【インタビュー】佐藤千亜妃、新たな扉を開いた最新EPと声へのこだわりを語る

2023.01.25

取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)

「タイムマシーン」は自分の中で自分を越えられるか、セルフジャッジ的に許せるかどうかという挑戦もあった

──今回リリースするEP『TIME LEAP』の制作はどのように進めていきましたか?

佐藤 タイムリープっていうテーマが最初に思いついて、そこから曲を作っていった感じでした。

──アレンジャー陣へのオファーはどのように考えていきましたか?

佐藤 まず曲を作ってそこから表現したい時代のサウンドや相性も含めて「あの人が良いね」というふうに考えていったのと、ご一緒したことがある人はイメージも湧きやすかったので「またお願いしよう」というふうに決めていきました。

──前作EP『NIGHT TAPE』はビートから作ったそうですが、本作の曲作りも同じでしたか?

佐藤 曲にもよりますけど、ノリというか、この曲は16ビートにするのか4ビートにするのかっていうのは先に自分の中で決めて打ち込みました。バスドラとスネアとハイハットぐらいは入れてからメロディとコードを付けていったりという感じで。特に作り込んだなっていうのはa子さんとフィーチャリングした「melt into YOU feat.a子」です。デモでも声をすごい細かく重ねながら構築していって、16声ぐらい重ねたりしましたね。無声音とかも混ぜて。

──デモで作り込むことも多いですか?

佐藤 そうですね。イメージを伝えるためにも、自分の中である程度イメージを完璧なところまで持っていってからオファーして、そこからまた膨らませる作業を一緒にしていくみたいな曲もあります。逆にシンプルにビートとコードと歌だけのこともありますけど。

──本作でシンプルなデモだった曲はありますか?

佐藤 「CAN’T DANCE」はわりとそうでしたね。編曲でChaki Zuluさんが入ってくださるということで、Chakiさんとは一度『ほろよい』のCM曲でお仕事を一緒にさせていただいてたので、トラックへの信頼感もあって、ある程度委ねたほうが面白くなるんじゃないかなと。

──逆にオーダーしたことなどはありましたか?

佐藤 もともと「どんな曲作りますか」というお話はしていたので、海外アーティストのリファレンスの共有などはしていました。そのうえでアレンジに移行するときにダンスミュージックにしたいねと話したり。今作はタイムリープというテーマで、いろんな音楽の時代感やジャンルの要素を盛り込んでるというのもあって、「どの年代のビート感にしますか」とか「シンセは逆に現代っぽくしますか」っていう音の詳細は相談しながら作りました。フレーズとかはお任せしたらピッタリなモノが上がってきて。曲によっては修正などで往復したりすることもあるんですけど、「CAN’T DANCE」と「タイムマシーン」に関しては、そんなに往復もなく、すぐにいい着地ができたかなっていう感覚でした。

──生み出すのがチャレンジングだった曲は?

佐藤 「タイムマシーン」は、宇多田ヒカルさんの楽曲「Automatic」からサンプリングさせていただいて作った曲なんですけど、すごくプレッシャーを感じながら作っていました。許可が出るのかな?とかリリースできるかな?っていうのもあって。宇多田さんにリスペクトがすごくあるので、自分の中で自分を越えられるか、セルフジャッジ的に許せるかというのがあって、自分でボツにする内容もありました。宇多田さんサイドからOKが出たときはすごく嬉しかったです。ガッツポーズしました(笑)。

──どのような理由でサンプリングすることにしたのですか?

佐藤 自分が一番歌うきっかけになったのは宇多田ヒカルさんっていうのがあって。今作で時間旅行として80年代90年代2000年代といったいろいろなサウンド感を行き来する中で、宇多田さんのデビュー曲「Automatic」は90年代の名曲で、しかも自分にすごく影響を与えてくれたアーティストの楽曲なので、現代版として何かまた違った形で表現できたら良いなってすごく思ったんです。今回のテーマともフィットする部分がありましたし、無謀にもトライしたいなと思って、スタッフさんの協力もいただきながら着地することができました。

──歌詞やヴォーカル表現を始め、曲全体に宇多田ヒカルさんと原曲へのリスペクトが散りばめられてると感じました。楽曲の中で特にこだわったポイントは?

佐藤 自分の中ですごくこだわったというかシビアに作っていった部分はAメロです。原曲の「Automatic」のAメロってすごく特徴的じゃないですか。リズムにハマっていて、本当にリズム&ブルースっていう言葉がピッタリくる。《七回目の》の言葉の置き方、《な》で切るのとか当時すごく斬新な感じがして。そこをマネしすぎたら良くないし、かといってメロディがメロディアス過ぎても「Automatic」のイントロと合わないみたいなのがあって、すごく難しくて。

前作で初めてラップに挑戦したんですけど、そういう言葉の詰め方をすれば原曲のAメロの雰囲気もありつつ、また違った形で表現できるのかなって思ったんです。Aメロをラップと歌の半々ぐらいのアプローチにした部分は自分ではこだわったというか、悩んだところでしたね。最終的にすごく好きな形になったので良かったです。

──子音の歌い方も印象的でした。意識して強めに発しているのかなと感じたのですが。

佐藤 そうですね。子音もわりとハッキリ出したいタイプで、技術的なことになっちゃうんですけど、ミックスのときもけっこう強調してもらったりするんですよね。

──声の作り方を新たに工夫した部分はありましたか?

佐藤 新しくっていうのは自分の中であまりわからないんですけど、普通に歌うのではなく、あえて苦しそうに歌うことを意識して録ったパートはありました。最後のサビ《しないでよサヨナラのハグ》とかは、もっと普通に歌えてるテイクがあったんですけど、歌い直していて。そこは一番感情が高ぶっても良いんじゃないかなと、ちょっと苦しそうに歌ってます。

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