【インタビュー】遥海、1stアルバム『My Heartbeat』に込めた願いと“歌う前のルーティン”を語る

2022.02.10

取材・文:田代 智衣里(Vocal Magazine Web)

2020年5月にメジャーデビューした遥海が1月26日(水)、1stアルバム『My Heartbeat』をリリースした。

初のオリジナルアルバムには、映画『科捜研の女 -劇場版-』&テレビ朝日系・木曜ミステリー『科捜研の女』Season21のダブル主題歌「声」、アニメ『波よ聞いてくれ』エンディングテーマの「Pride」、NHK『みんなのうた』2021年8〜9月OA楽曲「スナビキソウ」に加え、TikTokでフォロワー40万人超を誇るユニット、ペルピンズ-PeruPines-のメンバー、RIOSKEとのコラボ曲「Dotchi」、millennium parade・ヴァイオリニストの常田俊太郎が新たにリアレンジし、自身もヴァイオリンで参加した「Pride (Strings and Piano Reprise)」など、計10曲を収録している。

プロ野球・東京ヤクルトスワローズの山田哲人選手が「Pride」、村上宗隆選手が「声」を登場曲に起用するなど、コロナ禍で活動が制限される中でも“歌の力”で多くの人に出会ってきた遥海。フィリピンで3歳から教会のゴスペルチームで歌い、13歳で日本に渡ってきた彼女にとって、歌とはどんなものなのだろうか。ヴォーカル・マガジン・ウェブでは、本作に込めた思い、パワフルで揺るぎない歌を届けるために行なっているルーティンなど、遥海の歌に対する考えを深掘りした。

(歌は)願い、祈り、そして独り言の固まりだと思います。

──2020年5月のメジャーデビューから1曲レコーディングするごとに幅が広がり、『My Heartbeat』はその発展と道のりを感じられるアルバムだと思いました。遥海さんにとってはどんな1枚になりましたか?

遥海 本当にその通りで、2020年からいろんなことがありました。5月にデビューしたんですけど、コロナがまだ明確になっていない部分もあった中でのデビューだったので、なかなか思い通りにいかなかったというか。リリースイベントも全然できなかったし、自分にとって大きなチャンスを掴んだ気分だったけど、ブレーキがかかってしまった感覚だったので、嬉しかったっていうよりは、悔しい気持ちのほうが大きかったんです。9月からミュージカル『RENT』の稽古に行ったけれど、11月にコロナの影響で中止になってしまった経験もあって。2020年は、簡単に言えば優しくなかった1年でした。頑張りたいけど頑張らせてくれない、みたいな。悔しさしかなかった1年だったので、2021年はコロナに負けない年にしていけたらいいなって思ってました。

2021年は、思ってもなかった楽しいことが起こって、自分にとってはものすごく希望に溢れた1年でした。いろんな経験をさせてもらえて、大きく成長できた年だったなと思っています。2020年のこともあり、デビューしてから今日までジェットコースターに乗ってるような気分でした。ジェットコースターは嫌いなんですけど(笑)。その中で頑張れた自分がいるなと思って、なんか、優しくしてあげたくなりますね。

──今回のアルバムにはリアレンジの「Pride (Strings and Piano Reprise)」も収録されていますが、改めて1stシングル「Pride」からの変化を感じ、また遥海さんの新たな表現に魅了されました。リアレンジに対して、どんなふうに歌おうと考えましたか?

遥海 「Pride」は今までで一番歌ってきているし、一番大事な曲。メジャーデビュー曲っていうのもあるし、「Pride」のおかげでいろんな気持ちにさせてもらえて、いろんなところに連れてってもらって、いろんな人のところにも届いた1曲だと思うんですね。

私、自分の中で“居場所がないな”ってずっと思ってたんです。デビューするまでもそうだったし、デビューしてからもずっと探ってる感覚だったんですよね。どこに置いてもいつもスポッとはまらない。必死に探してたと言うか、その居場所を。でも、それって私がすごく大きなことを求め過ぎてたなと思って。居場所っていうのは、探しに行くものじゃなくて、“応援してくれる人たちがいての遥海の居場所”だってことに2021年は気づいたから。本当にいろんな人がいて遥海がいるんだなって。

「Pride」がストリングスとピアノのシンプルなアレンジになったことで、自分も楽器になって、私の声で皆さんへの感謝の気持ちをメインにして歌わせていただきました。

──ファンの人がいて、自分の居場所があるんだと気づいたきっかけはあったのですか?

遥海 朝起きたらふと気づいた、そんな感じでした! 自分は今まで“喜怒哀楽をたっぷり届けていきたい”って言ってたのに、さらけ出せてないなって思ったんですよね。特にSNS上ではあまり見せてこなかった。いつもできあがったものだけをポンと聴いてもらってたんですけど、徐々にカバー曲を載せていったり、プライベートなことを言ったり。それこそ(YouTubeの)ドキュメンタリーを観て、“もっと遥海ちゃんの歌がわかるようになった”とか、そういう声も聞いてて。“あ、なんだ、居場所じゃん”って思ったんですよ。どこに行っても、みんながいるから居場所じゃんって。

朝起きたときに、なんかシャットダウンをする日があって。何もしたくない、1日歌も歌いたくないって日があって、その次の日に必ず何かポンって出てくるから、1回離れてみたら、ポンって出てきて。その瞬間がすごく面白いなぁと思いますね。

──コロナ禍でもSNSなどの発信を大切にしてきた中、ファンの方との交流で気づけたんですね。

遥海 そうですね。TikTokライブを積極的にやったり、ファンの皆さんに“遥海ちゃんがこの曲を歌ったら面白いんじゃない?”って言ってもらったり。そういうコミュニケーションがすごく多かったんですよ。それがきっかけで、私はいつも温かい場所にいるんだなと知ることができた。歌いやすくするために、みんながその空気を作ってくれてるんだな。その場を温めて、柔らかくしてくれてるんだと思いました。

──今回の『My Heartbeat』の収録曲の中で、歌唱面でチャレンジングな曲はありましたか?

