取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)
シンガーソングライターのTOMOOが3月30日、デジタルシングル「酔ひもせす/グッドラック」を発売した。
ポップでエネルギッシュ、思わず口ずさんでしまう愛らしさを持つ「酔ひもせす」と、ピアノの弾き語りで、彼女の深い歌声が心にまっすぐ届く「グッドラック」。“どちらも大事な面を持つ”と語るTOMOOの音楽性をしっかり聴き込むことができる作品となっている。
夏にはメジャーリリースと、ワンマンライブを控えているTOMOOに、今回は新作の話を中心にインタビューを実施。彼女が語る言葉からは、歌へ真っ向から向き合う誠意と、聴く人を惹きつけるアーティシズムが見えた。
「酔ひもせす」は珍しく先にメロディができあがった
──2月に開催されたワンマンライブ(『TOMOO one-man live“YOU YOU”』)は、ご自身の感触としていかがでしたか?
TOMOO ライブで今回の新しいリリースのことや、メジャーリリースすることを発表させていただいて、私としても、今まで応援してくださっている方々にとっても、お互いに節目みたいなライブだったと思うんです。ただ、みんなの前で(メジャーリリースを)伝えるという意味では、すごく大事な記念のような日ではあったんですけど、これまで10年近く活動してきたことと、昨年の終わり頃から春先にかけてまた新作リリースに向けて動いていたので、“大きな変化”というよりかは、これまでの活動の地続きという気持ちが大きいです。作品を一緒に作っていただける仲間も増えて、さらにみんなと共感し合いながら、“もっと豊かにいろいろな表現をしていけるな”という道のりの、今はその途中だと思うんです。なので、“今年はまだまだこれから始まったばかり!”っていう気持ちですね。
──なるほど。そして3月30日に「酔ひもせす/グッドラック」を新たにリリースされましたが、すごくポップなTOMOOさんと、バラードを歌い上げるTOMOOさんの歌声と、どちらも味わえる贅沢な作品だと感じました。
TOMOO ありがとうございます。だいぶ両極端ですよね(笑)。どちらも春先の季節のイメージで書いた曲なんですけど、特に「酔ひもせす」は、五感が全開になって、細胞が動き出して体温が上がっていく……これからどんどんギアが上がっていくようなエネルギッシュな曲で、私が書いた中でもけっこうテンション高めな1曲です。一方で、最近でこそバンドで演奏する機会が増えたんですけど、もともとはずっとピアノの弾き語りを静かにやっていた活動が長かったので、その原点に近い形は「グッドラック」というもうひとつの弾き語りのほうなんです。“自分はこういう音楽性だ!”とどちらかには絞れないというか、どちらも大事な面を持っているので、今回はちょっと新しい試みとして「“両A面”デジタルシングル」という形で出させていただきました。
──それぞれの楽曲は完成までに時間がかかりました? それともスルッとできた曲でしたか?
TOMOO メロディと歌詞だけで言うと、この2曲は最近書いた曲ではないのですが、けっこうスルスルッと書いた曲ではありましたね。「酔ひもせす」は“春先”、“お酒”といった感覚的なイメージがパッと湧いてから、すぐにメロディの1フレーズができました。普段は歌詞先で書くことが多いので、私にしては珍しいんですけど。この曲はメロディが先にできて、あとから遊び半分で歌詞を当てはめていったような、けっこうノリで書いているみたいな部分が多くて、すごくサクサクできた曲でした。
そして「グッドラック」はもっとサッとできた曲で。でもそれは“簡単にできちゃった!”というより、ひねりがあるわけでもないし、歌詞もそんなに長くないし、すごくシンプルな曲なんですけど、素直に“手紙を書く”みたいなテンション感で書いたんです。曲も1日で書き上げたと思いますし、さようならの季節にスルスルッと、当時思っていたことを心のまま、素直に書いてできた曲です。
──「酔ひもせす」は20歳のときにお酒解禁で書いた曲とTwitterで拝見しました。
TOMOO あっ、それが残ってましたね(笑)。あんまり強調すると“ニューリリースなのにそのときかよ”って、大丈夫かなって思ったんですけど……まあでもそうです(笑)。ギリギリ20歳か21歳になるちょっと手前にできた曲です。なのでお酒への憧れが如実に歌詞に出てますね、《梅酒》とか《カルアミルク》を歌詞に入れちゃっている感じが。大学生だった当時、周りの子たちはサークルや学科の飲み会がある中で、私は全然参加していなくて。飲み会の経験が少ないからこそ逆に憧れが強くて、そういう歌詞になっている背景があります。
──今回、改めてリリースするに向けて進化させた部分はありましたか?
