【専門家監修】高い声を出す方法と、出ない場合の原因を徹底解説。ミックスボイスを育てる鍵、男女別の注意点、目的別のボイストレーニングをご紹介!

監修:桜田 ヒロキ
取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)

カラオケで歌うときに高い声が出ない、前は高い声が出ていたのに出なくなってしまったというお悩みはありませんか?

今回は、“ハリウッド式ボイストレーニング”を日本に持ち込み、発展させた第一人者であるボイストレーナー桜田ヒロキ先生の監修で、高い声を出す方法を解説します。

高い声を出すために重要なポイントから、目的別のボイストレーニング、前は高い声が出ていたのに出なくなってしまった場合の改善方法まで詳しくご紹介します。

監修

桜田 ヒロキ
神奈川県小田原市出身。X JAPAN、Dream Theaterなどに影響を受けてロックバンドのボーカリストとして活動。カナダ留学を機にボイストレーニングの道に進む。2008年にセス・リッグスが主宰するSpeech Level Singing International(SLS)より、日本人としてふたり目の公認インストラクターに認定され、日本人として最高位のインストラクターレベル3.5(最高レベル5)まで習得。さらにVocalizeU認定インストラクターを取得。2009年よりVT Artist Developmentを主宰し、全国各地でハリウッド式のボイストレーニングを提供している。クライアントには倖田來未を始めとするトップアーティストが名を連ねており、日本で一番レッスンの取りづらいインストラクターのひとり。

高い声を出す方法「3つのポイント」

まずは、高い声を出すために重要な3つのポイントを解説します。
最初から無理に高い声を出そうとするのではなく、自分の音域を知り、順を追って自分の声を育てていきましょう。

(1)自分の声種と音域を分析する

高い声を出すためには、自分の声の種類と技術に見合った発声練習が重要になります。

出典:Seth Riggs著 – Singing For The Stars

上の図は、各声種の平均音域です。
「テナー」、「ソプラノ」などの呼び方はみなさん聞いたことがあると思いますが、低音から高音に分けられています。

ポップスを歌う場合にはそこまで厳密に分類する必要はありませんが、声楽的なトレーニングは一番古くからある方法のため、おおよその自分の声種(声の種類)を知っておくと良いでしょう。

例えば「バリトン」の人がトレーニングによって「テナー」の音域を出すことはポップスでは可能ですし、声種をひとつ高くするのは不可能ではないこともあります。

ただし、最も低い男声種の「バス」の人が今すぐにOfficial髭男dismの藤原聡さんのような高音を出したいと言ってもほぼ不可能ですので、あくまで自分の声に合った高音の練習がすごく重要になります。

Official髭男dismの藤原聡さん、Mrs. GREEN APPLEの大森元貴さんはわかりやすい高音の例ですが、皆さんが同じようにすぐに高音を出せるかといったら、なかなか難しいんです。

理由はプロのシンガーたちを見ればわかる通り、みんながOfficial髭男dismの音域を歌っているのではなく、それぞれの歌を歌っていることが答えです。すでに才能溢れるプロのシンガーたちが証明済みということですね。

自分の魅力を活かした高音を出すためには、自分の声種に合った高い声の練習が必要だということです。

この声種の見極めはプロでも難しいので、すぐに声種を分けることが正解でもありません。高い声が得意なのか、低い声が得意なのかという見極めは、トレーニングである程度声が発達していく中で見えてくることが多いです。

“僕はしゃべり声が低いし、高い声が出ないからバスなんだろう”と考えるのは、間違っている可能性も高いです。その人が適切な音程でしゃべっているかどうかも、訓練の中で分析していく必要があります。

“自分の歌い声の最もおいしいところ”がまだわかってない状況であれば、それを一緒に探せる先生に出会うこともすごく重要になります。

すでに自分の声のキャラクターが確立している場合は、その人の声を活かしてどう健康的に歌っていくか。今持っている機能以上のことをやりたいとしたら、そこにどう上積みしてあげるのかを一緒に考えられるようなトレーナーが必要になるでしょう。

身体の構造から自分の音域を分析する方法

声が高くなりやすい理由は大きく分けてふたつあり、
・声帯そのものが小さい
・声帯から唇までの管(※専門用語では声道と呼びます)の長さが短い

ことです。

声の高さは、声帯から唇までの“管(くだ)の長さ”が影響します。
男性の低い声種である「バス」、「バリトン」の人は、声帯が入っている喉頭が下のほうについていることが多いため、管が長いです。

