取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
HYのキーボード/ヴォーカルの仲宗根 泉が、自身初のカバーアルバム『灯 -10 Cover Songs-』を11月22日にリリースした。
HYの代表曲「366日」でも圧倒的な歌唱表現を見せてくれる仲宗根が、男性ヴォーカリストの名曲を歌い上げている本作は、歌唱だけでなくアレンジの解釈としてもこだわり抜いた作品となっている。
本人とのデュエットが実現した「Lifetime Respect feat.DOZAN11」、大号泣の中で歌いきったという「I LOVE YOU」、ゴスペルテイストの「もう恋なんてしない」、沖縄の風景が自然と浮かんでくる「あなたに」など、全曲の歌唱やアレンジについてはもちろん、歌唱のルーツ、喉ケア、『HY SKY Fes』への想い……さまざまな点からたくさんの話を聞くことができた。
※インタビューの最後に素敵なプレゼントがあります。
「I Will Always Love You」を聴いて雷が走った!
──Vocal Magazine Web初登場ですので、まずは仲宗根さんの歌の原体験を聞かせてください。
仲宗根 泉 お母さんや親戚が教会のゴスペルクワイアで、叔父も三線を教える人でした。物心ついた頃には同い年の従姉妹と、誰かの誕生日のときやお祝いのときに歌ったり踊ったりするのが当たり前っていう感じでしたね。特に誰が好きっていうわけではなかったけれど、私が眠るときに、お父さんが毎晩爆音でマライア・キャリーとかベンチャーズとかを聴かせていたので、洋楽をよく聴いていたイメージはあります。
当時、近所でカラオケ機器が家にある歌好きなおじさんがいたんです。そこへ放課後にしょっちゅう友達みんなで行ってました。そこで「あなた」(小坂明子)とか「もしもピアノが弾けたなら」(西田敏行)とか、美空ひばりさんの歌なんかを「今度これを歌ってみなさい」みたいな感じで習っていくわけですよ。当時、村祭りでカラオケ大会があったんですけど、いつも私たち一族……花城(はなしろ)って言うんですけど、花城が毎回1〜3位まで総なめ(笑)。最終的には面白くないなあって、お祭りがなくなりました(笑)。ひとつの村祭りをつぶすぐらい、親戚一同みんな歌がうまいって有名でしたね。
──目に浮かぶようです(笑)。では、ずっと歌っていたから上達していった、みたいな?
仲宗根 それが私、当時も今もそうですが、すごい恥ずかしがり屋で「私なんかが人前で歌うなんて……」っていう感じで自己肯定感がすごく低いんです。従姉妹がめちゃくちゃ歌がうまかったので、私が作った曲をピアノで弾いて従姉妹が歌うという、Kiroroさんみたいなことを小学5年生のときからやってました。自分が歌うっていうことすらも考えたことがなかったし、この子こそ“華”っていう感じで、私は陽も浴びたくない、みたいな。
──そうだったんですか!?
仲宗根 そうなんですよ。だけど、ある日お友達の家へ遊びに行ったら、お友達のお姉ちゃんがたまたまホイットニー・ヒューストンの「I Will Always Love You」を聴いてて。もう本当に雷が走るってこういうことかって! 小学5年生の私にはものすごい刺激で「ああ、声も楽器になるんだ」って初めて思った。それまで「歌は歌、楽器は楽器」と思っていたのが、「なにこの、う〜ん、う〜ん、う〜んっていうの、あれフェイクって言うの? どうやってるの?」とか、いろいろ自分で調べ始めるわけですよ。
そこで歌にも興味が出始めてからは、みんなでカラオケボックスに遊びに行くようになるんですけど、普通の小学生は親を一緒に連れて行きたくないじゃないですか。だけど、うちだけはお父さんが音楽に厳しかったから、「お父さんが行かないならカラオケに行くのはダメだ」と。それで仕方なくお父さんを一緒に連れて行くんだけど、当時の流行り曲とか好きな曲を歌っている間、お父さんが私の膝に手を置いていて、お父さんの思っている歌い方をしないとパンって膝を叩かれたり、つねられたりとかするわけです。同級生の子たちはそれを知らないから同じ部屋にいてワーワー歌ってるんだけど、私だけはすごく嫌な空間というか……。「誰も知らないと思うけど、私は歌うたびに足をつねられているのよ」みたいな(笑)。それぐらい厳しかった。
──厳しい……。
仲宗根 例えば最初にサビから入る歌とかあるじゃないですか。そこでめちゃくちゃブワーって歌い過ぎると、もうその時点でパン!(と膝を叩く仕草)ってなるんですよ。それでほかの子が歌ってるときに注意を受けるんですけど、「なんで最初にお父さんが叩いたかわかるか?」と。わからないと言うと「もちろんサビだからメロディと一緒にワーッと歌っていいんだけど、最初から大サビのような歌い方をしてたら、大サビまで来たときのお前の感情は一体どうなってんだ?」と。「感情のペース配分をちゃんと考えなさい」とかね。
すごく細かく言われて、「私、いつの時代に生まれたのかな?」というぐらい(笑)。もう本当にそんな感じでした。よくテレビ番組の再現VTRとかで、大物歌手の人が子供の頃に厳しい先生から泣きながら教わってるシーンとかあるじゃないですか。まさにあんな感じというか「あれは私だな」って思うぐらい、歌に関してはものすごく厳しく言われましたね。
──でも、歌は嫌いにはならなかったんですね。
仲宗根 自分で作詞作曲するっていうことも始めていたから、そこに対する喜びが増えていくんですよね。お父さんから習うのは嫌だけど、自分で曲を作って歌詞を書いて、それを好きな人の前で歌う喜びとかね。そういうのを知っていくから嫌いにはならなかったですね。
──ありがとうございます。ゴスペルについても聞かせてください。
仲宗根 お母さんの兄弟たちがみんな教会に通っていて、私たち従姉妹も小さい頃に通ってたんですよ。人が足りないとお母さんたちがクワイヤーで歌ってたりもしてました。そういう姿を見ていたこともありますが、一番はマライア・キャリーのうしろでゴスペルをやってるバージョンのアルバムを聴いて眠るとか、そういう経験が大きかったんですよね。自然と「クワイアってこういう風なメロディなんだ。こういう風な歌い方をするんだ」っていうのを、独自で分析していた感じですかね。
──ボイストレーニングを受けたことは?
