【インタビュー】高橋 優 9thアルバム『HAPPY』をリリース。さまざまな形で届けられる「幸せ」をテーマにした楽曲について語る。

2025.01.24

取材・文:藤井 徹

萎縮してしまってはクリエイティブというものが成立しなくなってくる

──では、アルバムの楽曲について、時間のある限り聞いていきたいと思います。まず1曲目、「明日から戦争が始まるみたいだ」で、ここから来ましたか!って感じがしました。小編成で構成された楽曲ですね。編曲クレジットに書かれている3名(高橋優、DUTTI(UZMK)、須磨和声)で演奏も行なったということですか?

高橋 はい。バイオリン、ドラム、アコギ、ハーモニカ、タンバリンだけです。

──戦争という言葉をテーマにして、歌詞に入れるというのは、やはり気をつかう部分というのはあったかと思うんですが……その辺の正直な気持ちというのはどういうものだったんですか?

高橋 そっち方面のことも若干考えはしたんですよ。「ダメかもな」って。レコ倫(レコード倫理審査会)ってあるじゃないですか。そこで引っかかること、よくあるんで、僕。この曲でもそうなるのかなって思ったんですけど、そこで萎縮してしまってはクリエイティブというものが成立しなくなってくるというか、ワクワクするものができなくなる可能性があるので。まずは臆せず作ろうと。ちょうど別の曲でけっこう思い悩んでいたときに、ちょっと息抜きがてら一発で即興でやってみようかと思って、最近買ったHeadwayのギターでジャカジャカと即興で歌ったのが、この曲なんです。

 「あ、これ広がりそうだな」と思って、《明日から戦争が始まるみたいだ》っていうテーマで、A4ノート3ページ分ぐらいの歌詞を書いていきました。例えば《明日から戦争が始まるみたいだ》のあと、「2行目は何にします?」って聞かれたら、みんな何か別のことを言うじゃないですか。「え、こわーい」とか、「え、嫌だ〜」とか(笑)。何でもいいから思いつく限りのものを全部書いてったんです。もっといっぱい書けたでしょうし、無限に広がってたかもしれないけど、3ページ分くらい書いて、「よし、まずはこの中からこれとこれを混ぜて歌ってみようかな」とかっていう作業をやっていく中で、この曲になりました。

──遠い異国の話のようでもあり、未来の我が国の話のようにも感じるような、不思議な気分になりました。

高橋 僕はやっぱり、できるだけ身近な感じに歌いたかったですね。

──2曲目が「BRAVE TRAIN」です。編曲が池窪浩一さんと高橋さんで、1曲目に続いて少ない楽器数ながら、こちらは手数が多いバンドサウンドとなっています。

高橋 確かに。結果的にそうなりましたね。

──こちらは先にも触れたように、秋田県冬の大型観光キャンペーン『誰と行く?冬の秋田』テーマソングということで、TRAINという単語が示すように、疾走感のある楽曲ですね。

高橋 わりと攻めの姿勢というか、「秋田に来たら楽しいよ」みたいなキャンペーンだと思ったんですよね。だとしたら「秋田の魅力をふんだんに盛り込んだ歌」というのが、ひとつの選択肢としてもちろんあると思うんです。きりたんぽが美味しい、いぶりがっこが美味しいとか。なまはげ怖い!みたいな歌でもいいかもしれないですけど、自分の中では、そういった歌をもう書いているというのもあったんです。

──2022年に発表した「秋田の行事」などですね。

高橋 はい。一方で秋田って、そうも言っていられないというか、今ある魅力を知ってもらうことも大事だけど、その魅力をもっと広げていくことも大事だと思ったんですよね。秋田側(の立場)に立つと「こっからだろう」と。「こっから我々、転がっていって響かせていかなきゃダメなんじゃないの」という思いが強くて。もちろん旅する人たちに「何が起こるかわからない! 列車の中に飛び込んでいこうぜ!」みたい意味合いもあるんですけど、BRAVEという言葉は「勇敢な」という意味じゃないですか。それこそキャンペーンをやる我々が……僕は実際にキャンペーンをやる人じゃないんですけど(笑)、そういう気持ちっていいよねって。そんな意気込みが感じられる場所って面白いじゃないですか。「俺ら今アツいんで、ぜひ見に来てほしいです」みたいな。調子いい波に乗ってるミュージシャンが言いがちですけど、そういうライブを観に行きたいじゃないですか(笑)。

──確かに!

高橋 「いま脂が乗ってきてるんで、秋田県! こっからなんですよ」みたいな。そういう意気込みを曲調とかテンポ感に出したいなっていうのはありました。

──シンコペーションの前のめり感がいいんですよね。なんなら、歌詞も普通の譜割ではなく、シンコペに合わせて来てますからね。

高橋 いいんですよ、まさに前のめり。

──3曲目が『キセキ』ですね。この曲のスネアを含むドラムの音が素敵だなと感じていて。

高橋 あ、嬉しいですね。僕は誰に評価されることもなく、必ずドラムの音はめちゃくちゃリクエストするんですよ。

──この曲で言えば、スネアがカーンと抜けない音がいいとか、Bメロはスネアを打たないでタムで行ってほしいとかですか?

