【インタビュー】川崎鷹也、新曲「Be yourself」制作と、自身のヴォーカルスタイルを作り上げた“こだわり”を語る!

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine web)
撮影:上溝恭香(2021年12月18日(土)東京・ヒューリックホール東京)

歌い終わったあとの荒い息づかいまでパフォーマンスだと思ってる。

──Vocal Magazine Webはステージドリンクを毎回チェックしているのですが、水のように見えましたね。

川崎 そうなんですよ。残念ながら焼酎じゃないんですよ(笑)。

──焼酎の人は、今までいたことないですね(笑)。水は常温ですか?

川崎 あれは常温水ですね。ブランドはまったく決めてません。その会場にあったものです。常温でも冷えてても……何でも大丈夫ですね。ステージにミルクティーを用意されたら飲みますから。というか、ステージドリンクはミルクティーでした、ずっと。それこそ下北沢Artistのときも四谷天窓も。先輩がミルクティーを飲んでて、“なんでミルクティーなんですか?”って聞いたら、“喉が乳成分でコーティングされて歌いやすいからだよ”って。本当かどうかわかんないですけど、尊敬する歌がめっちゃうまい先輩だったので、僕も真似してミルクティーを飲んでました。

──ミルクティーを飲んでる人の話は初めて聞きましたね。

川崎 いろいろ聞きますけどね。今はどうかわからないけど、May.J姉さんは豚骨スープを水で薄めて飲んでるときがありましたよ。僕もカルピスウォーターのときもあれば、ピンク色の栄養剤みたいなやつを飲んでる時代もありましたし、いろいろ試してますね。

──けっこう試してみるタイプなんですね。

川崎 歌に関して、喉に関して、ステージに関しては試してないことはたぶんないと思います。マイクの種類だったりイヤホンの種類とか、ギターの弾き方も含めてですけど、いろいろと実験した結果、今に至りますね。ただ、ステージドリンクは一周回ってなんでもOKという結論になりました(笑)。

──ライブ前に行なう発声はどのくらいやりますか?

川崎 発声に関してはリハーサルがあるので、そのリハーサルでの声出しぐらい。なので、発声練習みたいなものはしてないですね。するのはストレッチです。身体が硬いと声はシンプルに出ないので、柔軟や背筋を伸ばしたり、喉の筋肉を伸ばします。リップロール、リップタングはやるんですけど、あれはブレスのトレーニングなので。

──ストレッチは何分ぐらいやりますか?

川崎 自分の中のするべきストレッチのルーティンがあって、それがたぶん5分ぐらい。ゆっくりしっかりやったら10分ぐらいですね。

──続いて、2時間近くのステージで歌うためのペース配分。あるいはかつてペース配分を間違えて失敗した経験を。

川崎 僕は失敗しかしてないです(笑)。ペース配分がまったくできないので、最初からフルスロットルでアクセル回してしまうんです。本当に後半声が枯れてしまったり高いところが出なかったり、喉で声を出さなきゃいけなかったりという失敗はやっぱりこれまであって。ワンマンライブという意味では失敗がすごく続いているんですけど、昨年のヒューリックホールに関してはかなり意識しました。……したんですけど……それを実行はできてないんですよ。

曲間やMCの最中、歌ってる最中のAメロBメロとかに“(ライブ)後半まで持たせるように歌わなきゃ”っていう感覚はありました。今までのライブは、そういうことを1ミリも考えたことがなくて。前回だけは“後半まで持たせるように歌いたい”っていうふうに考えながらやってました。

──次は、レコーディングでも再現されてますけど、歌い出しのときに入れるブレス。表現のひとつで音として乗せていると思うんですけど、以前からこのスタイルが自分の表現として使っていたんでしょうか?

