【インタビュー】FIVE NEW OLDのHIROSHIが結成12年目の新たなる一歩『Departure : My New Me』を語る

2022.09.23

取材・文:荒金良介

英語だとパーカッシブになるし、日本語だとロングトーンになる

──今作は日本語の割合が増えたことで、全体的にポップになった印象も受けますが、いかがですか?     

HIROSHI 音楽を作るうえで大事にするポイントも変わったんです。何を伝えたいかによりフォーカスしてたので、それをちゃんと伝えるためには日本語だろうと。

──HIROSHIさんが今作を通して一番伝えたいことは?

HIROSHI さっきも言いましたけど、新しい自分に出会うことは良いことも悪いこともあるんですよね。人間は複雑なものなので、相反する考え方が常にあるから。寿司を食べたいけど、フレンチやハンバーグも食べたいみたいな。常にアンビバレントで二律背反な感情を僕たちは抱えているけど、それでいいじゃないかと。合理的に生きることをみんな求めるけど、そんなに自分は合理的ではないし、それをそのまま抱えて、みんなと一緒に寛容な社会を作れたらいいなと。

多様性を獲得するためには、僕たちひとりひとりが寛容でなければいけないし、自分らしさをちゃんと受け止めることが必要だと思うんです。それは暗い海にひとりで飛び込んでいくようなものなので、それは自分に対して言ってる部分もありますね。暗い海にそれぞれが飛び込んでいるんだけど、その先でちゃんと出会えるから、ここから出発しよう!と。

──もともとそういう考えを持っていたんですか?

HIROSHI そうですね。矛盾したバンド名もそうですけど……僕は子供の頃から“どっちなの?”と言われることが苦手なんです。なぜどっちかに決めなきゃいけないのって。今回その矛盾を言語化して、音楽的に強く表現できるようになったのは、メンバーやファンの人たちのおかげかもしれないですね。

──それで日本語の歌詞がグッと増えたんですね。

HIROSHI そうですね。でも世界に音楽を届けるうえで言語はあまり関係ないのかなと。洋楽が好きで育ったから、英語メインでやっていたけど、むしろそこにとらわれるのも違うなと。言語はメロディを歌うときのエフェクターみたいなものだから。英語だとパーカッシブになるし、日本語だとロングトーンになるから、適材適所に使えばいいのかなと。

──日本語の比重が増えたことで、歌い方に変化はありました?

HIROSHI 英語はパーカッシブな言語で、子音の組み合わせでリズムを作れたりするけど。日本語はあいうえおの母音がつきまとうので、常に口の形が変化するんですよね。最終的にそれは喉の疲労に繋がるので、僕の考えはいかに口を使わずに言葉を作れるか。そうなると、舌の位置が重要になるんです。日本語は母音が連なるので、管楽器的でレガートしている言語だから。僕らはポップミュージックをやっているので、子音が持っているパーカッシブな視点を持たせたいなと。

──ブロック・パーティのラッセル(Russell Lissack)など海外のプロデューサー、アレンジャーを数曲で起用しています。何か勉強になった部分はありましたか?

HIROSHI それぞれのアレンジャーさんによって色は違いますからね。音楽的に“こういうフレーズを入れてくるんだ!”みたいなところはあったけど……逆にアレンジャーさんが入ることで、自分たちの色がこんなに強まるんだなと感じました。一旦お任せするんですけど、ここが良くて、ここが足りないんだな、という自己理解にも繋がりますからね。ラッセルから“良かったところは使ってほしいけど、もっとベストな回答が出せるなら、君たちがやるべきだ”と言われたんですよ。彼がそう言ってくれたことで、他のアレンジャーさんともうまくコミュニケーションできましたからね。

──ラッセルがプロデュースした、初の書き下ろしアニメ主題歌「Trickster」は凝ったアレンジや展開で驚きました。まさに曲名通りの仕上がりですね。

HIROSHI 僕もこんなことになるとは思わなかったです(笑)。ラッセルはギタリストだから、その色が強く出ているのがサビのリードギターですね。僕たちはループミュージックっぽいギターの使い方だけど、彼はヴォーカルと合わせて歌うような音色を入れてくれたんですよ。すごくカッコよくて。これがないともの足りないみたいな。シンセサイザーの入れ方もブロック・パーティらしくて、ちょっとダサカッコいいところが気に入ってます(笑)。

サビのメロディは昔からあったもので、アニソンらしさもあるけど、僕らしさも失っていない。スタッフさんに好きにやってくださいと言われたこともあり、僕らに求められているのはスタイリッシュ、オシャレさなのかなと。で、スタイリッシュな音楽って何だろうと考えたら、ハウス・ミュージックじゃないかと。それでギターで弾いてみたらハマッたんですよ。全編それで行こうと思ったけど、2番で変わって、3番でドロップして、これは面白いなと。それはみんなでカードゲームしてるときの感覚に近くて、そのハラハラした不規則感が面白いなと。

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!