【インタビュー】高橋 優 弾き語り武道館2Daysと新曲「HIGH FIVE」の話を中心に、“ヴォーカリストとしての今”へ迫る!

2022.03.3

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
ライブ写真:新保 勇樹

いかに自分を楽しく整える、楽しく歌う自分に整えていくか。そのために我慢する。

──新曲「HIGH FIVE」は、侍ジャパンのドキュメンタリー番組『侍たちの栄光 ~野球日本代表 金メダルへの8か月』テーマソングですけど、どこにフォーカスして曲を書こうと思われました?

高橋 僕はやっぱりちょっと“ベンチ目線”というか、どちらかと言うと“ダグアウトの向こう目線”ですね。金メダルを獲れるって素晴らしいことで、もちろんすごいんです。拍手喝采なんですけど、そこまでのドキュメンタリーだから面白いのかなと思って。誰しもそのチャンスがあるって思いたいから、ああいうドキュメントが作られるんじゃないかなと思ったりするんですよね。あの人たちだけが特別で、あの人たちだけが成し得たんだって話には、僕はあんまりしたくないというか。今回はあの人たちが金メダルという結果を残したけど、“じゃあ僕らって、日々どういうふうに生きていくってことなんだろうね”っていうヒントを見せてもらっているみたいな気持ちがあって。

マー君(田中将大:東北楽天ゴールデンイーグルス)のベンチ(での姿)もまたドラマだなぁと思ったりしたし、ケガしながらも選ばれる選手がいたり。でも、あのドキュメントの裏側には日本代表になれなかった選手もいる中で、やっぱりそこまでのドキュメント、メダルまでのドキュメント、試合までのドキュメントっていうんですかね。そこにフォーカスを当てました。

──高橋さんは、「栄光」とか「金」って言葉が番組タイトルに入っていたとき、そこをダイレクトに行かない、表現しないんだろう。“その裏側は?”ってところに視点が行く人だと思ってるんです。(2017年『熱闘甲子園』主題歌の)「虹」のときもそうでしたけど、“最後の光が当たっている部分だけがすべてではない”ということを歌にしたくなる人なのかなと。

高橋 そうなんですよね。恋愛のドラマも、くっつくんだか、くっつかないんだかですれ違ったりするのが面白いじゃないですか。僕も単純にそう思ってる部分があるのかもしれないですね。何事もそこまでの過程のどこを切り取るかっていうことかなって。

──歌詞に《栄光は君と出会えたこと》ってありますが、武道館ライブのときも、MCで何度も“会おう”って語りかけてました。コロナ禍もあって、“会う”って言葉がすごく高橋さんの中でキーワードになっているんでしょうか?

高橋 やっぱり、そう思うんですよね。会う前って嬉しくないですか? “誰かと会うからオシャレしたい”と思ったり、“会うから気合入れて何か準備して行こうかな”とか、“お菓子買って行ってあげようかな”って思っているときの自分って、良い状態のときが多いんですよね。たまに会いたくない人もいますけど(笑)。

家族に会うときも、“もう行ってあげないとさ”みたいなことを口では言うんだけど、やっぱり心のどこかでは会うっていう予定があるから、そこまでの毎日、一人で頑張ってる時間もちょっと光が射してるというか。“永遠にずっとひとり”って言われるよりも、やっぱり会うってことが光になってるんじゃないのかな。なんか人って、人間関係以外のことで悩まないんですって。

──そうかもしれないですね。

高橋 人の悩みって手繰り寄せていくと、結果的に全部人間関係なんです。そうなると、やっぱり会うことが希望でもあるし、人間関係が一番人にとっての絶望でもあるはずなんですよね。今ってそれがすごく曖昧にされちゃって、“会ってはいけない、しゃべってはいけない、人間関係を深めていけない”って言われてるような気がするけど、実際はそこまで言われてないんですよ。だから、いかにして会うかってことを考えていかないと、僕らの希望が1個減っちゃう気がしたんですよね。

──武道館であれだけ“会おう、会おう”って言っていた終演後、この曲のミュージックビデオが流れましたけど、すごくグッとくるものがありました。

高橋 ありがとうございます。僕の中で気に入ってる言葉があって、“会いたい暴力”って言うんです。会いたい会いたいって言うけど、会いたくない人もいるって話を聞いたときに、めちゃくちゃ納得したんです。僕もそうなんですよ。