管が長い場合は、コントラバスのような大きな胴(ボディ)のようなイメージです。
対して管が短い高音の声種は、楽器で言うとバイオリンのような小さな楽器になります。

管が短い人も長い人も高い音を出すことができますが、コントラバスの高音はバイオリンと比べて比較的ぼやけた音色になりやすいです。

バイオリンの高音は鋭い音を出しやすいので、管が短い人のほうが高音で張り合ったときに映える傾向があります

どの声種の人も訓練で高い音を出せるようになりますが、持っている身体の構造や声帯の位置によって色の違う高音になるのです。

口が大きくて顔の形がベース型の人は、高い声が出る人が多い

口が大きく顔の形がベース型の人は、高い声が出る人が多い傾向があります。

例えばX JAPANのToshlさん、B’zの稲葉浩志さん、吉田美和さんをイメージするとわかりやすいでしょう。

ビヨンセ、スティーヴン・タイラー(エアロスミス)もそうですが、大きな口を持っていると口が大きく開くので、高くて煌びやかな音が鮮烈に出る傾向があります。

▶︎音域チェックについて詳しくはこちらの記事をご覧ください

【プロが教える】音域チェックを行なう方法と歌いやすいキーを見つけるコツを解説

1月特集『高いkeyの曲を歌いたい!』の第2弾は、「自分の音域をチェックする方法」。今回は、歌スク講師のひとりでもあり、ボイストレーナー&作/編曲家としても活動されている永町一樹先生が、音域チェックの方法について解説します。

(2)まずは土台となる地声と裏声を鍛える

自分の声種と音域を把握したあとに大切なのは、土台となる地声と裏声を鍛えることです。

きれいなミックスボイスを鳴らすためには、まずは地声と裏声のそれぞれが音楽的な発声になっている必要があります

ボイトレをまだやったことがない場合、そもそも地声や裏声がまだ不安定な方が多いです。

急に高音を出そうとすると喉を傷める原因になるため、順を追って高音ボイスを手に入れましょう。

(3)地声と裏声を繋げる発声方法を身につける

地声と裏声の土台ができたら、次は地声と裏声の間を繋げる発声を身につけましょう。

これは、「ミックスボイス」を習得するためにも重要なトレーニングになります。音域を拡げるというよりも、繋げるようなイメージで練習することがポイントです。

具体的な練習方法は、次の動画でご紹介しています。


高い声の発声について

ミックスボイス

「ミックスボイス」は、ボイストレーナーによって見解がさまざまですが、土台となる地声と裏声を繋げるための発声をミックスボイスと考えて良いでしょう。

この理論で考えると、地声と裏声を“混ぜる”わけですが、混ぜる素材がそれぞれぐちゃぐちゃだったら素材が良くないわけですから、ミックスして生まれてくる声は良い歌声にはならないですよね。

だから良い素材の地声と裏声を持って、素材が良い真ん中の声=ミックスボイスを作っていくことが重要になるんです。

ハイトーンボイス

英語圏での解釈で考えると、ハイトーンボイス=高音ボイスなので、裏声の高い声も、地声の高い声も「ハイトーンボイス」と呼びます。

地声と裏声がきれいに鳴らせて、ミックスボイスもきれいに鳴るようになったときに、高音の部分をハイトーンボイスと呼ぶようになります。

そのためハイトーンボイスを出すためにも、地声・裏声・ミックスボイスの発声を育てることが重要になります。


高い声を出すための男女別の注意点

基本的には、男性は女性よりも声帯のサイズが1.5倍ぐらい大きいと言われており、高音を出すための筋力は男性のほうが必要になります。

しかしかなり個体差があるので、男性でも声が高く声帯が比較的小さかったり、声帯から唇までの距離が短い方もいます。

自分の声種にマッチしたトレーニングを探っていきましょう。

男性が高い声を出すための注意点

男性は裏声が発達していないことが多い傾向があります。

そのため、地声ばかりを強化するトレーニングは避けるように注意しましょう。

まずは裏声のみをきれいに出せるようにトレーニングを強化し、地声と裏声のバランスを整えることがポイントです。

女性が高い声を出すための注意点

女性は地声が発達していないことが多い傾向があるため、裏声ではなく地声のトレーニングを強化するようにしましょう。

例えばカラオケで歌うときに薄い裏声寄りの声になっていると感じる人は、地声が発達しておらず裏声寄りの発声になっていることが原因です。

そもそも地声の低い声が出ていないのに高い声を出したら、さらに裏声の割合が多い歌声になってしまいます。

最初に低くどっしりした声を出せるように訓練し、そこから裏声との関係性を作っていくようなイメージを持ちましょう。


高い声が出ないときのチェックリスト

高い声が出ないときにチェックしてほしいのはこちらの3点です。

(1)が気になる人は冒頭の「自分の声種と音域を分析する」を実践してみましょう。

(2)が気になる人は「まずは土台となる地声と裏声を鍛える」を見直してみましょう。

(3)の過緊張性発声と声門閉鎖不全については、次の章で詳しく解説します。


高い声を出すと裏返る、かすれる原因は過緊張性発声、声門閉鎖不全の可能性あり

高い声を出そうとすると裏返る、かすれる人は「過緊張性発声」、「声門閉鎖不全」が起きている可能性があります。

左の図の出典元:Speech Level Singing資料

理想的な発声は上の図のプロセスですが、高い声がスムーズに出ない場合は声帯が過度に緊張しているか、声帯が閉鎖できていないことが原因として考えられます。

それぞれの特徴と、改善するためのトレーニング方法を見ていきましょう。

過緊張発声

高い声を出すときに、声門をどうしても閉じられず、首周りの筋肉をガチガチに固めて声を出していませんか?

