ヴォーカリストのためのライブハウス大作戦!【集中連載】『ロック・ヴォーカリスト“THE BIBLE”』Vol.6(後編)

文:本山nackeyナオト、藤井 徹(Vocal Magazine Web) 撮影:ヨシダホヅミ 取材協力:西川口Hearts

おはようございます! SMDボーカル教室代表、ヴォイストレーナーの本山nackeyナオトです。生徒さんからは【ナッキー先生】と呼ばれています。

最終回の後編は、バンド・ヴォーカリストの基礎知識。いよいよライブハウスへの取材を敢行だ。初めてライブハウスのステージに立つ君に、ヴォーカリストが知っておくべき情報満載でお届けするぞ!

バンド・ヴォーカリストに必要なライブハウスの知識

ライブハウスへ行ってみよう!

 ヴォイストレーニングのあとは、今回もバンドヴォーカリスト、バンドマンのための実践コーナーをお届けしよう!
 スタジオで練習してうまくなったら大勢の人の前で演奏したいよね。最終回の今回は、いよいよバンドデビューに欠かせない、ライブハウスの知識だ。

 筆者スタジオのご近所、埼玉県川口市にあるライブハウス、西川口Heartsにお邪魔してきた。Heartsは天井高4mのホールと広々としたラウンジを併設した、音も最高のライブハウスで多くのメジャーバンドも誕生・出演している。
 広いトイレも付いている楽屋など、ミュージシャン思いのライブハウスで、筆者の仲間のプロバンドにもとても評判がいい。

ライブハウス外観
ライブハウスの中

 筆者が取材で訪れたのは2023年の1月、『GAKU-SAI』という高校生を対象としたコンテストの埼玉県予選だった。当時高校2年生(現3年生)が中心となった7バンドが出演。ライブパフォーマンスを行ない、レコード会社のスタッフなどが審査して、勝ち残ったバンドが次のステージに進むという舞台だ。

 各バンドへのヴォーカリストからもコメントをもらったのだが、そちらは後半でお届けするとして、まずは西川口Heartsを例に、ライブハウスとはどういうところかを紹介していきたい。

◎ステージ

ステージ全景
ステージ

 ライブハウスの中心は、もちろんステージだ。Heartsのステージはフロアより高い位置にあるオーソドックスなライブハウスのスタイル。広いホールなどでは、客席前列はステージを見上げる形だが、後方に行くに従ってステージを見下ろす形になる。2階席、3階席などは完全に上から観るスタイルだよね。

 左右にドドーンとあるのがPAスピーカー。すべての音はここから客席に向けて出力される。バンドマンやスタッフが出音(でおと)と呼ぶのが、ここから出る音のことだ。一方で、中音(なかおと)とはステージの中で「演奏者が聴いている音」になる。

 では、ステージに上がってみよう。バンド形態や楽器を弾きながらプレイする場合などで、立ち位置は変化するものだが、多くのヴォーカリストはステージの中央に立って歌うことが多いはず。

ヴォーカルの立ち位置
ヴォーカルの立ち位置

 マイクスタンドの下に白いテープで「T」の文字が書かれているのがわかるかな? ここがいわゆる定位置となる。「ここで必ず歌いなさい」というわけではないんだけど、この「T字」はホントに重要。なぜなら、ここに立った状態で一番モニター環境が良くなるように「中音」は調整されていくし、照明もここに立っていることを前提として基本のライティングを組んでいるからだ。

 では、立ち位置の周りを見てみよう。目の前の足元にスピーカーが2台並んでいるね。これはフロアモニターというもので、通称「転がし(モニター)」と呼ばれている。よく見るとステージの上手(かみて)にも下手(しもて)にも1台ずつセットされているけど、こっちはギタリストやベーシスト用だ。

 フロアモニターの役割は、それぞれの演者が最も演奏しやすいように音を返すためにある。つまり、目の前のモニター2台は「キミ専用」の音を返してくれるってわけ。基本の設定はPAさんがやってくれるので、あまり心配はいらないのだけれど、例えば自分がバンドの演奏中に「ドラムのバスドラとスネアを重視して聴いている」のならば、それがしっかりと届くようにリハーサルの段階でリクエストすると、PAさんが調整してくれて、本番でも同じように返してくれる。