だって、実際に会うって“面倒臭い”じゃないですか。だから会いたいって言うことが必ずしも正義じゃない。でも、その話を聞いたとき、“じゃあ俺は「会いたいって言う人」になろう”って、逆に思えたんですね。“うるせえな、あんたなんか会いたくないよ”って言われるぐらいに。よし、“人に会いに行くことを選んでる人”になりやすくなったなと思いましたね(笑)。

──なるほど(笑)。一方で「金(メダル)」っていう言葉に近い「勲章」は、《勲章ですら くれてやれ》と歌っていて、すごく象徴的だなと思いました。

高橋 その歌詞を書いたときのヒントになったのが、ドキュメンタリーの最後のシーンで、監督の稲葉(篤紀)さんが(監督はもらえないことになっている)メダルについて聞かれ、(僕はいいから)何より選手にあげたいって言ったんですね。その言葉が一番人柄も表わしてるし、“そうだよなあ”って。

ちょっと話が飛ぶかもしれないけど、いつか死ぬときに、自分がかき集めたもの、着ていた服、乗っていた車って、永遠に自分のものであるわけではない。誰にあげるかとか、何かのために今自分がこうやってかき集めてるものだとしたら……《くれてやれ》って歌詞を書きたくなったんですよ。誰にあげたいかっていうところも、僕の中ではけっこう大切だと思ってます。

──2つありますよね。遺産をやたら残して死ぬ人と、全部人にあげてから死ぬ人と。

高橋 寄付したりとか。どっちも素敵ですけど。

──歌い方で言うとサビの一節を、ほぼノンブレスで歌い切るじゃないですか。これは作った時から?

高橋 ノンブレスとか意識してなかったんですけど、そうなっちゃいましたね。「この曲書いたの、誰?」ってレコーディングでよく言うのが、“僕の曲あるある”なので(笑)。

──サビ、やっぱり苦しいじゃないですか(笑)。苦しいけど、そのあと一番に声を張らなきゃいけないところが残っているのが「HIGH FIVE」っていう曲を象徴していますよね。野球でも試合終盤の苦しいところを超えないと勝てない、みたいな。

高橋 最近、身体作りがすごく好きなんです。それこそ“何メートル走れるか?”みたいなもので、腹筋を鍛えておくと、わりと力を抜いても長いブレスで歌えたりするんですよね。この曲のレコーディングのときは、それを意識していた気がします。しっかりとコンディション整えて、喉もベストで腹筋もしっかり鍛えている状態であれば歌える。ちょっとでも前の日に飲み過ぎたりとか、さぼっていたら歌えないっていう(笑)。

──これは言っておきましょう。「HIGH FIVE」のサビを一気に歌いたい人は、まず身体から鍛えましょう(笑)。

高橋 気持ちよく歌うに越したことないんですけど、“気持ちよく歌うとはどういうことか?”となったら、やっぱり自分の身体のコンディションだと思うんです。それは心も含めて。カラオケでお酒を飲んで歌ったら楽しいじゃないですか。でもあれは“お酒を飲むこと”が楽しいんですよ。

「毎日同じ歌を同じ時間に歌え」と言われたらウンザリしてきますけど、それって何でもそうだと思うんです。もとは楽しかったことでも、楽しくなくなっていっちゃったりするから。いかに自分を楽しく整える、楽しく歌う自分に整えていくか。そのために我慢する。だから食生活も気をつける。良い歌を楽しく歌うためにはお菓子を食べ過ぎたら良くないよとか、過度に小麦粉を食べても身体に良いことないよとか。僕はお酒もしばらく抜いてます。お酒を抜くと楽しく歌えるんですよ。逆に、お酒が入ると歌わなくても楽しくなっちゃう。本末転倒になっちゃうから。

──今年このシングルをリリースされたあとは、どんな高橋 優を見せていただけますか?

高橋 どこまで言っていいかなぁってくらい、いっぱいあります。自分の中でたくさんやりたいと思っていることがあって。その中で今、声を大にして言えることは、やっぱり秋田キャラバンミュージックフェスの再開です。2年連続で中止してしまっているので。もちろん、中止せざるを得ない理由があったのでしょうがないことなんですけど、開催するほうがいい!っていう世の中にきっとなると信じています。

僕は“会う”ということを再三ライブでも言ってますけど、会いに行こうとする行動は止めないでいたいなと思います。

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