仲宗根 当時はなかったです。この世界に入ってすぐにボイトレの先生を付けてくれたんですけど、やっぱり今までやってきてないぶん、性に合わないじゃないけど、せっかちなんですよね。努力ができないタイプっていうのかな。「地道にやっていけば、そのうち花咲くよ」がめちゃくちゃ嫌いなタイプで……。当時は「(トレーニングを)やってるけど、これが何のためになるの?」っていう感じ。(HYの)ひーで(新里英之)とふたりで受けてて、ひーではちゃんとやってるけど、私はずっと先生とおしゃべり。「お前、(事務所に)怒られるよ〜」とか言われても「大丈夫、大丈夫。ちゃんと習ってきたと言うから」とか、もうそんな感じでした。
で、話はどーんと進むんですけど、自分の発声とかが気になってきて、それこそ3年前ぐらいに、ちゃんとボイトレをやり始めました。ライブツアーの前に何回か通うっていう程度で「ずっと練習してます」って感じじゃないですけどね。
──チェックに近いんですか?
仲宗根 チェックの意味合いもありますね。自分がやってる発声で当たってるかとか、やっぱりちょっと苦しくなったりするから「これは何がいけないのか?」って聞いて、先生に「じゃあラクにするためには、こういう方法がいいよ」って教えてもらったりとか、そういう感じですね。
──これだけ歌える方だと、本人の希望がない限りは「本当に基礎からやりましょう」とはならないでしょうから。
仲宗根 いやいや。自分は全然歌えてないんですけど、さっき言ったみたいに歌えてないくせに努力が嫌いなんですよね(笑)。
──普段からやっている発声のルーティンはありますか?
仲宗根 歌う前はリップロールをやったりしますが、どっちかって言うと、それよりも挨拶のほうがしますね。
──挨拶ですか?
仲宗根 そう。そこが初めて歌う場所であろうと何回目であろうと、また屋外などで「◯◯会館」とかではなかったとしても、自分の住所と名前……「どこそこから来ました、誰々です。今日はこういう理由でこの場に立たせてもらって、ご縁があって私は歌わせてもらいますが、しばらくこの場を借りますね」という挨拶を、その場所に対してするっていうのは、ずっとやってますね。
──おひとりでってことですよね。
仲宗根 そう、「語る」ってことですね。歌う前に。
──それで気持ち的に切り替えるのでしょうか?
仲宗根 なんか「人のお家に入る」じゃないですけど、土足で「わー、来たぜ、イエイ、歌おう!」というよりは、私の中で歌は「浄化」って考えてるから。自分が歌った声とか、歌そのものに対して、この目の前の人たちの感情をちょっとラクにさせてあげたいとか、そういうイメージがすごくあるんですね。だから「ここでやらせていただきます」という挨拶をさせてもらって歌うっていう感じなんです。
──普段から行なっている喉ケアはありますか?
仲宗根 2011年にHYで162本の全都道府県ツアーをやったんです。2日間歌って1日移動を1年繰り返して、もう喉がヤバいんじゃないかっていうぐらいになったんだけど「加湿すればいいや」と思っていろんなところを加湿しまくってたら、逆にホテルの埃とかも天井とか、見えない部分から落ちてきたんですよ。それで風邪ひいたりしちゃって「これ、やり過ぎてもダメだな」と。それから極端に加湿する感じでもなく、ライブの前に濡れマスクをするくらいで、ケアっていうケアもそんなにしなくなりました。
相当(喉が)痛いなとか乾燥で痛くなっているっていうときは、プロポリスとはちみつ混ぜて飲むくらい。あとはフリスクを口の奥のほうに忍ばせて歌うときもあります。唾液が出るから、乾燥しないようにっていう意味で入れたりしてますね。のど飴だとちょっと大き過ぎたりするけど、フリスクは小さいのもあるから舌の奥に隠しやすいんですよ。
──ステージドリンクとして置いてるものは?
仲宗根 基本的には常温のお水ですかね。一時期は磁気ネックレスで有名なファイテンさんのピンクというか紫っぽいドリンクがあって、それにハマって飲んでました。今でも持ち歩いているのは、ドイツ製のマリエンっていうメーカーのプロポリスの原液を固めただけのキャンディがあって、これを喉の裏に貼って歌ったりしてます。でもこれ、舐めた場所が真っ黒になるんですよ。
──イカスミみたいに(笑)?
仲宗根 そう。だから舐めたまんま“ワー”とか歌っちゃうと、舌に黒い縦線が付くから気をつけないといけないんですけどね(笑)。