取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)
佐藤千亜妃が、2023年1月25日にデジタルEP『TIME LEAP』をリリースした。
タイムリープをテーマとした本作は、さまざまな時代を彷彿させるサウンドメイクで幅広い音楽性を展開しながらも、過去を回想するリリックが流れる印象的な作品に仕上がっている。
リードトラック「タイムマシーン」では、自身が歌うきっかけであり、今なお敬愛するアーティストと語る宇多田ヒカルの「Automatic」のイントロフレーズのサンプリングに挑んだ音楽表現にも注目だ。
Vocal Magazine Webでは、レコーディング、マイク、喉ケアに加え、歌声の追求など、佐藤のヴォーカリストとしてのこだわりを幅広く聞いた。
どうやったら自分の求める声に持っていけるか研究し続けている
──バンドきのこ帝国ではヴォーカルとギターを担当、現在はソロ活動を続けている佐藤さんの歌声を形作ったルーツについて聞かせてください。中学生の頃に地元岩手県で路上ライブをされていたそうですが、それ以前から歌ったりしていましたか?
佐藤 小学校高学年ぐらいから誰にも聴かせず部屋でこっそり熱唱してました。宇多田ヒカルさんや平井堅さんを見よう見マネで歌ったり。すごいド田舎だったんでカラオケもなかったんですよ。部屋でCDをかけて一緒に歌ったり、アカペラで歌ったりとか、そんな感じでした。
──人前で歌を披露するのは路上ライブからですか?
佐藤 中学時代にハモネプが流行って、グループを組んで歌を発表するという学校の授業で、メインヴォーカルやってよって言われたことがあったんです。それで「夜空ノムコウ」を披露したらすごくびっくりされて、「歌こんなうまいんだ」とか「声が素敵だね」と褒めてくれて。それが初めて人前で歌った経験で、すごく嬉しかったです。それまで恥ずかしくてこっそり歌っていたけど、人が聴いて良いと思ってくれるのかなって自信がついたというか。そこからシンガーだったり、ミュージシャンを目指したいという想いがリアリティを帯びてきました。
──佐藤さんが初めて自分の歌声を聴いたのはいつ頃ですか?
佐藤 中3くらいですかね。カセットで録って聴いたときに「思った感じの声じゃないな」みたいな違和感が最初はありました。でも次第に慣れていったというか、徐々に時間をかけて、こういうふうに響いてほしいなって意識して歌うようになりました。
──当時憧れていた歌唱スタイルは?
佐藤 歌い方のスタイルに憧れていた人は……実はあまりいないかもしれないです。クリエイティブをリスペクトできたり、声が良いなとかは思うんですけど、それをマネしたいと思ったことはなくて。影響を受けてそういう歌い方になったということはないかなと思いますね。
──TikTokなどでたくさんの歌を弾き語りカバーしています。他のアーティストの歌を聴く際は、まず声の出し方を自分の喉で試すこともあるそうですね。そういった声の研究は昔から続けているのですか?
佐藤 小学校のときからやっていたと思います。ひとり部屋で歌っているときに平井堅さん、山崎まさよしさんや宇多田ヒカルさんのマネをしてみたり。ただ、憧れてマネるというよりかは、「こんな感じで歌ってるのかな?」「どうやったらこういうふうに伸びる声になるんだろう?」というまさに研究という感じで。ホントずっと歌ってたので、その中でいろいろ試してみたりしていましたね。あと大学時代はシガー・ロスのヨンシーの声が特徴的だなと思って、こんな感じかな?とやってみたり。
──意識的に声を分析するようにしているのですか?
佐藤 あんまり意識してないですね、好きでやってることだから。でも自分が誰かわかんなくなっちゃう感覚は嫌なので、自分の歌い方は持っていたいというのは一番にあります。そのうえで、「もうちょっとファルセットが抜けたら良いな」とかポイントで鍛えたい部分をボイトレで相談したり、自分の中で声を再構築していくような感じです。
──ボイトレにはいつ頃から通っているのですか?
佐藤 2015年くらいですかね。今はメンテナンスのようなことが多いです。やっぱり喉や声帯のコンディションが良い日と悪い日があって。その中でも本番で100%の力を発揮するためにどうすればいいのか相談したりしています。喉って筋肉なのでマッサージの重要性とか、声帯のメカニズムを知れたり、そういう基本的な知識を身につけながら、ライブ前にどういうアップをしたら良いのかを考えています。
──通い始めて変化は感じますか?
佐藤 全然違うと思います。ライブでも安定感が出てきましたし、音域が広がったりとか。でも急に良くなるというより、2年3年続けて結果が出てくるものだと思うので、それも声の研究と似たような感じで、どういうケアをしたら自分の求める声に持ってけるかというのを試行錯誤しながら続けている感じです。
──自分の歌い方にしっくりきたというか、違和感を感じなくなった瞬間は今までありましたか?
佐藤 いまだに自覚はないですね。まだ途中かなって思います。自分の場合、性格的に死ぬまでいろいろ試行錯誤するのかなって思ってます(笑)。
──きのこ帝国というバンドでのギター・ヴォーカルと現在のソロ活動とで、歌唱スタイルに違いを持たせている部分はありますか?
佐藤 バンドとソロで違うというよりも、楽曲ごとに違うかなっていう印象ですね。ロックやバンドサウンドだとアタックがちょっと強くなったり、逆に打ち込みやメロウなものに関しては、息多めなブレッシーな雰囲気だったりとか。曲の雰囲気によってけっこう歌い方やダイナミズムが変わるっていう認識で歌ってます。