 プロのバンドを始め、特に大きめなホールなどではインイヤーモニター(通称イヤモニ)を使うアーティストが増えてきてはいるが、ライブハウス程度の広さではフロアモニターが主流。生音が大きなドラム、アンプからの音が聴こえるギターやベースなど、大きな音の中で演奏をするヴォーカリストにとって、最も頼りになる相棒がこのフロアモニターなのだ。だからこそ、パフォーマンスとしてステージを動き回ることはあっても「T字」の立ち位置で歌うことが基本だと覚えておこう。

フロアモニター
フロアモニター

 では、ちょっと左右を見渡してみよう。上手と下手の上方にもスピーカーがある。これはサイドモニターと呼ばれるもので、ここからもバンドの演奏する音が返ってきているのだ。

 サイドスピーカーは、どちらかと言うと上手と下手にいる楽器プレイヤーへのサポートがメインとなるが、当然ヴォーカリストの耳にも入ってくるが、バンド全体のモニターバランスを取った上で決めていくと良いと思う。

サイドモニター
サイドモニター

◎サウンドチェック、リハーサル

 ライブハウスでは、その日に開催されるライブに向けて、まずサウンドチェックという作業を行なう。スタッフがリハーサルの前に済ませていることが多いのだが、対バン形式のライブや今回のコンテストなどでは、その日の最初にリハーサルをやるバンドが実際に楽器を演奏して行なう。

 ほとんどがドラムからスタートし、ベース、ギター、キーボードといった順に音を出していく。もちろんヴォーカルも参加するのだが、サウンドチェックの最初はマイクが機能して音を拾っているか?をチェックするものなので、1曲歌ったりする必要はない。

 各楽器とマイクのチェックが終わると、バンドのリハーサルとだ。プロのワンマンライブでは演奏する曲のアレンジを詰めたりすることもあるが、アマチュアの場合、リハ時間は限られているので、演奏内容ではなくモニターバランスを重視して、テキパキと効率よく進めることがポイントとなる。

リハ風景
リハ時間は限られているので、テキパキ準備しよう!

 リハでは、まずは各自が気持ちよく演奏できるバランスで中音を作っていく。ヴォーカリストは、自分の声がちゃんと聴きやすいか、聴こえてほしい音が返ってきているかを最優先でチェックしよう。そのために大事なことがある。それは「リハだから抑え気味に歌う」のはNG。PAさんは本番での声量を聴いて調整していくので、本番と同じ大きさの声を出していこう。

 ヴォーカリストとしてはセットリストの「一番大きな声」と「一番小さな声」を出して聴いてもらえば問題ない。大事なのはむしろ楽器陣の音だ。ガンガンのロックチューンと静かなバラードではまったく使う音色が違ったりするので、両極端な状況はできるだけリハで確認しておきたい。
 例えば本番で3曲やるリハの時間が10分だった場合、1曲をすべて通すよりも3曲を少しずつやるほうが良いだろう。

 「一番大きな音」の中で自分の声が聴こえなければ音程がうまく取れない。そのときはメンバーへ「中の音量を下げてほしい」と言えるのが良いヴォーカリストだし、良いバンド。逆にバラードでピアノの音が聴こえなくては、これもまた歌えないのでPAさんに「ピアノの返しを上げてください」と言えばいい。

PAさん直伝! ヴォーカリストのための基礎知識

 HeartsのPAエンジニアを務める永瀬晃司さんに、ヴォーカリストが知っておいてほしい事柄を聞いてみた。どれも基本的なことだから、必ず覚えておこう。

◆マイクの持ち方

 「マイクの持ち方なんて、知ってるよ!」という人は多いとは思うが、意外と知らないこともあったりするので、改めて!

