大塚 愛

【インタビュー】大塚 愛、声色を七変化させた新作『marble』から紐解く、ヴォーカルに向き合った20年の曲折

2023.09.9

取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)

“自分”よりも“楽曲”がメイン

──今年で20周年を迎えるタイミングですが、これまで歌い方を悩んだり、苦しかった時期はありましたか?

大塚 歌唱に関して言うと、そもそもデビュー前から自分の歌に魅力を感じていないので、アップダウンがないですね。良いと思ったことがないからずっとダウンのままです(笑)。

──ご自身での評価は辛口なのですね。大塚さんはソングライターであり、ヴォーカリストであり、そしてプロデューサーとしての感覚も持ち合わせていらっしゃる印象があります。歌声を研究するときは、自分が歌いたいように歌う以上に、プロデューサー視点で客観的に判断する感覚も強かったりするんですか?

大塚 それでしかないですね。歌を大事にしたことがあんまりなくて。楽曲が良くなればそれで良いと思ってやってきたので、自分がもっとこう歌いたいっていう気持ちは今もないですね。

──楽曲を伝える武器のひとつとしてヴォーカルがあるような。

大塚 楽曲の足を引っ張らないっていうのが一番。やっぱり楽曲を良いなって思ってもらって、ようやく仕事として成り立つと思っているので、アッパーな曲なのにムーディに歌われてもなって私は思うんです。なのでアッパーな曲はアッパーな声で歌ったり。……うん、“自分”よりも“楽曲”がメインですね。

──その感覚は昔からずっと変わらずですか?

大塚 やっぱり自分の声が歌手というジャンルとして成り立ってないって諦めたときから、たぶんそこはもう、そもそも捨てている部分というか。たまたま今なぜか「歌う」というところも採ってもらえているけど、最初そこは無理なんだろうなと諦めたところから入っているので。作家として採ってもらえたらラッキーだなぐらいの感覚だったんです。

──それはいつ頃感じたものですか?

大塚 17とか18とか、そこら辺だと思いますね。

──何かご自身で声について感じるきっかけがあったのでしょうか?

大塚 言われて気付いた、みたいな。なんかモヤっと自分で思っていたけど、気付いてなかったのか気付かないフリをしていたのかわからないですけど、ハッキリ「才能がないよね」って言われたときに「ああ、やっぱりそうだ」と確信したというか。

──でも「さくらんぼ」がTikTokで再びバズっているように、時を超えて愛され続けていて、やっぱり大塚さんの曲は大塚さんの声だからこそ届くのだと聴くたびに感じるんです。……すみません、シンプルに感想になってしまいました。

大塚 ありがとうございます(笑)。

──デビュー当時の曲と今作とを聴いて思うのですが、声のハリがまったく変わらないというか、ピンッとハリのある声をずっと保たれていて、改めてすごいと思ってしまいます。秘訣があればぜひ教えていただきたいのですが……

大塚 いや、すごい変わってるんですよ。やっぱり身体も変わってるし、筋力低下も感じるし、その分ローがより深くなって、良いこともあって。若いときにあったものがなくなるっていうのは当然のことかなと。

あと、そもそも若いときから声を素のまんまではあまり使ったことがなくて、後処理でちょっと色付けして作ってきていたので、それは今も変わらず、曲に合わせて、あんまりキンキンしすぎると逆にもうるさいよねとかそういうので、ちょっと調整しながら声を作っていってますね。

──ヴォイストレーニングは続けていらっしゃいますか?

大塚 デビュー前まではやってたんですけど、そこから一切やってなくて。でもやっぱり一回出産で全然歌わなかったときに、喉の筋力の衰えをまじまじと感じて、これはいけないと。あと先輩からの助言もあって、やっぱり定期的に喉を動かさないと退化してしまうということで、今はレコーディングやライブがまったくないときには、自分で数時間歌って調整してます。

──レコーディング前や歌う前に行なうルーティンはありますか? 例えば声出しとか。

大塚 あっ、それはやらないようにしていて(笑)。なんか疲れちゃう。なのでやらないようにしています。あと辛いものは食べないようにしてます。

──辛いものはやっぱり歌唱への影響を感じますか?

大塚 影響があったら嫌だなと思ってビビってやってないです(笑)。あとお酒は飲まない。お酒飲むとピッチが下がってきちゃうんですよね。あと生理が当たらないようにもコントロールしてます。それもピッチが下がるんですよ。声帯も傷つきやすくなるので、当たらないようにコントロールしてます。

──そういう知識は病院に通ったり専門的なところで学んでいらっしゃるんですか?

大塚 もともと通ってたヴォイストレーナーの方だったり、先輩だったり、そういうのど専門のお医者さんの助言だったりとか、いろんなものを組み合わせて、自分が実際やってみて「確かにそうだな」と思ったものだけ残して。

──日々のルーティンや喉ケアは何か行なっていますか?

大塚 乾燥には気をつけてますね。冬はとにかく乾燥しないように、夏も今クーラーつけっぱなしなので、とにかく当たらないようにってことと……って言ってもあんまり水を飲んでないから気をつけてないかもですね(笑)。飲んでる方と比べると全然飲んでないので、気をつけてるっていう言葉の説得力がちょっと弱いかも(笑)。やっぱりお酒かな。無駄に飲まないようにしてます。ピッチもそうだし、体型にも影響するので。

>>次ページは「自分がどんな声が出せるのか、諦めないでチャレンジしよう」

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