TOMOO 歌詞はなにも変えてないんです。なので、歌っている気持ちや歌い回しが変わった部分ですね。あと、この曲はサウンドプロデュースをmabanuaさんにやっていただいたので、当時まだバンドサウンドについて詳しくなかった自分の想像できる範疇よりも、もっともっと広いアイディアで、遊び心や新しい景色をサウンド面で加えていただきました。アレンジによって、20歳ではなく今になってからの「酔ひもせす」になった感覚がすごくあるんです。
──過去にはTOMOOさんがアレンジを共作している楽曲もありますが、今回は完全にお願いする形でしたか?
TOMOO 今回はお願いしました。打ち合わせで、 “こうしたいです”、“こういうのも入れたいです”というイメージをいっぱいお話して、デモを送ってもらったらもう、“一発OKです!”みたいな、“これでお願いします!!”というアレンジに仕上げていただきました。
──多くの楽曲で弾き語りの段階からアレンジの原型ができている印象がありますが、どのあたりまで他の楽器の音が頭の中に鳴っていますか?
TOMOO 音のイメージが少しできるようになってきたのはここ2、3年で、それよりも前の曲はほとんどできていなかったので、ピアノの段階から別の楽器に受け渡すときに実はずっと苦労してきました。ここ数年はやっと、“音色や音質はこんな感じ”ということはイメージできてきたんですけど、しっかりしたフレーズは浮かんでないことが多いです。「酔ひもせす」は、間奏と後奏でガチャガチャッと同じコード進行でループするところがあって、そこだけは音が満たされているような、なんとなくバンドサウンドの音のイメージはあったんですけど、それ以外はほぼ皆無で……でも今回は、イメージをお伝えしたらすごくパチッと決めていただきました。
──メロディもすごく魅力的で、一度聴いたらずっと耳に残るキャッチーさを持っていますが、よりキャッチーに聴こえるよう、歌詞を工夫することはありますか?
TOMOO この曲はわりとメロディが先だったんですけど、普段の曲作りでは、歌詞とメロディはだいたいが同時か、または、あとでちょっと微調整はするけど、歌詞の原型みたいなものを書いてからメロディが乗るかのどっちかが多くて。なので、もとから言葉の持っているイントネーションに、メロディのイントネーションも寄せていって合うように作っていることが多いです。
──歌詞の母音も意識することはありますか?
TOMOO 書く前に意識するわけじゃないんですけど、「ア」はけっこう大事だと思っていて。あとから答え合わせみたいに、“あっ、やっぱりここ、「ア」になってるな”とは思うんです。「酔ひもせす」だと《君の視線にget away!》の《get away!》の中の「ア」とか、《“酔ひもせす”は建前!!》 の《たてま》のあととか。それがパッと開ける感じに繋がるっていうのは、作ってる最中は気づかないんですけど、作ったあとに“あ、やっぱり自然とそういうふうになってるな”って。「オ」とかだと閉じてる感じになるので、そこは歌ってて気持ちいいだけではなくて、無意識と意識の中間に導かれるように、スカッとしたいところには「ア」を持ってくるように、なんとなくしているかもしれないですね。
──《Oh No! 煩悩》と韻も踏んでいる言葉も、聴こえ方にすごく気持ちよさを感じます。
TOMOO 普段はあまり韻とか踏まないんですけど(笑)、この曲ではやってみようってなったんですよね。すごく考えてやったわけじゃないですけど、自然と、でも、意図してやりました。