【インタビュー】鈴華ゆう子(和楽器バンド)、さらなる雅な表現へ。「和」と「自分たちらしさ」を再確立した自信作『I vs I』を語る

2023.07.28

取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)

即興から生まれた「そして、まほろば」の超ハイトーンヴォイス

──アルバム『I vs I』のテーマは“戦い”だそうですね。

鈴華 本当にたまたま今の私ともぴったりリンクしていて。自分から「こうしましょう!」と言ったわけではないですけど、きっとバンドにとってもそういうタイミングだったんだと思います。テーマの発端としては、ありがたくもタイアップをこれだけたくさんいただいて、「これは和楽器バンドでしょう!」みたいな“戦国モノ”が多かったんです。そのうえで、ここ数年間はコロナ禍もあり“誰しも自分自身との戦い”というテーマを持っていたので、自己を見つめる戦いと、そのあと辿り着いた世界をアルバムで表現しようというところに至りました。

前半戦にタイアップ曲がギュッと凝縮されていますが、既にシングルカットされている楽曲もけっこう入っているんです。なので、どうやってひとつのテーマをもって作るかを考えた際、間にインタールードを挟んで、それ以降は戦いのあとの世界を描いているんですね。決してタイアップを寄せ集めたアルバムではなく、テーマに沿って曲順もしっかり練って作っています。

──鈴華さんが作詞作曲された楽曲はどんな制作スタイルで進めましたか?

鈴華 私はピアノでの弾き語りが最初にあって、イメージがあれば和楽器などの打ち込みを少し加えて、ピアノ+和楽器みたいな状態でデモを上げるんです。最終的にはバンドの楽曲のアレンジを手掛けているのがまっちー(町屋)なので、彼と相談しながら決めていきます。そのあとバンドメンバーに伝えて、それを参考に個性を思いっきりぶつけてもらうという感じです。

──メンバーのみなさんに「ここはこういう音を入れてほしい」と特にオーダーした部分はありましたか?

鈴華 もちろんアレンジの段階でお願いしていたりはするのですが、「そして、まほろば」はけっこう楽曲のイメージを忠実に伝えました。この曲は“戦いのあと、離れ離れになってしまった”という世界観をイメージされると思いますが、それだけではなく、救いがある、希望に満ちている表現に持っていきたかったんです。“まほろば”は素晴らしい場所といった意味合いがあるので、それを表現するアレンジをまっちーが作り上げてくれました。できあがったアレンジを聴いてテンションが上がったのを覚えてます。サビは8分の6拍子で擬似3拍子のようなリズムをとっていて、間奏では世界観が変化していくさまを音で表現しています。あと、ロングトーンが印象的だと思います。

──あれは度肝を抜かれました(笑)。あのフレーズはどのように生まれたのでしょうか?

鈴華 曲によっても違うのですが、「そして、まほろば」に関しては、サビで長いロングトーンを叫びのようにやりたいと先に決めてたんです。ワァァァ!と叫ぶ中で、楽器がどう騒ぐか?みたいな表現がしたいと思っていて。なので、サビのイメージだけ先に置いておいて、AメロBメロから作り始めました。あと、AメロBメロも段階を踏んでいる旋律に聴こえると思いますが、実はAメロと同じフレーズを転調してBメロを歌っています。心が移り変わっていくさまを音でも表現したくて、ちょっと遊び心を入れたりしました。

──歌唱の超絶テクニックがたくさん詰まっていますが、特にハイライトとはどんなところですか?

鈴華 アルバム全体を通して言えば、昔は存在を知ってもらうためにわざと詩吟の節調を全曲に入れたりしていましたけど、今はもうしていなくて、曲によって歌い方を変えています。より力を抜いて歌う曲もかなり増えてきました。キーも昔は高めばっかりだったのですが、今は時には低いキーも増やしてみたりして。そこもまっちーと相談しながら、例えば最後の「BRAVE」も本当はもっとキーを上げられるけど、あえてこれぐらいのテンション感でドシッと構えた印象になっていると思います。また、リズム隊がいつもより少ない「時の方舟」では、あんまり声を張り上げず語りかけるような歌い方をやってみたり、その逆を行くような叫びであったり、アルバムを連続して聴いても飽きないようにという意識で歌っています。

それと、自分の曲だと、例えば「そして、まほろば」のサビはどっちも母音が《あ》から始まるのですが、口の開きを何に持っていくかでロングトーンの聴こえ方が変わるので、作詞の段階で“サビはア行から始めよう”と決めていたりしましたね。

──「そして、まほろば」には《永遠に幸あれ そこはまほろば》の部分で超ハイトーンヴォイスも出てきますよね。

鈴華 そこは唯一自由に歌っているところなんです。レコーディングのときのテンションで決めていて。

──あっ、その場でメロディを決めたのでしょうか?

鈴華 はい。例えば《愛する人よ 愛した人よ/永遠に幸あれ そこはまほろば》を下がっていく旋律にもできるし、なんでもいけるから、この2行はあまり決めずに即興という感じで歌っています。まっちーと「大丈夫? 高すぎない?(鈴華)」、「めっちゃいいじゃん!(町屋)」って会話しながら(笑)。なので、その目の付けどころは個人的にすごく嬉しいです。

──あの異次元の高音はアドリブで生まれたものだったんですね……!

鈴華 そうなんです。ライブで歌わなきゃいけないのに、自分で自分の首を絞めるっていう(笑)。

──ライブでの超ハイトーンヴォイスが楽しみです。アルバムを通して本当に幅広い音域で、例えばアニメ『範馬刃牙』野人戦争編オープニングテーマの「The Beast」は特にキーが低いですよね。

鈴華 低いですね。サビなのにこのキーでいいのかなって思うぐらいすごく停滞して歌ってます。

──低音域で和楽器が唸る中、低い音を響かせるのはすごく難しいように感じますが、より歌が聴こえるよう工夫されたことはありますか?

鈴華 “言葉の語尾の処理”って言うのかな。アタックを強くするために、例えば《撃ち抜け〜♪》の《け》の母音の処理とか、わざとちょっと乱雑に歌うと破裂音が出たりするので、やりすぎないぐらいのニュアンスを探りながらヴォーカルを録った気がします。

──《しぶきを上げ交えたなら分かるだろう》もかなり下がりますが、深く響いてきますね。

鈴華 歌の技術で言うと、ローのときはかなり喉を開いて歌うと女性は低音が出やすくなるので、押し込めるように喉を開いて歌ってるんです。

──歌のキーはどんなふうに決めましたか?

鈴華 これはあまりキーの幅が広くないので、だんだん下げていって。ただ下げすぎても沈んで歌が抜けてこなくなっちゃうので、ちゃんと抜けてくるギリギリの低いところを探っていきました。

──何パターンか歌って試す形で?

鈴華 だいたい使えるキーは自分自身もメンバーも把握しているので、この辺かなというところを当て込んで、一応半音前後をアカペラで歌ってみて確認する感じです。

>>次ページは【女性らしい「雅」を描く、和の歌詞世界】

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