ヴォーカリストのためのライブハウス大作戦!【集中連載】『ロック・ヴォーカリスト“THE BIBLE”』Vol.6(後編)

文:本山nackeyナオト、藤井 徹(Vocal Magazine Web) 撮影:ヨシダホヅミ 取材協力:西川口Hearts

ライブハウスのスタッフにインタビュー!

 今回は、ブッキングマネージャーの原畠陽介さんを始めとして、PAオペレーター永瀬晃司さん、照明・ホールスタッフの中村友朗さんからお話を伺った。

西川口Heartsブッキングマネージャー 原畠陽介さんインタビュー

スタッフさん1
原畠陽介さん

本山 若いこれからのバンドヴォーカリストのための、ライブハウスの知識をおうかがいしたくお邪魔いたしました。本日はよろしくお願いいたします。

原畠 お願いいたします。

本山 早速ですけど、Heartsさんはメジャーバンドも出演しているライブハウスですが、ライブを行なうのが初めてのバンドの出演も受け付けているのでしょうか?

原畠 はい、大歓迎です。

本山 どちらから応募すればよろしいのでしょうか?

原畠 ホームページから応募してください(応募フォームはこちら!)

本山 出演するのにオーディションなどはありますか?

原畠 現在は特にオーデションはありません。より適したブッキングの参考のために資料を拝見して、音源は聴きます。

本山 バンドの基準は楽曲、演奏力や動員力などいろいろあると思うのですが、どこで判断しますか?

原畠 まずはそのバンドの目標を聞きたいですね。僕はアーティストがやりたいことを応援して、育てるのがライブハウスだと思うんですよ。

本山 育てるということは、やはりプロ志向が強いバンドに来てほしかったりしますか?

原畠 今、ライブハウスは本当に多様化しています。ライブを行なうアーティストの目的もいろいろです。地下アイドルも出演しますし、とにかく楽しくライブをやりたい高校生バンドもいるし、メジャーバンドはプロモーションのため……とかさまざまです。コロナ禍以降、ライブハウスを取り巻く環境もかなり変化してきました。

本山 ウチのスタジオもコロナ禍以降かなり厳しいのですが、こちらはいかがですか?

原畠 厳しいです(苦笑)。でも皆さまのおかげで何とかやってきました(本山深くうなずく)。

本山 アーティストを育てるとのお話ですが、具体的には?

原畠 ライブ終了後のミーティングをしっかり行なうようにしています。

本山 あ〜、「お説教」ですね(笑)!

原畠 (笑)。そうですね。そのバンドに合った企画ライブなどもプロデュースしています。良いバンドがいたら、どんどん音楽関係者に紹介していますよ。

本山 まさにこれからのバンドにとっては最初の業界人かも知れませんね。その中で思わず贔屓したくなる若いバンドとは何かありますか?

原畠 贔屓されるには、やっぱり意気込みですね。埼玉出身で「このハコでテッペン取ったる!」みたいな。

本山 なるほど。

原畠 あとは最低限の礼儀ですね。会場に入ったらまず挨拶をしてほしいです。その際に名前とバンド名と物販スタッフを含む、すべて出入りする方も挨拶してほしいです。しっかり把握しておきたいので。

本山 なるほど。他に若いバンドが気を付けたほうが良いことは?

原畠 PA的にはマーシャルアンプのパワーとスタンバイの確認や、ベースアンプDIの抜き差しは言うべきですね。

本山 ヴォーカリストについて何かアドバイスは?

原畠 ピッチやリズムなどは本山さんのほうでご指導いただくとして(笑)、頭ひとつ抜けるには、持っている声質を磨くべきだと思います。いい意味での癖の強さですね。今、結局売れているのは灰汁(あく)の強さを研究しているヴォーカリストだと思います。

本山 ステージに中で気を付けることは何かありますか?

原畠 ヴォーカリストが歌いやすいかどうかは中(ステージ内)の音量にかかってますよね。中音の音量がとても大切です。最近イヤーモニターを使うヴォーカリストが増えてきました。

本山 やっぱり(イヤモニは)歌いやすいと思いますよ。

原畠 イヤモニの返し方は事前に伝えてほしいですね。あとは回線数が増えているのでアウトが足りない場合があります。例えば全員イヤーモニターを使うグループなどは事前に確認してほしいです。

本山 最後に、若いアーティスト、バンド、ヴォーカリストに伝えたいことをお願いします。

原畠 ネットなどで音楽があふれている中、軸をしっかり持つことが大切だと思います。新しいものがドンドン出てくる中で、巷の意見や世間のマーケティングに振り回されない音楽活動が大切だと思います。みんながみんな同じ目標じゃなくていいんです。大切な人、その人ひとりに想いを伝える……そんなアーティストも素晴らしいと思います。

本山 まったく同感です! 本日はありがとうございました。

 長年同じ音楽業界で、しかもアマチュアのアーティストをプロへ育てる点など、筆者はとてもシンパシーを感じた。


 現場の第一線で若手アーティストをたくさん観てきた原畠さん。アーティストに愛ある鋭い指摘など、「この人ホントに人間と音楽が好きなんだなあ」と感じました。大好きな音楽に関わり続けて、バンドをサポートし続ける原畠さん。すぐに実を結ばなくても、音楽を好きな気持ちが一番大切ですね。

PAエンジニア・オペレーター 永瀬晃司さんインタビュー

スタッフさん2
永瀬晃司さん

本山 初心者向けにお聞きします。そもそもPAさんってどんなお仕事ですか?

永瀬 音を作っていくエンジニアですかね。 お客さんに聴こえる音の調整、アーティストがステージ上で聴く音の調整、ドラムやアンプやマイクのセッティング、スピーカーの位置や角度などの調整を行なってます。

本山 ありがとうございます。まずはどのようにして音を調整するのでしょうか?

