【インタビュー】竹内アンナ、そのギター同様にカラフルな歌声を響かせた、5th E.P『at FIVE』を語る。楽曲の主人公に“寄り添える声”の魅力とは?
2023.03.27
取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
“自分自身への自信”が声にも曲にも表われるんじゃないかなと
──3曲目「生活 feat.パジャマで海なんかいかない」は、トラック自体がとてもクールで、ゆったりとしたビートに乗せた、ポエトリー・リーディングのようなラップヴォーカルが聴けますね。速いラップと違って、ゆったりとしたラップで意識したことは?
竹内 この曲は、“パジャマで海なんかいかない”のキーボードのBesshoさんがベーシックなデモを送ってきてくださり、私がメロディを乗せる作業をしたんですが、デモの時点でほぼ今の形に近いメロディが出てきたんです。うしろで鳴っているトラックは正直めちゃくちゃ難解というか(笑)、拍子も行ったり来たりするしテンポもあっちこっち行くんですけど、リズム面ではそこまで深く考えず、トラックに引っ張られず淡々と語るように歌いました。
というのも、歌詞のテーマが“当たり前の生活、なんてことない日常”なんです。難解でカオスなトラックと淡々とした歌の関係は、“(世の中では)いろんなことが起きているけど、その中でも(自分の)生活は進んでいくし……”って。主人公には、新しい生活が待っていて、“これからどんなことをしよう。どんな楽しみがあるかな?”っていう、そのワクワクと不安を交えて歌っているんです。
──あえて淡々とする、つまりナチュラルな状態にということが意識としてあったんですね。
竹内 そうですね。なんか、それが“生活”なんではないだろうかって思いながら(笑)。
──ちょっと故郷の風景を思い出しているような歌詞ですよね。
竹内 はい、私が京都にいたときのことを思い出しながら書いた1曲です。時期的にこれから地元を離れて一人暮らしを始める子もいるだろうし、何か新しいトライをする人もいるだろうし……。慣れ親しんだ場所を離れて新しいところに行くってすごい不安で、私自身も上京したての頃は、正直めちゃくちゃホームシックになったんですよ。もちろん不安なこととか悲しいこともあるけど、それ以上に新しい場所に飛び込んだときに待っているワクワクもたくさんあって。
歌詞にもあるんですが、季節の果物をその都度味わうだけでも、何か“暮らしてる”って感じがする。あとは地元だとあまり使わなかったんですけど、東京に来てからすごく自転車に乗るようになったんです。東京は駅の間隔が狭いから電車に乗るよりも自転車で行ったほうが早い場所もたくさんあって、ふたつ隣の駅くらいまでは自転車で行けちゃう。しかも自転車のほうが普段見られない場所を知れたりするし、それも楽しいよとか。私が実際やってみて楽しかったアイデアを、みんなにも“こんなことあるよね、楽しいよね”ってシェアできたらいいなと思って歌詞を書きました。
──歌詞に出てくる《幼い日のわたしと同じ瞳の色した少女》については?
竹内 この曲は私自身のことを思い出したりもしているから、少女は《私》のことでもあり、実際に最近あった出来事のことでもあるんです。去年、ツアーの岡山公演に小学校高学年の女の子がひとりで来てくれていたんです。会場まではお母さんが連れてきてライブ中はずっとひとりで観ていて……。すごいちっちゃい子だったから私のマネージャーさんが隣で見ててくれたんです。そこで送迎してくれたお母さんからいろいろ話を聞いたようで、4年前に私が初めて岡山でライブをしたときに観に来てくれて、そこから4年間ずっと待ち続けて、ようやく初ワンマンの岡山でもう一度観に来てくれたそうなんです。“だから(娘が)すごい楽しみにしてた”っていう話を聞いて、アンコールで直接「何聴きたい?」と尋ねて実際にその曲をやったんです。その子も泣いて喜んでくれたんですが、私はその出来事がすごく嬉しくて。
やっぱりそれぐらいの時期に聴いた音楽って自分の中の核になっていて、それこそ私だと小学6年生のときに出会ったBUMP OF CHICKENのおかげで、今も音楽をやれているし。その大事な時期にまず私の音楽に出会ってくれたっていうのがすごく嬉しくて。しかもその子はそれよりもっと前に出会ってくれてライブを待ち続けてくれて、ようやく初めてワンマンライブを観に来てくれて……。言ってもまだ小学生だから、これからたぶんいろんな音楽に触れて、もしかしたらそのうちライブに来なくなっちゃうかもしれない。でも最初に聴いた音楽ってやっぱり忘れられないから、彼女がいろいろな音楽を聴いたあとも、いつか“そう言えば私、この音楽好きだった”って、何年後か先にちゃんと戻ってきてくれるように、そして戻ってきてもらうためには私も音楽を続けていなきゃいけない。“私もまたその子が帰って来られる場所であれるように続けるね、私も生活を続けるね”っていう想いでこういう歌ができました。
──歌詞を書く前にストーリーを作ってるから、想いが整理されてますね。曲についてもう少しうかがうと、間奏部に左右からスキャットのようなコーラスが流れてくるのですが、これは何語なんですか?
