【インタビュー】高橋 優 弾き語り武道館2Daysと新曲「HIGH FIVE」の話を中心に、“ヴォーカリストとしての今”へ迫る!

2022.03.3

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
ライブ写真:新保 勇樹

みんなに飽きないで観てもらえるんだったら、ギター1本、生音だけでやりたい。

──2日目の【白橋優の日】では「蓋」で、ボブ・ディラン風な歌い方を感じました。特に語尾のぶっきらぼうな間(マ)の部分に。でも、“ディランが好きだ”みたいな話はあまり聞いたことはなかったんですけどね。

高橋 自分じゃ全然わからないですね。ボブ・ディランは東京に来てから“聴いたほうがいい”って言われて聴いた感じでしたし。

──あまり洋楽は入れてこなかった?

高橋 他の立派なミュージシャンの方々に比べたら、僕はもう全然。姉の影響でSMAPとか聴いてた感じでしたから。

──「8月6日」も、ジョン・レノン「イマジン」っぽいコード感を活かしてるので、DNAじゃないけど何かあるのかなと思ったんですが。

高橋 でも「8月6日」を書いた頃は、渋谷のHMVに入り浸っていたので、そこで買ったボブ・ディランのライブ映像作品もしこたま観てましたね。そういう意味で、もしかしたら意識してなかったけど、エッセンスとして“ディラン臭”は漂っているのかもしれないです。

そう言えば、ジョン・レノンも東京に来てから“聴いたほうがいいよ”って言われてオノ・ヨーコさんとのドキュメンタリーDVDを買いました。……あ、確かに「イマジン」がめっちゃ流れてましたね(笑)。わりと最近のほうが『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』や『サージェント・ペパーズ・ロンリー・ハーツ・クラブ・バンド』などをジョギングしながら自然と聴いてますね。

──あと、個人的に「虹」がフェンダー・ストラトキャスターでの弾き語りだったことが、驚くほどしっくりきたんです。

高橋 あぁ、嬉しい〜。

──実は「虹」のリフって、エレキで音が伸びるのもいいんだな、と。もしかすると、原曲時点で、エレキギターのイメージがあったんじゃないかな?って。

高橋 僕個人はアコギでいいんですけど、「虹」の原曲というか、皆がiTunesとかで聴いたことがあるあの音源のイメージは完全にエレキなんですよね。今回【黒橋・白橋】で44曲やるうえで、僕のマインドとしては“アコギ1本だけ持っていく”ぐらいの気持ちだったんですよ、ラクだし(笑)。弦が切れたらその場で交換するぐらいのテンションでいくほうが、路上ライブっぽくていいかなって感じだったんですけど、やっぱりスタッフと、“どこでエレキ出すか?”って話題になるんですよ。

“この曲はエレキだろう”、“いや、この曲はアコギだろう”って論争の中で、「虹」をジャカジャーンってエレキで弾いたらカッコいいんじゃないかって話になったんですよね。確かにちょっと歪ませて最初のリフだけフレーズで弾いたらドラマチックになるんじゃないかなって。あんまりクリーンにし過ぎると迫力もなくなるし、歪ませ過ぎると音がつかめなくなる。弾き語りの良さがなくならないように、いいラインを探したんです。

──ストラト1本で聴いたときに、「虹」はオアシスに通じるロックソングだと思ったんですよね。エレキとエフェクトのシズル感、艶が入ってきて、“ああ、マンチェスター(オアシスの故郷)だ”って(笑)。

高橋 編曲してくれた池窪(浩一)さんが聞いたら喜びそうです。あれね、けっこうクセになるんですよ。アコギだとストロークを細かく刻まないといけないけど(エレキは音が伸びて)ラクだし(笑)。「虹」は楽しく歌ってました。


──ステージドリンクは水も用意されていたようですけど、ほぼマグカップのほうを飲んでましたね。あちらには何が入ってるんですか?

高橋 スロートコートですね。ハーブティーで、常に火傷するかしないかぐらいの熱々にしてます。前回のツアーは(ドリンクを)飲むタイミングを決めてたんです。ツアー中盤では500mlのペットボトルを2本空けるぐらい一気に飲むシーンがあったんですよ(笑)。だから、今回の武道館でもそれをやってたかと思ったんですけど、今回はスロートコートに頼ってたんでしょうね。あんまり汗かかなかったのもあったのかもなあ。

──ちなみに【黒橋】のほうが汗かいてましたね。序盤、熱のこもったストロークが多かったのもあるでしょうし……。

高橋 運動量が多かったのかもしれないですね。

──マイクはゴッパー(SHURE SM58)ですか?