永瀬 基本的には低音から作っていきます。具体的に言うとバスドラムの音から調整していきますね。ドラムの音調整が終わったらベースです。その次はギター、キーボード、ヴォーカルと音を重ねていきます。すべての音の調整が終わったら演奏してもらって楽曲全体の調整になります。

本山 リハーサルの際に、アーティスト側から伝えてほしい点はありますか?

永瀬 いつもモニターから返す音が決まっていれば、最初に伝えてほしいですね。特にヴォーカルはモニターからの返しがないと、自分の声が聴こえませんので。自分が聴きたい音をしっかり言葉で具体的に伝えていただきたいです。

本山 なるほど。初心者バンドと上手なバンドでは、リハーサル時にどんな違いがありますか?

永瀬 うまいバンドはドラムの音量に合わせた音作りをしていますね。さらにギター、ベースのボリュームが絶妙です。初心者バンドは自分の音だけ大きくする傾向があるようです。

本山 わかるわ~! 「俺が俺が」の意識があると中音(ステージ上での音)がどんどん大きくなり、ヴォーカルが歌いづらくて……結局バランスが悪くなりますよね。

永瀬 そうですね。それとドラムがうまければ全体としてまとまるんですよ。歌を聴きながらドラムは叩くべきだと思います。うまいバンドはフェーダーを上げ下げしなくても(調整しなくても)バランスが良いんですよね。

本山 PAさんとして思わず応援したくなるバンドは?

永瀬 ホントに僕の個人的な意見なのですが、生意気でも、挨拶ができなくても音が良ければすべて良し(笑)。特にロックなんかは生きざまの部分が大切かな、と思うのですよ。だから、カッコよければすべて良し(笑)。

本山 職人ですね〜(笑)。でも読者のみんなは「生意気でいいんだ」なんて思わないように(笑)。ヴォーカリストとしての質問なのですが、最近は僕が現役の頃はあまりなかったイヤーモニターを使う人が多いですか?

永瀬 やっぱり増えてますね。

本山 何か注意点はありますか?

永瀬 一度に何人もイヤモニを使うと、ヴォーカル回線が足らないことがあります。あと、イヤモニは電波を飛ばしてますので、例えば同じビルに何店舗かワイヤレスを使っているお店などがあると干渉してしまうこともあります。やはり事前確認が必要ですね。

本山 PAさんとしてお薦めのイヤモニはありますか?

永瀬 お薦めというか、よくヴォーカリストが使っているのは、SHURE PSM300ですね。

本山 初心者バンドのヴォーカリストに伝えたい注意点などはありますか?

永瀬 マイクの指向性を知ってほしいですね。普段のスタジオ練習時からマイクとスピーカーの環境に慣れてほしいです。

本山 僕の現役の頃は、パフォーマンスの部分でモニターに足掛けたりしてましたが、やらないほうが良いですよね……。

永瀬 リハ時に伝えていただければ問題ナシです。モニターの縁(へり)ならOKだけど、グリルの真ん中だけはNGでお願いします。あと、水だけ(こばさないように)注意してほしいです。

本山 今日のHeartsさんのステージでは、ヴォーカル用のモニター位置はフラットですね。

永瀬 最近は真っ直ぐ設置する(特性がフラットな)モニターが多いんですよ。

本山 僕の頃は“ハの字”にセットするのが主流でした。

永瀬 もし位置を動かしたい場合は必ず確認してください。

本山 最後に、若いバンドマン、ヴォーカリストに伝えたいことは?

永瀬 リハーサル中にステージから降りて外音を聴いている演者がいますが、外音は任せてほしいですね。お客さんが入ると音は変わりますから。また、昔より音楽が多様化しています。ヴォーカルエフェクターなどを持ち込む方もいます。エフェクトをかける場所と歌詞カードは事前に教えてください。ライブハウスのPAはアーティストの音をともに創っていく、もうひとりのメンバーです。すべてのアーティストを応援します。

本山 僕もすべてのアーティストを応援します! 本日はありがとうございました。


照明スタッフ 中村友朗さんインタビュー

スタッフさん3
中村友朗さん

本山 若いバンドマン、ヴォーカリストに伝えたい注意点を教えてください。

中村 やはりセットリストや曲順表などの提出はマストです。

本山 照明のオペレーションをするときに意識していることは?

中村 内容にもよりますけど、演奏の邪魔をしないようにしています。

本山 アーティストのイメージ通りの演出をしていただくには?

中村 ざっくりでも構いませんのでセットリストに指示を記入いただきたいですね。例えば「赤系で」とか「派手に」とかだけでも要望に応じたいと思います。

本山 ちょっと困ったヴォーカリストとは?

中村 一番いいサビの部分でセンターにいないとかは、少々戸惑います。もちろんライブなので、その場の雰囲気で動くのはいいと思いますが、あまりにトリッキーだと、ピンスポでフォローできないので(笑)。

本山 最後にメッセージを。

中村 演奏が良ければイメージ通りの演出ができると思います。演奏がおぼつかない状態なのに暗転の指示やストロボの指示とかは、やめたほうが良いと思います。もちろん、挨拶やお客様に対して誠意ある行動はアーティストとしてというより、人間として必要だと思います。


 ライブハウスは本格的にバンド活動を行なう上で、一番初めの「プロの現場」。みんながアマチュア・アーティストであったとしても、お客様からお金をいただいて演奏するのだ。それは文化祭のステージや、オーディションのステージとはまた違った良さと厳しさがある。でもこれだけは言える。

 ライブハウスに出演することは、みんなの一生の宝物になるだろう。

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