【インタビュー】10周年を迎えるウォルピスカーター、“求められている声”に向き合った『ひとのうた』と極め続けるハイトーンの秘訣を語る。

2023.02.24

取材・文:後藤寛子

ハイトーンヴォイスを追求し続け、“高音出したい系男子”と呼ばれる歌い手・ウォルピスカーター。2012年に動画投稿サイトで活動を始めてから今年で10周年を迎える彼が、ボカロ曲のみのカバーアルバム『ひとのうた』をリリースする。

ハイトーンナンバー「Alice in 冷凍庫」から繊細なバラード「ドナーソング」まで多岐にわたる10曲は、ファンのリクエストによって選ばれたもの。これまでひたすら「高音」という自己の目標に向かって邁進してきた彼が、初めて“求められている声”に向き合ってアルバムを作り上げた。その中での新たな気付きや、極め続けるハイトーンの秘訣、さらにあのボカロ名曲カバーのコツなどについて探った。

「歌をうまく歌う」ってこんなに難しいんだなと改めて感じました

──まず、10周年ということに対してはいかがですか?

ウォルピスカーター もう10年なんだなあっていう感覚ですかね。自分では意識していなかったので、友達とかに言われて、「あれ、もう10年?」みたいな。歌ってみたを始めたときは「プロになりたい」という気持ちを持っていましたけど、漠然と「なんとかなるだろう」くらいの気持ちで続けていたら、ありがたいことにこうしてCDを作ったりするのが当たり前の環境になっていた感じですね。

──高音を追求するという軸は、10年間変わらずあり続けたと。

ウォルピスカーター 軸というより、もうライフワークみたいになってきています(笑)。僕は人生をかけて高音を追求しているわけですけど、僕ほど(高音に対する)情熱がなくても、自然に僕より高い声が出る人はいっぱいいるんですよ。なので、まだまだ道のりは長いなと思っています。

──今回、10周年記念で、ファンの方のリクエストに応えたボカロ曲のカバーアルバムにしようと思ったのはどういう理由だったんでしょうか。     

ウォルピスカーター これまで、ファンの方々のリクエストを基本的に聞かないようにしてきたんですよね(笑)。やっぱり僕は高い声を出したいので、とにかく今の自分の限界のキーの曲を歌いたい。そうすると、僕が歌いたい曲と皆さんが聴きたい曲があんまりマッチしなくて。それなら自分の意見だけを押し通そうというふうに活動してきたんですけど、今回10周年を迎えて、これまで応援してくれた方への感謝も込めて、いっそのこと10年分まとめてリクエストに応えようというコンセプトで考えました。

──集まったリクエスト曲を見てどうでした?

ウォルピスカーター 僕が全然歌わなさそうな曲とかも多かったですね。キーが全然高くない曲とか、何ならちょっと低い曲のリクエストもちらほら入っていたので、やっぱりマッチしてなかったんだなっていう(笑)。聴きたいと思ってくださるのはありがたいんですけどね。

──(笑)。求められる歌を歌ってみるっていうこと自体が、新たな挑戦だったんですね。

ウォルピスカーター そうですね。普段のアルバムのレコーディングに比べてモチベーションが違いましたし、自分で選んだ曲とはアプローチも変わってくるので。試みとして難しいところもありました。さっき言ったキーが低い曲としては、「Fire◎Flower」という曲の最高キーがHiCなんです。で、アルバムを通して一番高い音がHiHiDなので、1オクターブ以上の差がついてるんですよね。HiCと言うと、だいたいB’zの稲葉さんなどの男性の高い声くらいのキーだと思うんですけど、僕からしたらちょっと低くて。久しぶりに歌うキーだったので、今回一番時間がかかったのがこの曲でした。

──一般的に考えたら高いほうなんですけど、このアルバムではすごく低く感じますよね。歌ってみていかがでしたか。

ウォルピスカーター 高い声の場合、出たらオッケーみたいな部分がけっこう大きくて、越えるハードルが意外と高くないんですよ。ただ、「Fire◎Flower」くらいのキーだと、きちんと上手に歌わなきゃいけない。歌として、ひとつのまとまりが必要になってくるので、「歌をうまく歌う」ってこんなに難しいんだなと改めて感じました。僕はいつも歌を歌っているんじゃなくて高い声を出しているんだなあって一番痛感した曲でしたね。レコーディングでは、細かくテイクを切ってパンチインで録音をしていったんですけど、たぶん合計1000テイクは超えたんじゃないかな。

──高いキーを出せばいいというゴールではなく、表現力というベクトルになると、テイクを選ぶジャッジも変わってきますよね。

ウォルピスカーター そこが一番悩んだところですね。普段、歌をうまく歌うことをやっていないわけじゃないですけど、これくらいのキーの高さできちんと通して違和感がなく、かつ作品としてまとまりがあるようなトラックはあまり作ってこなかったので。「あ、いいテイクが録れたな」と思っても、しばらくしたら「これって本当にカッコいいのかな?」、「本当にうまい歌なのかな?」っていう迷いがどんどん出てきてしまって。なかなか決めきれずに何度もリテイクすることになりました。最終的には、「まあ、こんなもんだろう!」って感じですね(笑)。

──HiCあたりのキーになると、地声に近い声??

ウォルピスカーター そうですね。このくらいだったら全部地声で歌うんですけど、力み切らないぐらいの地声というか。あんまりパワーが出ないのが悩みどころでした。ヴォーカリストとして、やっぱりサビはパワフルに歌いたいし、リスナーの方にも力のこもった歌のほうが耳に響くじゃないですか。そのあたりの調整に非常に難航しました。

──逆に一番高いキーというと「Alice in 冷凍庫」ですか?

ウォルピスカーター そうですね。HiHiDになります。

──後半、どんどん上がっていって驚きました。前回のインタビューで、「魔法少女幸福論」のHiHiD♯が過去最高だったとおっしゃっていたんですけど、ほぼ同じくらい。

ウォルピスカーター そうですね。半音なんて誤差みたいなものなので(笑)。前回のHiHiD♯と同じくらいの難易度だったかなと思います。僕の今の限界はこのあたりですね。

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