高橋 そうですね。もうずーっと。

──映像でアップになると、けっこう傷が入ってるのが見えて、年季が入ってるゴッパーだなと思っていたんですよ。

高橋 あれは僕の音響をやってくれている方が用意してくれたものです。僕もマイクを自分でいろいろと買っていた時期もあったんですよ。もう名前は忘れちゃったけど、ハイがよく出るだとかミドルがよく通るんだとかって。一応ひと通り勉強しようと思ったんですが、ゴッパーって大体どのライブハウスにも最初から備え付けられているし、それで歌えることが一番いいよって結論になって。

──あと、イヤモニは左耳だけ外してましたね。

高橋 そうですね。ここ3年くらい、そのスタイルでやってます。

──今は出せないですが、お客さんの声を聴きたいという理由ですか?

高橋 それに尽きますね。武道館なら武道館、ホールだったらホールの音があるんです。どこでもそうなんですけど、イヤモニつけちゃうと完全にモニタリングじゃないですか。確かに歌いやすいし、レコーディングみたいな感じになるんですけど、やっぱり空気感がちょっとだけ“リモート”になるんですよね。ひとつ膜が張った状態になる気がするんです。お客さんがドッと笑った瞬間とか、何かを感じ取っている雰囲気は、やっぱり生音で聴こえるものを自分の中に残しておかないとっていうのが、僕の考えなんですよね。

──片耳だけでモニタリングすることには、すぐ慣れましたか?

高橋 慣れたかどうかは今でもわからないですね。毎回会場によって調整したり、不安なときに両耳つけたりすることもありますけど、今回の武道館に関しては右耳も浮かせてつけてました。最初に登場したときだけ、しっかり音を把握したいからピタッとつけてて、“あぁ、なんか大丈夫だな”って思ってきたら少しずらして……。2日間ともそんな感じでやってましたね。

──ひとり多重演奏ができる、BOSSのループステーションも大活躍でした。スタジオでやるリハーサルと会場でやるのとでは、状況がだいぶ違うんじゃないですか? 音の回り方も違うし。

高橋 そうなんですよ。あの音作りは音響さんとやっていて、最も苦労した中のひとつだと思いますね。一番緊張しました(笑)。ループステーション自体は、ファンクラブ内で弾き語りツアーをやっていたとき、たまに導入してたんです。これは僕が飽きっぽいからなんですけど、弾き語りの人のライブを2時間半観るのってしんどくないですか?

──あんまりないですよね……長渕剛さんとか、長時間やりますけど。

高橋 長渕さん、さだまさしさんとか、あのレベルの方々は4時間でも5時間でも、ずっとエンターテインメントをお届けしてくれるでしょうけど、10年そこそこの自分みたいな者のライブを2時間半観てもらうってことで言うと、あの手この手で時間をあっという間に感じてもらいたいと思って。

ステージが回るのも照明も、“あっという間だったね、楽しかったね”って言ってもらうための一個の手段です。別にループステーションに固執したくもないんですよ。みんなに飽きないで観てもらえるんだったら、ギター1本、生音だけでやりたいって気持ちは僕の中に常にあるんですけど、エレキ持ち替えも音の場面転換にもなるし、印象も変わるじゃないですか。それに尽きますよね。“やってるほうだけが楽しい”ってならないようにしたいので。

──アコギで言うと、ギブソンのDoveとJ-45は、どういう使い分けですか?

高橋 一応Doveがマザーシップというか僕の中での基準ですね。上京して最初に買ったのが、あのDoveのボディが赤いやつなんですよ。「こどものうた」のミュージックビデオも撮ったりしたんです。それと最近ギブソンさんがDoveのシグネチャーモデルを作ってくださって。

──黒いやつですよね。

高橋 はい。僕が“黒が好き”って言ったから真っ黒にしてくださったんです。トラスロッドカバー(ギターのヘッドにあるネックの反りを調整する穴を隠すカバー)に“高橋優”って漢字で刻印してくれました。ギターとしてはやっぱりDoveなので使い分けとしてはいいんですよ。

あと、僕が買ったJ-45は個体差だと思うんですけど、ジャーンって弾くよりも、ポロリンって弾いたときにすごく良い音が鳴るギターだったんですよ。それで「誰もいない台所」とか指弾きする曲では、赤のJ-45にしようかっていう話になりました。

──黒いJ-45も使っていましたが、それとも個体差があるんですね。

高橋 またちょっと違いますね。“黒のJ-45はわりとジャカジャカやれるね”って。

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