高橋 ちゃんとそうやって上手に言えればいいんですけど、僕は上手に言えないので(笑)。楽器名とか言わないで伝えたりします。「なんかすごく元気がいいんで、もっと元気なくしてほしいんです」とか。逆も言ったりします。「ドラムだけ、めちゃくちゃ抜けてほしいんです。ここはドラムが主役なんです」とか、かなり漠然とした伝え方をすることのほうが多いですね。「地鳴りのように」という時もあるし。例えば「明日から戦争が始まるみたいだ」で言うと、《機関銃でハチノスになって》というくだりを僕は歌っているんですが、そこだけマシンガンの音のように鳴ってほしくてドラムは16ビートで叩いてもらっています。あとは、「ここで爆弾が爆発したみたいにドコドンって鳴らしたいから、そこでエフェクトをかけてほしい」とか。そういう感覚的なものをみんなちゃんと聴き分けて作っていただいているというのがありますね。「キセキ」のアレンジは宗像(仁志)さんで、宗さんには、けっこう最近はわがままを言わせてもらっています(笑)。

──四季を表わす歌詞が素敵だなと感じました。やっぱり東北の方だなと思うのは、《冬荒ぶ》という厳しい表現で、だからこそ《芽吹く春》が尊いし希望があるのではないかなと。

高橋 やっぱり僕の中では冬は生命にとっては危機なわけです。僕は冬生まれで冬に生命が誕生した人間ではあるんですけど、すべて白銀に染まってしまうっていうのは、ある意味で恐ろしい景色だと思っているし、実際に吹雪って大変なんです。だけど吹雪いている景色から連想するのは、「いやそれに負けじと」っていう、どうなってもやっぱり芽吹く春が待っているということかなと思いましたね。

──そして、CD限定で4曲目に「はなうた -pray for Akita-」が収録されるのですね。ファルセットを使った歌唱が印象的です。メロディを作るときに、こういう歌い方のイメージがあったのでしょうか?

高橋 この曲を作ったときは即興に近かったですね。というのは、けっこう(秋田豪雨災害で)気持ちがやられてた……喰らってて。実際に何十年も住んだ人の家がなくなっていくところとか、みんなでテレビを観ていたリビングが泥まみれになって……。泥って汚物なんですよ。臭いとかやばいんですよね。普通のマスクをした上に防災用の固いマスクをしていかないと、家の中に入るだけでノロウイルスみたいな病気にかかっちゃったっていう人たちが実際にいて。危険地域に行くみたいな感じで、自分の家がそうなっていると思ったら、もういたたまれないというか、本当につらいじゃないですか。その状況を実際にこの目で見させてもらって……。曲がりなりに自分も手伝おうと思ったけれど、水を吸った畳1枚も持てなかったんです、本当に重くて。

 でもその人たちはそこで生きていく。中には「もう老人ホームに行く」とか、息子も娘も地元にいなくて一人暮らしだけど「どうにかやって行くよ」とかってニコニコ笑ってたりするわけですよ。そういう人たちとか、そこで助けようと思って奮闘している人たちとか、そのどっちもの背中を自分のこの目で見させてもらったときに、けっこう喰らって。自分にできることを見失いそうになった。弱気にもなりますし。そこで、「やっぱり自分にできることはもしかしたら音楽なのかもな」と思って、家へ帰ってから歌ったのが、この「はなうた」の原形になったものだと思うんですよね。あんまりはっきり覚えてないんですけど、そんなに計画的に作ろうと思った歌じゃないんですよ。だからメロからとかじゃなくて、バーっと歌って録って、それを広げていった感じの作り方だったと思いますね。

──次が「リアルタイムシンガーソングライター」ですね。僕は先に「あきたこまち」のCMで聴いてホッコリしてたんですけど、フルバージョンを聴いて「やられた!」と思いました(笑)。

高橋 そこまで意図的に作ろうとは思っていなかったんです。頭の1ブロック《ああ幸せだな》って作って、そこから「次どう行ったら面白いかな」っていう枝分かれの選択肢が生まれる。「こっちだとつまんないな」、「こっちは前と同じだな」とか試行錯誤していく中で、全然違うものをやってみて、「あ、面白い!」って思ったのが、次のリフのところ。そうやってどんどん「ワクワクする、面白い」ものを探しながら作っていきましたね。

──できたものを繋いでいったら、この形になったんですね。

高橋 そうそう。ちょっと入れ替えたりもしたので、三歩進んで二歩下がるじゃないですけど、「あれ? これだったらこのメロディがAメロのほうがいいかも」とかやってました。ただ、全然これは苦じゃなかった。この曲めちゃくちゃ楽しかったですよ、作ってるときも。

──大きく場面チェンジする激しいリフは「エレキでニルヴァーナ風に行くぞ」って?

高橋 編曲家の池窪くんとは、ニルヴァーナという言葉すら出てこなかったですからね。「ああ、アレでしょ?」、「そうそうそうそう」って(笑)。

──歌詞の大きな軸としては、高橋さん自身であることを指す、リアルタイムシンガーソングライターに自身が問いかけているということですか?

高橋 あきたこまちの曲なんでね。あきたこまちを食べて育ってきた人間の曲なので、自分のことを歌うってことで全然いいなと思ったんですよ。「自分=あきたこまち」ぐらいの気持ちで生きてきているし、今朝だって、あきたこまち食べてきましたから。

──この曲がCMで初めて流れたときにSNSを眺めていたら、勘の良い子たちは、まだ頭のほっこりする部分しか聴けてないはずなのに、「このタイトルからして、このままでは終わらないはず」と、良い意味の裏切りを期待している子も少なからずいたように思えました。

高橋 ああ、それは嬉しいですね。15年やってきて、CMで流れてる曲を穿って見てるファンがいるって、独自感が出てきてますよね(笑)。すごい嬉しいですよ、それ。

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