遥海 「Dotchi」ですね。

──「Dotchi」はRIOSKEさんとのコラボ楽曲ですが、どのようにコラボが決まったのですか?

遥海 RIOSKEは私が10代からすごくリスペクトしていて、“にこちゃん”って呼んでるんです(笑)。何回もコラボしたいって2人でずっと言ってたんですけど、タイミングがなかなか来なくて。でも、今回実現できることになったから「Dotchi」っていう曲を作ったんです。真ん中のところが歌じゃないんですよ。そこはチャレンジングでした。

──中盤の男女パートの掛け合い部分、《マスカラ 滲んでない?/ニキビ隠れてるかな?/脇汗 マジ!ヤバイ?/Tシャツ着替えたい》のパートですね。ここは会話のようになっていて、遥海さんのキュートな表情が見えました。

遥海 めっちゃ恥ずかしい(笑)。楽曲をゼロから作ったので、カルロスさん(Carlos K.)がトラックをその場で作ったり、トラックに乗るようなメロディを私とにこちゃんで作ったりしています。朝の5時〜6時ぐらいまでテレビ電話で“こういう言葉は絶対に入れたい”とか、“こういうシチュエーションがいい”とか話して……恋愛相談じゃないけど、そんなプロセスがあったんです。だけど、できたものは意外ときれいな音楽になってたから、そうじゃなくて、“もうちょっとリアルなものが欲しいよね”って歌詞やメロディを変えたんです。

例えば、恋愛してるときに女の子が気にすることと、男の子が気にすることを考えたときに、(女の子は)メイクだったり、まつげだったり、“ニキビ隠れてる? 大丈夫かな?”みたいなことで。男性からすれば、やっぱり臭いが気になるらしくて。“俺は脇汗が気になる”って言うから、“脇汗大丈夫かな?”って歌詞に入れたり(笑)。でも、レコーディングになった瞬間、“ここはきれいに歌うっていうより、自分の頭の中で想像することが(吹き出しのように)うまく入ってほしいな”と思ったんです。その流れで“しゃべり”になりました。

私は自分のしゃべり声がちょっとコンプレックスだったので、大丈夫かな?って心配だったんですけど、すごくチャレンジングで、なんか楽しかったです。今聴くとクスッて笑っちゃう(笑)。

──2人のハーモニーも素敵ですよね。遥海さんは人と一緒に歌うときに気を付けることや、意識していることはありますか?

遥海 よく聴くことですね。2人とも影だったとしたら、重なってしまうと良くない。きれいに見えなくなっちゃうのかなって。影をきれいなままにするためには、“大きすぎない、小さすぎない、重ねない”って感覚で歌いますね。今回のコラボでは、2人のバランスをすごく考えました。にこちゃんの歌がきれいになるように、自分はあんまり大きくしないとか、私が上がってるときに、にこちゃんがそれを支えるために包んでくれる意識というか。たぶん、そういうことはお互い無意識に意識してたと思います。

──同じハーモニーを奏でるということでも、相手の声によってやることは自然と変わりますか?

遥海 はい。もしコラボするならどうするか、昔から想像してきたので。「Dotchi」っていう曲は、にこちゃんのあの声だから遥海もこの声なんだって。化学反応があって、超楽しかったです。気をつかうこともなく、やりたいことをやろうぜ!っていう感じだったので、うまくそれが音になってると思います。

──遥海さんは3歳の時からゴスペルを歌われていたんですよね。人と一緒に音楽を作る、奏でるということでは、そこで自然と身についたものも多かったのでしょうか。

遥海 そんな気がしますね。やっぱりゴスペルもみんなで歌う。みんな平等だからきれいになるわけで、ひとりだけボンと出てたら、聴きたくなくなる。“ううっ”てなるじゃないですか。そういう感覚が常にあったんですよね。ただ、成長していくと、やっぱり尖るじゃないですか、人って。私も女の子としてすごく尖ってたと思うんです。その中でも、自分の声だけじゃなくて、隣の人の声を聴くことを経験してきました。その頃はゴスペルはやってなかったんですけど、本当に3歳のときの経験がうまく働いてくれてるのかなって思いますね。

──教会で歌っていたことからも、歌は祈りや願いという感覚が根っこにあるのでしょうか。歌が届くということに関しては、どう考えていますか?

遥海 祈りに近いですね。祈りに、願いに近い。内面化するっていうか、歌を。自分の中で頑張って、頑張って整理する。自分の感覚的には口がここ(胸の辺り)にあるっていうか。だから「WEAK」みたいな心が苦しくなる曲だと息が苦しいっていうより、ここ(胸の辺り)が苦しくて、ううってなっちゃうんですよ。すごく想像力が豊かなほうなんだと思うんですけど、歌ってるときに“弱さ”って言葉が並ぶと、自分の頭の中で辛かったこと、弱かった頃の自分が昨日のことのように出てくるんです。

恋愛してるときの自分が「ずっと、、、」っていう曲を歌ったときには、イメージがパンって頭の中に入って。自動的にカランって変わっちゃうから。イメージを見ながら、頭の中で整理されて、心の中で整理されて、初めてポンって言葉が出る感覚なんですよね。これは説明するのが難しいんですけど、本当に祈りに近いっていうか、独り言に近いかもしれない。誰かに伝えたいけれど、あの頃の自分に伝えたいって気持ちもあるので、願い、祈り、そして独り言の固まりだと思います。

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