなかったですか?

YU はい、珍しく。主題歌系では方向性やワードなどを言われることもあるみたいなんですが、それは1個もなかったです。でもそれは、僕がいちファンとしても、アニメのプロデューサーだとしても、これがいいと思うものと自分の中で歌いたいものを一致させてから歌詞を書き始めたんで、ズレがなかったんでしょうね。

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