そういった傾向がある場合は「過緊張発声」が起こっている可能性が高いです。

「過緊張発声」で高い音を出すと、サウンドが音楽的にきつくなってしまいます。すごく緊張しているような声になっていることも特徴です。

例えばファルセットでも歌うための発声をしているのか、力んだうえに事故のように出てしまったファルセットなのかをよく分析してみましょう。

過緊張発声を改善するトレーニング方法

「過緊張発声」になっている場合、改善するために“あくび”を使ったトレーニングを取り入れてみましょう。

あくびをしながら声を出すトレーニングを重ねると、「過緊張発声」のときに使っている筋肉と逆の動きをする筋肉を使うことができます。

「過緊張発声」は声門を閉じ過ぎていて、高い声を出すと詰まった印象になりますが、あくびをしたまま声を出すことで声門を緩めて声帯を下げるクセをつけることができます

声門の閉鎖不全

「過緊張発声」とは逆に、緊張がなさ過ぎて声門が閉じていない場合は「声門の閉鎖不全」が起きている可能性があります。

「声門の閉鎖不全」では高い音程を歌うときに、裏声にしようとしていないのに裏声になってしまう傾向があります。

高い声が出ないときは、「過緊張発声」と「声門の閉鎖不全」のどちらが起きているのかを分析しましょう。

声門の閉鎖不全を改善するトレーニング方法

「声門の閉鎖不全」を改善するためには、「過緊張発声」の改善トレーニングとは真逆のことをやっていきます。

まずはしゃべりながら、声門を閉じるように喉に緊張を加えて“あ”(英語では“あ”と“え”の中間母音の[æ])と発声してみましょう。

それができるようになったら、高い声で喉に緊張を加えて“あ”と発声する練習を重ねます。

高い音だと「過緊張発声」が起きてしまう人は、上を向いた状態で発声してみてください。

ただしこれは喉に“一定の緊張が必要なんだよ”と教育することが目的なので、まだ歌い声ではありません。

喉に程よい緊張を持って声を出せるようになったら、それを歌い声として作っていくために「まずは土台となる地声と裏声を鍛える」に進みましょう。


高い声が出なくなった原因

前は高い声が出ていたのに出なくなった場合は、加齢や変声期に適応したトレーニングができていないことが主な原因として考えられます。

原因を知ることで改善方法もわかりますので、しっかりと分析していきましょう。

加齢による変化に適応したトレーニングができていない

もともと高い声が出ていた人が出なくなる原因として多いのは、加齢による変化です。

出典:Hirata, Yamada, 2004

上の図は男性152人、女性144人の年齢による話し声の平均ピッチの変化を統計したデータです。

グラフの青色ラインが男性、赤色ラインが女性です。
横線は周波数=ピッチ(音域)となります。

平均値では、男性は変声期で5度ぐらいピッチが下がっています。
ちなみに男性が寿命に近づくとピッチが上がっているのは、声帯の中の筋肉が痩せることによって質量が減るためです。

対して女性は思春期を終えると徐々に下がっていきますが、これは声帯の筋力の衰えによるものです。

喉頭は宙吊りになっている組織ですが、加齢によって段々と下がってくるので、結果的に声帯から口までの距離が長くなっていきます。そのため低音化が進み、高い音域が出にくくなるのです。

若いときに高い楽曲を歌っていたアーティストは、同じ音域を歌い続けることが段々ときつくなる傾向があります。

加齢の衰えに対してうまく調整できないまま、自分の声帯の音域が少しずつ下がって出しにくくなっているのに、無理をして発声し続けた場合は「過緊張発声」を繰り返すことになります

その結果「機能性発声障害」になり、ステージに上がれるような声ではなくなってしまうケースがあります。

そのため“年齢に合わせた発声法”は、プロフェッショナルは絶対に身につけなければなりません。プロは休めないからこそ、発声障害になりやすい傾向があるので要注意です。

長く歌い続けるためにも今の自分の声を常に分析し、マッチした発声方法を身につけていきましょう。

機能性発声障害または変声期障害

男性は声変わりのときに無理をして発声したことが、高い声が出なくなる原因になることがあります。

変声期にうまく調整できなかった場合、機能性発声障害、もしくは変声期障害と呼ばれる状況になっているケースがあります。

機能性発声障害は、悪いクセがついているということです。

悪いクセがエラーだとしたら、エラーパターンを脳が正常のパターンとして思い込んで繰り返してしまうということ。

そのため、悪いクセを手放し、基礎的な発声練習からトレーニングしていくことが大切です。


高い声を出す方法まとめ

高い声を出すためには、自分の声の音域と特徴を知ることも大事ですし、高い声が出るようになったあとも敏感に察知していくことが重要です。

自分ひとりでは把握しきれない部分は、プロの先生にも頼りながら分析してみましょう。

高い声で長く歌い続けるためには、加齢などの変化に対応したり、その日のコンディションに合わせて歌えるようにボイストレーニングを取り入れることが理想的です。


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