川崎 そうですね。何かいつの間にか、なんですけど。たぶんこれは弾き語りでやってきたバックグラウンドがあるからですね。弾き語りってすごく繊細なので、ちょっとした音も拾うし、ドラムの音とかエレキギターの音とかノイズがあるわけじゃないので、本当に息づかいひとつを伝えることができるのが弾き語りの楽しいところで。もっと言えばドリンクを飲んでる音とかまで表現なんですよね。そこをあえて聴かせない人もいますし、あえて聴こえさせる人もいるんですが、僕は歌い終わったあとの荒い息づかいまでパフォーマンスだと思ってます。

それを感覚として使うようになったのは弾き語りをずっとやってきたから。そして尊敬する弾き語りの先輩たちを見てきたからだと思います。ブレスの色気でお客さんがグッと引き込まれたり、始まるぞって一瞬でわかるせることができるのもブレスなので。そこをずっとやってきたから、それが板についているのかもしれないです。

──ギターのフレットノイズと同じ感覚かもしれないですね。ポジションを変える時にキュッて入ってくる音ですけど、あれがあるとないとでは全然雰囲気が違いますから。そしてマイクです。けっこう試したということですが。

川崎 そうですね。もちろんSHURE SM-58 からβ(ベータ)から、HEIL SOUNDっていう“ブラックミュージックの方が使ってます!”みたいなマイクを使ってみたり。AKGを使ったりオーディオテクニカを使ったり、いろいろ試した結果、ダイナミックマイクはゼンハイザーのE945をメインとして使っています。これは専門学校を卒業してから初めて買ったもので、今の奥さんから、付き合ってすぐの誕生日だったかな? クリスマスだったかな?に買ってもらったんですよ。“何か欲しいなものある?”って聞かれて、“そういえば新しいマイク欲しいんだよね”みたいなことを話したんですね。もちろん彼女は詳しくわからないので、“もうどのマイクが欲しいか教えて!”、“ゼンハイザーのE945というのが欲しいんだよね”という感じで。

でも、当時は本当にお金がなかったし3〜4万円する新品を彼女に買ってもらうっていうのが僕はなんか嫌で。“いや、そんな高いのいいよ”って言っていたんですが、中古で安く売っているのを見つけてそれを彼女が、買ってくれましたね。新品じゃないからバリバリにエイジングされた、めっちゃいいマイクなんですけど。今はゼンハイザーにサポートいただいてますが、僕は6年くらい前に買ってもらったE945を今でも使ってます。

──その後に変えてないってことは、不満はまったくないんですね。

川崎 そうですね。本当に究極の単一指向性なので、やっぱりマイクから外れると音は拾わないんですけど、ゼンハイザーが一番フラットでもあるし、僕のレンジがけっこう低かったりするので、そこをプッシュしてくれる印象があって。僕の感覚として低いからこそ(補う意味で)高い音をプッシュしてほしいと思ってなくて、より自分の強みを押してくれるマイクが欲しかったんです。ハイがきついマイクは自分にないものがプッシュされてしまうし、もちろんそれが良いときもあるんですけど、なんか僕の好きな音はそうじゃなくて。自分の持っている良いところを、より良いものにって思いが強いので、ゼンハイザーはピッタリ来てますね。

──コンデンサーマイクのほうは?

川崎 それこそアレンジャーさん、エンジニアさんの用意してくださるマイクをいろいろ試しますね。自分ひとりでレコーディングするときはノイマンU87を使うんですけど、『カレンダー』は新たにアレンジャーさんがついたりとか、今までとは違ったレコーディングの仕方をしたので、マイクに関してはわりとお任せをしました。ノイマンのU47だったはずです。

──「Be yourself」では?

川崎 「Be yourself」はゴールドのマイクでしたね。ManleyのReference Goldという型番です。

──これはダイナミックのほうでいいんですが、口とマイクの角度や距離、息の入れ方など、マイクの使い方で意識している、研究の結果こうしているみたいなことがあれば!

