【インタビュー】Rin音が語る、13曲すべてが新曲となったニューアルバムでの挑戦と、二面性へのこだわり

2022.04.20

取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)

楽曲って練り上げたものだから、完成度の追求が必要だと思う

──アルバムのテーマは『cloud achoo』=「オバケの噂話」ということで、収録曲のタイトルも沿ってる印象を受けましたが、コンセプトはいつごろ考えたんですか?

Rin音 コンセプトはアルバムを作るとなったときに僕の中で案がふたつくらいあって、そのうちのひとつが『cloud achoo』だったので、これで行こうと決めました。

──テーマを決める前にできあがっていた曲もあるんですか?

Rin音 「悪運星人」はできあがってたと思います。けっこう前に書いた曲だったんですけど、この曲も含め、筋が通るアルバムのテーマだったのでそのまま採用しました。

──なんと、13曲全部が新曲ですね。その挑戦に込めた想いはどんなものだったんですか?

Rin音 普段サブスクでアルバムを聴いているときに、知ってる曲が入っていたりすると、 “聴いたことあるな”って飛ばしちゃうんです。そうするとアルバムってすぐに終わってしまうから、“全部が新曲だったら良いのになぁ”って思うことがけっこうあって。

いろんな曲に触れやすい時代だからこそ、いろんな曲を入れたいし、やってみたい。シングルはタイアップもあったり、ひとつのテーマにまとめるのはやっぱり難しいから、アルバムはアルバムでちゃんと自分の作品として出したいし、意図やテーマがなかったらもったいないなって思うんです。……まあ、制作は地獄でしたけど(笑)。

──1曲目の「Blue Diary」はどんなふうに歌おうと思いましたか? サビの儚いファルセットやラララのハミングなど、歌声からRin音さんの感情がすごく伝わってきました。

Rin音 僕の中では青春を思い出しながら歌いました。この曲はアニメ『アオアシ』のエンディング曲なんですけど、アオアシは、チームの中で、ひとりひとりが個人の課題にもぶつかっていくという青春の高校サッカー漫画。だから僕も青春を感じるタイミングで曲を作ろうと考えていたときに、ちょうど人生初のツアーがあったんです。ゲストで一緒に出るやつらは自分と同じくらいに音楽始めた友達で、彼らが僕の前にライブしてくれたり、フューチャリングで入ってお客さんを盛り上げてくれて、すごく助けられたし成功したと思いました。でもひとりになったとき、歌い方やパフォーマンスがどうだったっていう自分の課題にぶつかって悩むこともあったんです。それがやっぱりすごく青春だったなと思って、本当に仲間たちに感謝しているし、このマインドで絶対に曲を書こう!と思って、ツアーが終わって2日目に書いたのがこの曲なんです。

──そうだったんですね。

Rin音 僕は青春時代は基本的に冷静ぶっていて、人前では悩んでる姿を出したくないと思っていたんです(笑)。だから、曲でもクールに淡々と歌っているんですけど、サビやフックに当たる部分はやっぱり、いろんな想いや不安が積もって爆発しちゃうじゃないですけど、少しぶつけたいものがあるなと思って、レコーディングのときも意識して録りました。

──レコーディングのときに声色の表現を緻密に考えたりしますか? それともその場のフィーリングで歌いますか?

Rin音 自分の気持ちを歌ってるときは、自然と感情を乗せたくなっちゃいますね。しゃべってるときも自然と圧が乗るじゃないですか。それと一緒だと思うんです。

──個人的な話になりますが、「heaven town」の歌詞の世界観と、ちょっと気怠いサウンド感がすごく刺さりました。《天界での恋愛》というテーマは、どんなところから広げていったんですか?

