【インタビュー】Tani Yuuki、1stアルバム、絢香との共演、そして生粋のシンガーソングライターとしての強い想いを語る

2022.03.23

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine web)

「Myra」は、自分の中心・根本にある想いを曲にしようと思って書きました。

──2021年12月に1stアルバム『Memories』が配信でリリースされました。14曲が収録されていますが、けっこう古い曲から入ってるんですか?

Tani 3〜4曲は学生の頃に書いたものですね。あとは、曲を書いていて最後まで思いつかなかったものを途中で素材ボックスに入れておくんです。それを掘り返してきて続きを作ったりもしました。新曲と過去曲のバランスは、アルバムを作るとなって書いた曲が4割、ライブでやっていたけどリリースしていなかった曲が6割くらいです。

──1曲目「決別の唄」のAメロからオクターブ上の歌が入る、ツインヴォーカル的なアレンジになっていましたけど、これは最初からイメージしていたんですか?

Tani 最初は全然なかったんですけど、レコーディングをやっていただいた方に、“今のままでもいいけど、オクターブ上とかあったらいいかもね”と言っていただいて。

──1曲目の冒頭だから、すごく印象に残りますよね。メロディも歌詞も強い曲なので、かなりアルバムのカラーを決定づけるというか……。

Tani そうですね。しかもオープニング感のない歌詞《もう疲れたんだ 繰り返しの毎日に》から始まりますから(笑)。

──これを1曲目にすることは、すぐに決まりましたか?

Tani 全部並べてみたとき圧倒的に1曲目な感じがあったので、スタッフも含め満場一致でした。

──続く曲が「W/X/Y」です。こちらは曲調もそうですが、タイトルの意味を含めて野田洋次郎さん好きをグッと感じさせる曲ですね。

Tani わかりますよね(笑)。でも、タイトルはあと付けなんですよ。2番のBメロのところで《2人対の細胞》という歌詞が出てきたところで、染色体を表現したいけど、どうやって書こうかなってところで、この言葉に行き着きました。

──この曲のテーマは?

Tani 僕は結婚もしてないし結婚しようって思える人も現状いないんですけど、過去の恋愛経験を振り返って、“相手の子とずっとこの先も一緒にいる未来があったとしたら、どんなことを思うだろうか?”みたいなことを考えて作った記憶があります。

──3曲目の「おかえり」はアコーディオンがメインで入っていたり、ドラムがブラシ(注:スティックではなくブラシで叩く音)だったりして、ちょっと懐かしい響きのアレンジが施されていますね。

Tani 「決別の唄」と同じように、1stアレンジを僕がやって、そこからブラッシュアップしてもらう作業がこの曲もありました。1stアレンジでは普通に“スネアでベロシティ127のずっと強いやつ”みたいな感じだったんですよ(笑)。それが、“ちょっとうるさいよね”となり、アレンジャーの人がいろいろ試してくれて“ブラシでいこう”となりました。

アコーディオンのほうは1stアレンジから僕が入れていて、レコーディングで生に差し替えてもらいました。1番のあとにアコーディオン・ソロがあるんですけど、そこは弾いてくださった方が入れてくれたメロディです。最初に入れたメロディをちゃんと落とし込んでいただいたうえに、僕のボキャブラリーにない部分を出していただいて、めちゃくちゃ良い感じになりました。

──4曲目「Myra」はTaniさんを一躍シーンに引っ張り上げた楽曲です。どんなイメージで作り上げたんですか?

Tani 当時付き合っていた彼女とケンカ別れしてしまったあとに作った曲なんですが、表面に出てくるトゲトゲしい感情じゃなくて、ちゃんと自分の中心・根本にある想いを曲にしようと思って書きました。

──中心にある想いとは、なんですかね?

Tani ケンカ別れするときって、自分が傷つかないための防衛反応として、いろんなトゲのある言葉が出てくるじゃないですか。中には思ってないことを言ってしまったり……。それを普通に歌っても、ただトゲトゲしくて発散してるだけの曲になっちゃうなと思ったんです。そういう鎧をまとった状態の心じゃなくて、まだ仲良くしたいとか未練の部分も含めて、ちゃんと曲にしたい。ケンカして罵声を浴びせる中で吐き出せてなかった、“まだ好きなんだよ”という部分を曲にして、成就っていうか供養をしてあげるみたいな感じでした。

──そうだったんですね。何とかそこまでたどり着いた想いがあるからこそラブソングとして成立しているし、多くの人が共感できたのでしょうね。

Tani 結局、僕が音楽を始めたきっかけのところに戻っている気がします。“吐き出せない部分をちゃんと吐き出して前に進もう”っていう気持ちにしたかったんでしょうね。だけど作ってるときには、そんなことはまったく意識してなくて。曲を書くときは別に人の顔色を伺わなくてもいい、自分とちゃんと向き合える時間だったので、自然とそういう方向に向いたんだと思ってます。

