【インタビュー】浜口飛雄也(moon drop)、ラブストーリーを描き、感情のままに歌う。自身が大事にしている温かい想い

2022.01.21

取材・文:鈴木 瑞穂(Vocal Magazine Web)

感情や心を大事に“そのライブに対する気持ちを優先して表現したい”

──本格的に音楽の道を意識し始めたのはいつ頃からですか?

浜口 ライブで県外に出るようになり、名古屋のライブハウスで出会ったレーベルの社長さんに面倒見てもらうようになった19歳、20歳くらいの頃です。実は高校卒業してすぐは就職しました。でも、バンドを続けるつもりで就職したので案の定続かず、半年くらいで辞めてしまって。そのあとはバイトしつつ、ずっと音楽の生活でした。

──ボイトレをやっていたそうですね?

浜口 ボイトレは今も行ってるんですけど、始めたのはコロナ渦になる前の2年前くらいです。それまでは“歌を練習する”という感覚があまりなくて、曲を作りながら自分なりに感情のまま歌っていたので、歌自体を練習したことはあまりなかったです。

──ラブソングをライブハウスで歌い続ける中で、感情面や歌唱面で他のバンドから影響を受けることはありましたか? 派手なパフォーマンスのバンドに出会うことも多いのかなと。

浜口 ライブハウスに出始めて他の出演者はメロディックのバンドが多い中、moon dropがひと組ギターロックで入る日も多かったので、影響を受けたことはいっぱいあります。なので、僕たちはギターロックらしくないライブになりがちというか、もちろんうまさも大事なんですけど、感情や心を大事に“そのライブに対する気持ちを優先して表現したい”というのは今も変わってないです。でも、たまにやり過ぎて怒られちゃいますね(笑)。

──ライブを拝見させていただきましたが、すごい熱量とパワフルな歌声でした。

浜口 根にあるパンク精神はまだ抜け切れていない部分があって、でもそれって他のバンドにないものでもあるのかなと思っているので、完全には失くさずそこもmoon dropの良さとして出していけたらいいなって思ってます。

──2018年にはベースの坂知哉さんが、2019年にはドラムの原一樹さんが加入して今の体制になりました。今回のニューアルバムでも作曲は坂さんとの共作が多いですが、坂さんと原さんが加わったことで楽曲制作にどんな変化がありましたか?

浜口 今までひとりで作っていたんですけど、そこに知哉が加わって、曲の展開や構成が大きくレベルアップしました。ドラムの一樹も含めて、メンバー皆そうなんですけど、演奏をこうしてほしいと伝えたことに対する再現度がとても高くて。みんなが僕の歌を大事にしてくれている想いが伝わってきて、すごく曲作りがしやすくなりました。

自分が脚本家になって物語を作って、それを曲にする

──ニューアルバムのタイトル『この掌がまだ君を覚えている』には、どんな想いが込められていますか?

浜口 頭で忘れようとしても、体や匂いといった自分の意思だけでは忘れられないことってどうしてもあるじゃないですか。それは曲も同じだなって思っていて。それぞれの恋愛の形や温度で同じものってないと思うので、それをこの1枚を通して、再確認してもらったり、思い出してもらえたらいいなと。“ずっとそこに残していたい”という想いで曲を作って、この1枚が生まれました。

──アルバムには全11曲のラブソングが収録されていますが、今回、挑戦したと思うのはどんなところですか?

浜口 今まで実体験ばっかり書いてきたんですけど、今回は“物語を書く”というイメージで作れた曲が多かったです。自分が脚本家になって物語を作って、それを曲にするという作り方だったので、そこは大きな変化だったなって思ってます。

──特に“物語を作った”という曲はどれですか?

浜口 冬のバラード「この雪に紛れて」という曲です。あれは……背伸びしまくりましたね(笑)。大人な歌詞、メロディ、雰囲気の曲で、他にも物語を作り上げた曲はあるんですけど、「この雪に紛れて」だけは自分よりも年齢が上の、先の未来の恋愛を想像して書きました。逆に学生をモデルにした曲は自分が通ってきた道なので想像しやすいというか。自分よりも年齢が上の物語を書くとなると、自分が体験したことがないので距離感が難しかったです。妄想100%の曲なんですけど、男は妄想するのが得意なんで(笑)、自分がその世界に入り込むつもりで書きました。

──《優しい嘘をついて》、《本当のことを言わないで》といった女性の繊細な心情を描く歌詞にも共感を覚えました。ワードチョイスはどのように考えていったんですか?

浜口 そこはあまり気にせずスラスラ出てきました。女性側の言葉選びが良いねと言われることがちょくちょくあるんですけど、男女の思ってることってそんなに違わないんじゃないかなって思っています。なので自分の言葉でもあり、ちゃんと女性に落とし込めた部分でもあって、うまくマッチしたなという印象です。

──アルバムは、日常の幸せから永遠の愛を歌う「リタ」や、切ない卒業失恋ソングの「四月が君をさらってしまう前に」など、さまざまな情景のラブソングを表現しています。歌詞の作り方について、もう少し詳しく教えてください。

浜口 今までは1フレーズがパッと浮かんでからだんだん色付けしていって……という感覚だったんですけど、今回は自分でイチから物語を作って先に設定を決めたものとで半々くらいですね。自分が物語を作った曲は、Aメロから歌詞をバーッと書いていきました。その作り方は珍しいんですけど、今回新しくできたことのひとつかなと思います。でも、やっぱりサビはパッと出るものが多いかもしれないですね。どの曲もサビはメロディと歌詞がほぼ一緒に出てきました。

──ひらめいたときは何かに記録してますか?

浜口 すぐ携帯のメモにバババッて入れます。バイト中とか電車の中とか、あとライブで高速乗ってる移動中とか、車で移動しているときもけっこうひらめくことが多いです。

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