Rin音 僕は死んだら楽になれるっていう思想があまり正しくない気がしていて。もし死んで幽霊になったとしても、感情があったらどう思うんだろう? 生きてる人への嫉妬とか、いろんなことを思いそうだなと思って。それに、もし死後の恋愛があったらどんなものなんだろう。でも、恋愛って身体でするものじゃなくて心でするものじゃないですか。だから、天界での恋愛で《依然愛は健在》だし、死んでみたけど楽じゃなかったから《精神状態ゲンナリ》というフレーズを入れているんです。

うまく言えないですけど、天界でも現世でも正直変わらないっていうことが言いたいんですよね。きっと僕は死んだら、生きているうちにやっとけばよかったって思うだろうし、結局どっちにいたって悩むんだろうなって。そんなことを考えながら書きました。

──言葉の聴こえ方もすごくカッコいいです。《溶け込む窓 外には雨 残されてる誰の 誰かの命も 止めないよ 止められないよ》は、波のようにメロディが上下しながらの3連符です。こういったメロディアスでありながらリズム要素もあるフロウはどうやって考えていくんですか?

Rin音 バトルでもトラップミュージックだとけっこう3連符とか16ビートで言葉を刻むんですけど、単純にそれを自分の曲でやると、曲としての完成度は高くないと思っていて。バトルでやるのはカッコいいんですけど、楽曲って練り上げたものだから、さらに聴き心地の追求が必要だと思うんです。声色の調整だったり、リリックがどう聴こえるのかという研究だったり。バトルじゃないときの普段のフリースタイル(での曲作り)は時間の余裕もあるので、気持ちがいいフロウはなんだろうって自然と探しちゃうんですよね。

あとは、16ビートで言葉を刻むと焦ってるように聴こえて、バトルだったら「焦ってんじゃん」とか「勢いよく空回ってんぜ」って攻撃されたりするけど、楽曲では逆に活きてくると思うんです。感情や人間味、そういった表現に使うことができる。短所は長所、長所は短所と思って使ってます。

──なるほど。フィーチャリングについてもお聞きしたいのですが、「bless feat.asmi」は「earth meal feat.asmi」でも共演したレーベルメイトのasmiさんを迎えています。おふたりの声が混ざる感じがさらに豊かに表現されていると感じましたが、前回以上にやりやすさもありましたか?

Rin音 単純に気心知れて、昔より仲良くなりました(笑)。連絡も取りやすいですし、この人はどういうリリックを書いてどんなふうに歌うかも知っている。今回に関しては、作る部分の割り振りがあったんですけど、僕が作った部分もasmiは僕が思った通りに歌ってくれて、本当にフランクにお願いできました。

──どういう割り振りで作っていったのですか?

Rin音 サビはasmiで、それ以外は僕が書きました。

──レコーディングは別々ですか?

Rin音 もう完全に各々で録りました。ここをこういうふうに歌ってといった話し合いも一切してないです。デモで僕が歌ったとしても、本番で歌うのはasmiだったりするので、だったらasmiの感情を歌に乗せたほうがいいし、asmiを全信頼して進めていきました。

──「hell virgo feat.ICARUS」と「spector wedding feat.A夏目」のフィーチャリングは、ICARUSさんとA夏目さんです。レーベルメイトで日頃から親しい関係だと思いますが、アーティストとしてリスペクトする部分はどんなところですか?

Rin音 ICARUSは本当にラップがうまいです。僕にはできないラップもこなすのに歌モノもできるっていう……。ラップにおける日本語の扱い方がうまくて、日本語としての形も残したままうまくラップにはめたり、英語も散りばめたりして、素直にスゲーって思います。A夏目はちっちゃいのによく頑張るなって(笑)。僕より4歳も年下で、そんなに下のやつでもやっぱり曲は作れるんだなぁって驚きますし、良いリリックもたくさんあって尊敬してます。そしてなにより純粋なんですよね。よく動いてて可愛らしいです(笑)。

──「sunny hunny」の歌詞にも《asmi クボタ Shunくん ICARUS A夏目》と名前が出てきますね。Rin音さんのアーティスト活動の中で、“一緒に音楽をやる仲間”というのは大切な軸のひとつのように感じます。

Rin音 いろんな意味で刺激を受けますよね。もちろん尊敬もありますし、アーティストとしての嫉妬もあります。そういう意味でも、活動のエネルギーは仲間からかなりもらってる気がします。悔しいとか嬉しいっていういろんな感情が生まれたり、音楽にこんなにムキになれるのはやっぱり仲間がいるからこそだし、近くに同じことをやって同じ夢を志す人たちが集まるからこそだと思うので。仲間は大事ですね。

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