【インタビュー】仲宗根 泉(HY)、初のカバーアルバム『灯 -10 Cover Songs-』で聴かせた、圧倒的な歌唱表現! その秘訣は「目の前にいる人に向けて歌うこと」

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)

日頃から大きな声を出してしゃべるというのがトレーニング

──仲宗根さんのようなパワフルな声量で歌いたい人が読者には多いと思うんですが、コツみたいなものってあるんでしょうか?

仲宗根 これ、私も全然わからないんですよね。どうやって出てるかとか(笑)。

──では、強弱のコントロールはどこで行なっている感覚ですか?

仲宗根 どっちかと言うと気持ちでやってるんですよね。本当に歌詞に沿った歌い方をするようにしてるから。同じ《愛してる》でも、耳元で囁くように《愛してる》って言ってあげたくなるときと、遠くにいる人に向けて、大好きなんだっていう気持ちを込めて《愛してる!》っていうときは、声の強弱が全然違うじゃないですか。その上下の歌詞で、この《愛してる》はどう歌うべきかっていうのを判断しながら歌ってるって感じです。“歌っている”っていうよりかは、言葉をしゃべってるみたいな感じなのかなあ。うまく歌おうとしたり、大きい声を出そうってなると、ただただ喉が痛いかお腹が痛くなるかどっちかだと思うから(笑)。私の場合は歌詞の物語を見て、どの歌い方が自分に合ってるのか?っていうのを感じながら、ですかね。そうすると声は自然と出るし。

もうひとつ大事にしてることは、ちゃんと的確に伝えたい相手を想像する。これはずっとやっていますね。単に歌が好きだからワーッと歌うっていうことはあまりなくて。“誰かに伝えたい”とか、“あなたのことが好き過ぎて、このハッピーな歌を届ける”とかね。そういう風にいつもやっているんです。私は娘との二人暮らしなんだけど、例えば娘が「お風呂入りたくない」ってごねたら、私が《♪ お風呂に入りた〜い ♪ 》みたいに歌うという、ミュージカルみたいなことを日頃からやってます。日頃から大きな声を出してしゃべるというのが、たぶんトレーニングみたいになるんじゃないかな。

──感情をちゃんとやり取りすること。その延長線上に歌があるんですね。

仲宗根 そうそう。たぶん「大きな声はどうやって出るんですか?」とか、「強弱をどうやって付けるんですか?」っていうのも、日頃からやってないと。カラオケボックスへ入った瞬間とか、ライブのときだけでは絶対できないから。日頃から常にそういうものを意識しながら、しかもそれを意識しないでできるようになるまでやるとかね。そういう風に声を出して暮らしていたら、自然とできるようになるんじゃないですかね。

──すごくわかりやすいアドバイスをありがとうございます。では、曲を作ったり歌詞を書くとき、どんなところから着想を得ることが多いですか?

仲宗根 私はやっぱり体験談とか人から聞いた話じゃないと、わりと書けないですね。

──空想でゼロから物語を作ることもしないですか?

仲宗根 空想しようと思ってもできないですね。だけど、人から聞いた話だったり自分の話なら、1しかないものを5にすることができる。それぞれ1しかないものでも、5人に聞いたら25個になるじゃないですか。そうやってどんどん増やして物語を作ったりすることはありますね。やっぱり自分の体験じゃないと感情が描けない。そして感情が落とせている歌でないと歌えなくなってしまうから、さっき言った強弱を付けるとか、そういう細かいことにもどんどん繋がってきますよね。

──2017年に『1分間のラブソング』というソロアルバムをリリースしていますが、こちらはInstagramで1分程度ぐらいの楽曲を、自宅などでわリとラフにスマホで録ってして投稿し、それをきちんとレコーディングし直すというスタイルでした。すごく時代に合っているし、楽曲の良し悪しに長さは関係ないって、すごくハッとさせられたんですね。このアイデア自体はどんなところから浮かんだのですか?

仲宗根 まさしく「最近の若い子たちの曲って短いよな」から始まってます。今考えると、私たちの時代ってイントロもすごい長かったじゃないですか。でも、今の子たちは本当にイントロがないぐらいの勢いだし、Dメロなんかもない、みたいな。本当にボンボンボンボン切っちゃってるから。「それは何なんだ?」って考えたときに、時代は時代なんだけど、やっぱりみんなが今はせわしなく生きている。もう「時間がない、時間がない」って感じで、何に対しても時間が足りないっていうイメージがすごくあったんですよ。そうは言っても、せわしなく生きることでストレスが軽減されるわけではないじゃないですか。だから、そんな人たちにでも「1分だったら聴いてもらえるんじゃないか」と思って始めたのがきっかけですね。

──ありがとうございます。そしてHYの活動としては、5回目となる『HY SKY Fes 2024』が来年3月に開催されます。こちらはすでにライフワークとなっていますが、改めてフェスについて紹介してください。

仲宗根 このフェスは、“子どもたちの素晴らしい未来を作れるように”ということで、子ども主体の企画がたくさんあります。例えば『こども新聞』は、子どもが記者として実際に取材しますし、『こどもカフェ』では注文を取って配ったりするんです。本当に子どもありきじゃないと成立しないフェスなんですね。それはなぜかと言うと、私たちの次の世代は、子どもたちが担っていくべきもの。その子どもたちがいろんなものに触れられなかったり、夢がなかったら絶対に幸せな未来にはならないから。

また、私たちも子どもの頃から今まで沖縄に住んでいるんですけど、沖縄の海もどんどん変わってきているんですよ。観光客の方が来て、「沖縄の海きれいだね」って言うかもしれないし、私たち自身も海はきれいだなって思うんだけど、10年前と比べて同じ色かなと言ったら、やっぱり変わってきていて。「以前はこんなにゴミが流れてこなかったのにな」というところにゴミがいっぱいあったりして。そういうのも今の子どもたちに学んでほしいから、SDGsも入れて世界一クリーンなフェスにしようということで、とにかくフェスの始まる前から始まったあとも、めちゃくちゃキレイです。もうこれが自慢で。ボランティアの人を募っているのもあるんですけど、ライブ本番中も私たちHYメンバーがひとりずつ、ボランティアの人たちと時間になったら一緒にゴミを拾い集めに行きます。もちろんそれは子供たちも参加します。この会場に来る方々って家族も多いんですよ。自分が捨てたゴミを子どもたちが拾っているのを目の前で見ることになるので、やっぱり捨てづらくなって持ち帰ろうっていう気持ちになってくれる。

ほかにも、耳が聞こえにくい、目が見えづらい、車いすという人たちは、フェスというものに行ったことがない人が大半だと思うんですよ。でも、そういう差別もなくしていきたいということで、車椅子の方には専用の高い台を作ってサポートをする方々と一緒に上がってもらう、視覚障害の方には専用タブレットを使った映像サポートをしたり、聴覚障害の方には、文字で今どこを歌っているかがわかるようにして、耳が聞こえづらくても楽しめるようなことをやっています。

さらに子どもたちがフェス期間に自分たちで『SKY Fes』の映画を撮ってるんです。その映画を後夜祭ということで5月に上映するんです。これだけ社会的なことをしてるけど、来るアーティストが錚々たるメンツで。みんなたぶんフェスの主旨に賛同してくれて、「ぜひ出演させてください」と言ってくれるんです。だから沖縄だけじゃなくて県外の方も、ぜひ観光がてら遊びに来てほしいなと思います。

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