竹内 何語とかはないと思うんですけど、フィーチャリングで入っていただいてる“パジャマで海なんかいかない”のヴォーカル、FiJAさんとChloeさんが歌ってくださっています。ドラム、ベース、キーボードとヴォーカルのおふたりっていうバンド編成なんですけど、このトラックもクリックを聴かずに一発録りでセッションのように録っているんです。その時点ですごくライブ感があって素晴らしいんですけど、さらにおふたりのコーラスが乗ることで、この「生活」っていう曲が、不安を吹き飛ばすキラキラした曲になったなと思っていて。パジャ海の皆さんのおかげでとっても素敵な1曲になりました。
──続いて「あいたいわ」です。サビで繰り返す部分の歌詞は、まったく同じ音ながら《あいたいわ》と《LOVE vs WHAT?》と歌詞表記を分けているんですよね。
竹内 はい。だいぶ強引なんですけど(笑)。
──後半の《LOVE vs WHAT?》に込めた意味は?
竹内 最初は普通に《あいたいわ あいたいわ》の繰り返しだったんですけど、私は歌詞の中で言葉遊びをすることが多いので、ただ2回繰り返すだけじゃなくて、なにか発音が近い言葉で別のことを言えないかな?って探していたときに、この《LOVE》を《愛》と読んで、《vs》が《対》で、《わ》が《WHAT?》って読めたら面白いんじゃない?っていう、本当にそういう言葉遊びから始まりました。最初は音が優先でこの言葉を見つけたんですけど、よくよく考えたら確かにこれってちゃんと筋が通っているなと思って。
と言うのも、この曲は主人公が(好きな人に)電話をするかしないかで悩んでる話なんですけど、その悩んでる瞬間って、“好き”っていう気持ちと同時に、例えばプライドとか……“好き以外の気持ち”が邪魔してるから悩んでると思うんです。電話するとき以外にも、そういう駆け引きの瞬間ってたくさんあって。だから《愛と愛以外の何かが戦ってる》っていうのは、恋愛においては真理……ではないけど(笑)、正しいことなのかなと。このフレーズはすごく気に入ってますね。
──この曲の歌唱が、他の曲とはまた変わっていて、なんか“可愛い”歌い方に感じます。
竹内 そうですね。世界観自体もファンシーでラブリーで……「ハイパーウルトラポップ」って言ってるんですけど、私たちは(笑)。とにかくキラキラポップみたいなものを意識したので、他の曲に比べると“可愛い”というのはとても意識してます。あと、この曲の主人公が部屋の中でぐるぐる歩き回りながら、電話するか、しないかって悩んでるので、その主人公の気持ちを思い浮かべて、レコーディングのときは、“部屋の中でひとりカラオケしているイメージ”で歌いました。丁寧に歌うというよりも、“想いを伝えたくて、ちょっとムキになってひとりで部屋の中で夜中に歌ってる”みたいな(笑)。
──ちょっとテンションがおかしな状態ですね(笑)。
竹内 「テンション上がって歌っちゃってる」みたいな、そういうのは歌うときに意識しました。
──そういうこともあってか、ビブラートなどのテクニック要素をあえて使わない感じにしているのかなと。
竹内 そうですね。真っ直ぐ届けることも大切にしました。サビも《あいたいわ〜〜》って伸ばしてます。普段からそんなにテクニックを意識することはないんですけど、主人公の気持ちを考えたときに、たぶん真っ直ぐ伝えたいんだろうなっていうので、結果的に歌い方もストレートになりましたね。
──ここでは早口のラップが出てきます。竹内さんは難なく歌ってますが、これを上手に歌いたいという人へアドバイスを送ってもらえますか?