◎ライブで使うマイクは単一指向性。口に真っ直ぐ当てる

 スタジオでもお馴染みのSHURE SM58がライブハウスでもスタンダード。単一指向性のダイナミックマイクなので、マイクに真っ直ぐ音を入れないときちんと拾ってくれない。写真のように離して歌わず、しっかり口元に持っていくようにしよう(松崎しげるさんみたいに声量がある人は、あえて離してうたうこともあるけれど)。

マイクの持ち方1
単一指向性のマイクは正面の音しか基本的には拾わない

◎グリルの部分を手で塞がない

 これはわりとみんな知ってると思う。マイクのグリル部分を手で塞いでしまうとハウリングの原因にもなるし、そもそも音がこもってしまう。プロがやってるじゃないかという人もいるかもしれないが、音が入っていく部分はちゃんと空けているはずだ。

マイクの持ち方2
グリルの部分を塞ぐとハウリングの原因になる!

◎ワイヤレスマイクの下は持たない

 シールドケーブルのないワイヤレスマイクを使うことも多くなっているライブハウス。ここで注意しなければならないのは、マイク下のほうが送信部分となっているため、ここを握り込んだ手で覆ってしまうことで電波が届きにくくなってしまうことだ。
 パフォーマンスで熱くなっても、こういうところを冷静でいてこそ、良いヴォーカリストと言えるので、気をつけよう!

ワイヤレスマイクの持ち方1
ここが送信部分になっている
ワイヤレスマイクの持ち方2
握り込んで塞がないようにしよう

◆知っておきたいPAさんへの指示

 リハーサルの場合は、演奏し終えたあと、PAさんにモニターバランスの調整をマイクを通して行なえば良いのだが、本番中、特に楽曲中に調整をお願いしたいときはどうすればいいのだろうか? そういうときはジェスチャーで伝えるのがスマートだ。永瀬さんに協力してもらい、いくつかジェスチャーの見本を示してもらったので、この機会にぜひ覚えておこう。

◎ヴォーカルの返しを上げてください

指示1
ヴォーカルを……
指示2
上げてください
指示3
転がしからの返しを……
指示4
上げてください

◆ヴォーカリストのNG行為

 続いて、ヴォーカリストのNG行為も見せてもらった。

フロアモニターに足をかける

 厳密に言うと、Heartsではモニターの縁部分に足をかけることはNGではないそうだ。ただし、事前に言っておいてほしいとのこと。NGはグリル部分に足を乗せること。グリルが曲がってしまうし、壊したら弁償しなくてはならないぞ。足をかけるなら、一足飛びに柵に伸ばそう(お客さんがいたら危ないからやめようね)。

モニターに足をかける
グリルに足を乗せるのは絶対にNG!
モニターに足をかける2
Heartsではここはギリセーフ!
柵に足をかける
柵に足をかけるのはOK!

◎ペットボトルに要注意!

 フロアモニターに限らずスピーカーは水にとても弱いので、近くにはペットボトルなどを置かないようにすること。高確率で蹴飛ばす可能性がある。

ペットボトル
ペットボトルはモニターのそばに置かないこと!

◆PA卓、照明卓

 演者が行くことはほとんどないが、PAミキサー卓と照明卓も紹介しよう。

PAミキサー
心臓部であるミキサー、ヤマハDM 2000
ワイヤレスレシーバー
ワイヤレスのレシーバーやパワーディストリビューターなど
調光卓
調光卓はCODEのPhantom 2048
配信設備
配信用の設備も整う

◆楽屋やロビーなど

◎楽屋

 出番を待ち、出演後に戻ってくるのは楽屋だ。Heartsの楽屋はとても広く、ステージ袖との間に防音のドアがあったり、楽屋内にトイレがあるなど充実している。この日のように7バンドも出場するコンテストなどでは、楽器だけでいっぱいになってしまうため、出番直前のバンドが準備するために入り、出演したらすぐに撤収するスタイルが多い。

楽屋
広々としたHertsの楽屋

◎ロビー

 ライブハウスにはドリンクを販売・提供するカウンターがある。Heartsは広いのでロビーにあるが、客席の中に小さなバーがあるタイプも多い。また、ライブハウスと言えばたくさんのフライヤーが貼られている風景を浮かべる人も多いだろう。レギュラーになって、ぜひ告知できるようになろう。

バーカウンター
ドリンクを販売するカウンター
フライヤー
フライヤーを見るのも楽しい

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