──「非lie心」は、“避雷針”を独特の当て字にしたタイトルですね。

Tani これは、“嘘じゃない、自分の本心の部分を歌ってる曲”という意味です。漢字になっている部分を英語に直すと《非》は《彼(he)》、《lie》は《嘘つき》、《心》が《sin》で、スラングで《罪》という意味なんです。歌詞の登場人物は僕と女性の2人なんですけど、その女性の影にもうひとり、男性(he)がいるんですよ。その人が元凶で《罪人》なんです。

──それを聞いてから歌詞を読み込むと、また違う感覚で聴けますね。アレンジ面でも、この曲はドラマティックなヴァースがあったり、畳み掛けるメロディがあったりします。

Tani 「非lie心」はアレンジャーさんにお願いした曲で、当初からは曲の構成が変わっているんです。ライブでやっていたときとイントロの尺も違いますし、2番終わりからDメロ落ちのセクション(ヴァース)も入れ替わっていたりします。最後のサビも、どんどん沼にはまっていくイメージで半音下げ転調にしていたんですが、アルバムでのアレンジは半音上げで、畳み込むメロディの方向に寄せていってくれた感じです。

───「百鬼夜行」以降はバスドラとスネアが入った、いわゆる3点セットでの曲が出てくるんですけど、アルバム前半は3点セットでリズムを刻む曲がなくて、このままいっちゃうのかなと思って聴いてました。3点セットではない曲を歌うとき、リズムはどこでとってますか?

Tani レコーディングではクリックですね。ライブだと3点で叩いていない曲でも、ドラムでちょっと色をつけたりもするので、そのときはドラムでとったりします。あと、一番はギターですかね。僕がギターを弾いてない曲でも、ギターの方が弾いてるバッキングに合わせたりします。ピアノでとると抑揚があるので、ちょっと(歌のリズムが)もたつくんですよ。

──もともとギターのリズムが染み込んでるから、やっぱり楽なんですかね。

Tani それもあると思います。耳馴染みがいいですし。「非lie心」に関しては3点全部が鳴っていないもののハイハットは鳴ってるし、シンセが刻んでくれたりするので、そこでリズムをとりますね。

──「unreachable love song」もリズムのとり方が独特で難しいのかなという気がしました。

Tani あれはピアノですね。電子ドラムが入ってないところは、ピアノの“♪タラタタン”っていうところでリズムをとっています。細かく言うとBメロは少しタメを作るようにとっていますね。

──アルバムは最後の2曲に「We are free」、「Life is beautiful」と、ファイトソング的でライブで盛り上がる力強い楽曲を持ってきています。これは強い決意を示す1曲目「決別の唄」との関わりも含めたトータルなイメージですか?

Tani そうですね。僕の曲はバラードやミドルが多いので、最後に持ってくるんだったら、やっぱり盛り上がって終わりたいなと。アルバムタイトルが『Memories』なので、今まで僕が経験したことをもとにしつつ、いろいろ酸いも甘いもあったけど、最終的には“人生ってやっぱ美しいぜ!”って終わりたくて、最後「Life is beautiful」で終わる形にしました。

──ひとつのコンセプトのもとにアルバムが成り立ってるわけですね。

Tani 各曲のコンセプトがバラバラ過ぎて、大枠で括ったときに“僕の過去に起きた出来事”っていうのが共通点だったんですね。そう考えて針に糸を通していったらこの曲順になったという感じです。

──そして、この『Memories』が、フィジカルCDで4月6日にリリースされることになったんですよね。

Tani はい。めちゃくちゃ嬉しいです。ファンの人たちから“CDで聴けるようになってほしい”っていうメッセージをたくさんもらったことで実現しました。メッセージをいただいたことも嬉しいですし、初めて出すアルバムを手に取れる形として残せるっていうのは、やっぱり嬉しいですね。

──今回付属するブックレットを含めて、リアルなものとしてのアイディアをたくさん詰め込めました?

Tani もちろん配信用のジャケットは、いろいろ精査した上でこの1枚に決めたんですけど、良い写真が他にいっぱいあるんです。そういう部分もブックレットに込めることができました。あと、今回オンライン販売ということで、買っていただいた方々のお名前をブックレットに入れさせていただきました。僕たち制作サイドだけでなくて、“一緒にCDを作ってくれた仲間たち”っていう想いです。ファンの方との一体感を持ちたいというこだわりを、スタッフみんなで込めました。

──素敵な試みですね。ライブも会場がどんどん大きくなってきて、昨年12月には渋谷O-EASTで開催されました。2022年はどういう形でライブを魅せていきたいですか?

Tani 今までは僕のメンタル面とか、表に出ている楽曲数などを含めて、ライブに関しては、わりと手探りだったんです。まだライブ経験がめちゃくちゃ少ないですし、昨年、一昨年以上にライブを多くこなしてレベルアップしていきたいという思いです。

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