取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)
テイク選びにこだわって、自分がベストだと思える形にした
──アルバム『KOE』のときは、うまく歌えているテイクを選ぶ従来のスタイルを変え、多少ヘタでも響くテイクを選ぶスタイルだったそうですが、今回のテイク選びもそういったところをポイントに選んだのですか?
佐藤 今作は全曲テイク選びにとてもこだわっていて、逆に自分がベストだと思える形にしましたね。ロックっぽいものとR&Bやソウルって音楽性が違うじゃないですか。サウンドが違うと歌の粗が目立ちやすいなっていうのがあって。ロックとかって、そもそもギターのチューニングが曖昧な楽器だったりもしますし、生で人間が弾いてますよね。逆に打ち込みだと、人間が鳴らすからこそ出る曖昧な部分がなくて、全部音程がピッタリ合っている。そこから(歌が)ずれると不協になっちゃったりするじゃないですか。なのでビートとの気持ち良い部分や声がハマる部分というのをすごくこだわりました。
そのため、歌のレコーディングが1時間ぐらいで終わっても、テイク選びに4〜5時間かけたりという感じで録ってましたね。あとコーラスも10声とか重ねるので、そこも長いんですけど(笑)。昔は録るほうに時間をかけてたんですけど、今は選ぶほうに時間をかけるようになりました。
──何テイクぐらい録るんですか?
佐藤 最近は通しを3テイクぐらいで、その中からベーシックを選んでます。ブロックごとも2、3テイク録っておきますね。部分部分で録るとストーリーが途切れちゃうような気がするので、基本は通して歌ったものから使っていきたいです。どうしても気になる部分は改めてそこだけ録ったりとか、接着剤みたいに組み合わせていく感じです。
──歌い方はあらかじめ決めておくタイプですか?
佐藤 なるべくそういうふうにはしてるんですけど、ただ、発声練習のあと2回ぐらい自分でフルで歌ってみてから、マイクとの調整用の0テイク目っていうのに挑むんです。そのときに、例えばウィスパーに録りたかったらマイクのゲインを上げてもらって声をちっちゃく歌うとか、そういうのを0テイク目で調整してます。それでどの方向にするかをエンジニアさんと決めてから、1テイク目をガッツリ歌っていく感じですね。
──レコーディングブースは、曲の雰囲気に合わせて照明を落としたり、歌うときの環境作りもこだわっているそうですね。
佐藤 今回もけっこう照明を落として歌ったものは多かったです。前作のEPだとあえて座って歌う曲もありましたけど、今回は全部立って歌いましたね。
──環境や空間というのも歌と向き合う気持ちに影響しますか?
佐藤 そうですね。例えばアンニュイな曲だったら煌々と明るいところよりかは、ちょっと暗くて間接照明ぐらいのほうが気持ちが入りやすかったりします。声の張り方が変わったりとか。すごい不思議で、感情とか身体の鳴りなのか何かわからないですけど、コンディションは一緒でも響き方がテイクによって違うことってけっこうあって。このノリの声はこのテイクにしかないなっていうことがあるんで、意外とそういう照明だけでも、もしかしたら変わるんじゃないかなと思ってやってますね。
──「melt into YOU feat.a子」のレコーディングでは、a子さんと一緒に入ったのですか?
佐藤 すごく現代的だなと思うんですけど、歌ってもらったものを納品してもらう形でした。ご自身のやり慣れている環境で歌を録りたいということだったので、そこはお任せして、自分が録ったものとあとで組み合わせてく感じでした。なので、ミックスがめっちゃ大変でしたね。録ってるマイクもそもそも違うので。
──相手の声によって歌い方を工夫した部分などはありますか?
佐藤 特に歌声を変えるというよりかは、録り方をすごく意識しました。a子ちゃんの楽曲をたくさん聴かせていただいていたので、倍音が多めのウィスパーな感じで録ってるんじゃないかなっていうのがあって。自分の歌を録るときは、まだa子ちゃんの歌はもらってない状態ではあったんですけど、ゲインを上げてもらって声ちっちゃめで歌う感じで録りました。普段よりちょっと息多めをイメージして、声をなるべく力強く張らないようにして。なんとかミックスを終えて、ちょうど良い感じになったかなと思います。
──さまざまな挑戦を詰め込んだ今作の制作を終えた今、佐藤さんにはどんな景色が見えていますか?
佐藤 ここからアルバムとかを作っていきたいなと思っているので、この延長線上のサウンドでもっといろんな曲を作っていけたらなと思ってます。『NIGHT TAPE』と『TIME LEAP』を総括しつつ、また新たにちょっと曲を書いて、ひとつにまとめられたらと思ってます。
──最後に、2月に開催予定の『LEAP LEAP LEAP』はどんなライブになりそうですか?
佐藤 バンドセットになるんですけど、今作のトラックもしっかり活かした感じのライブになるかと思います。ゆったりだけどノれるみたいな、ゆらゆら踊れるようなライブになったら良いなと思います。
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