竹内 う〜ん、なんだろう。一回ゆっくりやってみるっていうのがいいと思うんですけど(笑)。韻を踏むので、そこに重さを置いてやっていくとリズムが取りやすく歌えるかなって思います。アドバイスって難しいですね(笑)。
──ありがとうございます。最後の曲は「made my day feat. Takuya Kuroda / Marcus D」です。フィーチャリングのおふたり(黒田卓也/sax、Marcus D/Beatmaker)とはどんなやり取りをされましたか?
竹内 曲を聴いていただいて「好きなように叩いてください。吹いてください」っていうオーダーでした。実際にレコーディングに立ち会わせてもらったんですけど、事前に考えてきてくださっていたみたいで、出てくるものに「こんなすごいフレーズが!」とか、「こんなカッコいいビートが!」って、私たちもすごい驚きとワクワクでした。
──そのトラックの上に歌のメロディを乗せていったのですか?
竹内 歌入れは全部録り終わったあとかな。おふたりのビートとトランペットが入ったからこそ、すごい重めの歌い方ができたかなと思います。だから、この曲は全員グリッド(注:DAWソフトで縦に通る線のことで、クリックもそこに合わせて鳴る)に合ってないっていうのが面白くて。トランペットもビートも私の歌も全部遅れているので、“全員遅れると気持ちいい!”みたいな(笑)。
──こういうスタイルの音楽はどうでしたか?
竹内 ここまで重心が低いのはやったことがなかったんですが、歌ってても気持ちよかったですね。この曲に限らず、どの曲も普段やったことがないテイストのものなのですが、こういうチルアウト系の曲は1曲あると、なんかいいなと思いましたね(笑)。
──そして新曲が加わって、5月から全国ツアーが組まれています。今回はdawgssのおふたり(森光奏太/b、上原俊亮/d)との3ピースバンドのスタイルで回られるそうですね。ただ、今回のEPの曲では、3ピースっぽい曲は見当たらないですけど(笑)。
竹内 まったくそうですね(笑)。3ピースに限らず普段から私はいろんな編成でライブをやっていて、弾き語りもあれば、自分ひとりだけどルーパー(注:ギターなどをひとりで多重演奏できる機材)を使うこともあれば、3ピースがあったりフルバンドがあったり……。あと、今度DJの方と私の2ピースもあったり、けっこういろんな編成があるので、最初から編成のことを考えて曲を作ることはまったくなくて、ライブは編成ごとにアレンジを毎回考えています。
今回も3ピースならではのアレンジができたらいいなとは思ってます。まあ3人なのですごいミニマムな形にはなるけど、ある程度そぎ落として、できた余白を3人でどう埋めていきましょう?みたいな。これからリハーサルに入るんですけど、そこはすごい楽しみです。私は今回アコギだけでなくエレキも使うので、そういった部分では今までと違うライブになるんじゃないかなと思います。
──見どころはたくさんありそうですね。
竹内 はい。dawgssのふたりは私とほぼ同年代なんです。同年代だからこそ話し合いながらできるアレンジもあるだろうし、ぶつかり合う音とかもあるだろうから。それも今までにはなかったので、すごく楽しみでもあります。
──では、最後になりますが、竹内さんみたいな“カッコ可愛いヴォーカリスト”になりたい読者ヴォーカリストは多いと思うのですが、常日頃から心がけていることなどがあれば教えてください。
竹内 なんだろう……。私がデビューしてからいろんな方にお会いして、素敵だなって思う先輩たちは、みんな自分にすごい自信があるというか、それがあるから輝いて見えるんだなと思ったんです。いろんな先輩のアーティストさんに触れていく中で、私も“自分の曲”には自信あったけど、“自分自身”に自信を持てないときが最初の頃はあったので。やっぱり“自分自身への自信”が声にも曲にも表われるんじゃないかなと。
「WILD & FREE」にもありますけど、ちゃんと自分が主人公だっていう……自覚というとヘンかもしれないけど、そういうマインドがあれば自ずと出てくるものも、すごくカッコいいものになるんじゃないかなって思います。いつでも自分がちゃんと“ステージの真ん中に立ってるんだ”っていうのを忘れないでほしいですね。