【インタビュー】10周年を迎えるウォルピスカーター、“求められている声”に向き合った『ひとのうた』と極め続けるハイトーンの秘訣を語る。
2023.02.24
取材・文:後藤寛子
セリフのところが一番大変でした
──そして、CDのみのボーナストラックとして収録される「初音ミクの消失」ですね。これは改めて聴いて、名曲だし、恐ろしい曲だなと思いましたけど。
ウォルピスカーター 恐ろしかったですよ(笑)。ボカロで難しいと言えばこの曲でしょうということで、けっこう安直にチョイスしたんですけど、まあ大変でしたね。はははは!
──難しいポイントというと、最初の畳み掛ける早口のパートですか?
ウォルピスカーター 早口の部分とか、サビのハイトーンとか、パッと聴いて難しそうな部分は多いんですが、そういうところはけっこうなんとかなるんですよ。それこそメロディのパートは少ないので、すぐ録り終わりましたし。早口のところも、もともと本家の初音ミクが歌詞を全部発音してるんですよね。だから、もう何も考えずに書かれていることを一字一句すべて早口で発音していけばいいだけなんです。人間だと有声音と無声音があるので、子音を発音する/しないの区別をしていると難解になっちゃうんですけど。この曲に関しては一文字ずつ丁寧にパパパッと言っていけばいいだけなので、そんなに時間はかからなかったです。
──難しかったポイントはどういうところなんですか?
ウォルピスカーター セリフのところが一番大変でしたね。メロディが存在しなくて、自分の感覚でイントネーションを取るしかないので。もともと歌い手として基本的にカバーをやってきたから、存在するメロディをなぞる作業をずっとやってきたわけですよ。だから、こういうメロディが存在しないセリフパートは、あれ?ってなっちゃいました。明確な着地点がないというか……高い声は、だいたいそのフレーズの終わりに向けて作っていく感じなんですけど、語りにはそれがないので。どういう状態で喉を保つのかが感覚的にあんまり掴めなくて、ブレてしまうんです。しかも、サビ前にはシステムメッセージみたいなセリフパートがあるんですけど、そこは逆に棒読みを求められるという。演技力がいるところといらないところがあって、難しかったですね。
──たしかに。その部分は、けっこうミクの音声をそのまま使ってる人も多いですし。
ウォルピスカーター そうなんですよ。そこまでしていない人もけっこう多かったので。それだけ難しいところなんだなあって思いました。でも、歌うならやらなきゃいけないんだろうなと思って頑張りました。
──この曲をカバーしてみようとすると、ますは最初の早口パートがハードルだと思いますけど、そのコツというと?
ウォルピスカーター 僕は、滑舌に関してかなり過激な思想を持ってまして。僕自身、普段しゃべるときの滑舌はそんなに良くないんですけど、歌に関して言えば滑舌の悪さは甘えだと思っているので。どうにかなるまでやるしかないですね(笑)。このスピードになってくると、ほとんど舌の動きだけでやることが多いんですけど、舌の動きだけでどうにかならない子音をいかにやり過ごすかっていう部分が大きいと思います。
例えば、“パ”とか“バ”とか、唇を動かさないと発声できない歌詞だったり。舌の動きだけで言えば、この曲はカ行が連発する部分がけっこうあって、カ行が連発するとどうしても歯茎の上のほうを叩く速度が間に合わなくなるんですけど、そこをいかに工夫して、自分の舌の動きをごまかして子音を発音していくかっていうのはひとつ大きな指標になるかなと。
──前回のインタビューでも、もともと滑舌はあんまり自信がなくてという話をされていましたが、何か滑舌のトレーニングはしているんですか?
ウォルピスカーター いや、一切やってないですね。しゃべりの滑舌と歌の滑舌は、僕の中では全然違うものなので。そこがリンクしてくることはないかなと思います。練習するなら、歌用の滑舌を練習したほうがいいんじゃないかな。自分の歌を録音して、どこの滑舌が悪くてどうしたらいいのかを自分で考える能力を育てることが大事かなと思います。
──なるほど。今回のカバーアルバムが完成して、今までの作品と違いはありましたか?
ウォルピスカーター 今まで、全曲リクエストでのカバーアルバムは作ったことがなかったですし、作品作りをしている最中もけっこう迷いが多かったというか、「これでいいのかな?」、「こういう歌声を求められてるのかな?」って、ずっと何か模索しながらの作業でした。レコーディングが全部終わったあとも「これで満足してもらえるのかな?」みたいな不安があったんですけど、マスタリングを終えて、ようやく「いろいろ考えたけど大丈夫だろう」って落ち着きましたね。普通はファンに求められているものをお返ししていくのがアーティスト活動の基本だと思うんですけど、改めてすごいなと思いました。自分勝手ってやっぱりラクですよね。はははは!