川崎 もう、めちゃめちゃ研究しました。さっきの話にも繋がるんですけど、弾き語りはすごく繊細なので、マイクの入れ方、息の入れ方で、まったく聴こえ方が違うんです。マイクを通した音を客席で録音を何回もしました。今までやったライブは全部自分で勝手に録音してましたね。

客席の一番いいところに録音機材を置いてライブ終わったら聴いて。曲の中で良い聴こえ方をしているセクションと、“ここもったいないな”って思うセクションがいっぱいあったので、そこは研究しましたね。“あのときどういうふうにマイク入れて、どの角度だったかな?”とか、“口に当ててたのか、鼻に当ててたのか、鼻と口の間に当ててたのか?”とかを、次のライブで変えてみたり、本当にいろいろやってましたね。

──めちゃめちゃ研究家じゃないですか!

川崎 暇だったんですかね(笑)。こだわりが強いのと、自分が納得しているかどうかっていうところが、すごく僕は重要かなと思っていて。自分が納得いくマイキングの仕方だったりとか、ベストなポジションで歌っていて、それがすごく気持ちいいと思ってるので、そこに誇りを持てているかどうかっていうのは、昔から一貫して変わらないので、それがレコーディングでも活きています。ダイナミックとコンデンサーはまったく音の入れ方が違うので、専門学生の頃はオーディオテクニカのAT4040(コンデンサーマイク)を買ってきて、6畳の家でヘッドフォンしていろいろやってました。ずっと(笑)。この角度だったら、こういうふうに聴こえるのかとか、音の切り方とかブレスの仕方とか、どういうふうに(マイクから)離れていったらきれいに聴こえるかとか。

DAWもLogicを立ち上げてミックスもマスタリングも自分でしてました。単純に良いプラグインを買うお金がなかったので、ピッチを直すのも自力で何とかするしかなかったんです。微調整……本当に面倒くさいんですよ、Logicのピッチを直す機械が。単に僕にその技術がなかっただけなんですけどね。面倒くさいのが嫌で何回も録り直してました。“ピッチがズレたら直せばいいや”じゃなくて、“もう1回録り直せばいい”って思ってたので、ピッチに対してすごくシビアなのは、そこから来てるかもしれないですね(笑)。

──ミューズ音楽院に通っていた頃、18歳から20歳くらいまでは、声も大人になってくるし、スポンジのように何でも吸収する時期なので、すごく面白かったんじゃないですか?

川崎 いや……専門時代は、その感覚はあんまりなくて。当時の歌は正直、今聴くに堪えないです。それこそ奥さんが持ってるんですよ、専門時代の音源を。スタジオで勝手に歌って録ったやつを、なぜか奥さんに送ってたらしいんですよね。聴くとめちゃめちゃ痒くなるんですよ(笑)。

当時は本当に喉任せだったので、高い音を出すときも“がなって”無理やり喉を細めてたんです。自分で聴いていても耳触りが良くなかったんですよね。それがどんどん高い音が出るようになったっていうのは、専門学校で学んだっていうのも少なからずあるんですけど、どっちかって言うと、やっぱり毎月・毎週のようにステージに立ち続けたことが成長した一番の要因だと思います。僕の感覚ではスタジオで10回歌うのと、お客さんの前で1回歌うのとではまったく意味が違うんですよね。だからたぶん、今リハで全然できないんです。

──というと?

川崎 TV番組でも日本武道館ライブでも、リハでまったく声が出ないんです。僕はお客さんがいて何かのスイッチが入るので、気合の入れ方が違うというか。お金を払って来てもらってるので、そこでいいものを届けなきゃいけないっていう背水の陣みたいなものがステージではやっぱり芽生えるので。その状態で高い音を出し続けたことが、たぶん今に繋がってるのかなとは思いますね。ワンステージ、ワンステージ、少しずつ成長していったとは思いますが、“前回よりいい歌を歌いたい”って毎回思ってたので。

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