【インタビュー】コニー 後編〜”歌ってみた”をiPhoneで録音する方法(YouTube動画連動)

取材・文:永島聡一郎(Vocal Magazine Web)
撮影:八島 崇(製品写真を除く)

11年のキャリアを持つ「歌い手」のコニーの活動を振り返った前編のインタビューはもうお読みいただけただろうか。未読の方はぜひ、下記のリンクをチェックしてほしい。

【インタビュー】コニー 前編〜“歌ってみた”の人気ヴォーカリストがオリジナル曲を発表するまでの軌跡

さて、この後編ではコニーがヴォーカル・マガジン・ウェブのために製作した”歌ってみた”動画のレポートをお送りしていく。楽曲は“におP”の名で知られる“にお”が2008年に投稿したバラード、「rain stops, good-bye」だ。

そして録音する機材の中心となるのがAppleのスマートフォン、iPhone。実はこれが本企画の大きなポイントのひとつになっている。その理由はぜひ以降のインタビューをお読みいただきたい。なお、iPhone以外の機材については、コニーとかねてから交流のあった音響機器ブランド、TASCAMのご協力を得ている。

iPhoneで録音する理由

──コニーさんは前編のインタビューでも語られていた通り、パソコンで録音を始められたわけですが、今はスマートフォンでも同じことが可能なんだそうですね。そこで、今回もiPhoneでの録音をコニーさんからご提案いただきました。

コニー これは私も衝撃だったんですけど、今の中学生や高校生はパソコンじゃなくて、スマートフォンで音楽や動画を作り、イラストを描いて投稿してるんですよ。昔は“DTM”と言ったりしましたけど、これは“デスクトップミュージック”の略ですよね。それが今では机の上どころかスマートフォンだけでできてしまうわけです。

今後はそういう手軽な方法で始める人がもっと増えるでしょう。だったら私もスマートフォンで録る方法を研究していきたいなと思っていたところへ、ヴォーカル・マガジン・ウェブさんから取材のお話をいただいたんですね。そこで、スマートフォンで”歌ってみた”を録ってYouTubeにアップするという企画にするといいんじゃないかと思いついたわけです。

機材に関しては、私が主催している「i-STAR FESTIVAL」を以前からお手伝いくださっていたTASCAMの加茂尚広さんに相談することにしました。

──そういう経緯で、今回はTASCAMのオーディオインターフェースやマイクをご用意いただいたわけですね。

コニー はい。スマートフォンだけでもやり方によって歌は録音できますが、内蔵マイクはあくまで通話用ですから、音楽用として考えると、やはりマイクはより良いものを用意したほうがいいだろうという判断です。そうなるとマイクの音をiPhoneに入れるためにオーディオインターフェースも必要になります。でも、あまり高価な機材だと手軽さが失われてしまうので、加茂さんにはその辺りのバランスを考慮して選んでもらいました。

良い音で録るために必要なもの

1)iPhone(スマートフォン)+GarageBand(音楽アプリ/録音用)
2)MiNiSTUDIO CREATOR US-42B(オーディオインターフェース)
3)TM-70(ダイナミックマイク)
4)TM-AM1(マイクスタンド)
5)KLOTZのマイクケーブル
6)TH-06(ヘッドフォン)

─それでは、ここからはTASCAMの加茂尚広さんにご登場いただいて、使用機材を解説していただきたいと思います。まずスマートフォンはApple iPhoneで、これは加茂さんの私物だそうですね。

加茂 私のです(笑)。録音はiPhoneに付属している音楽アプリ、GarageBandを使います。

──そのiPhoneとUSBケーブルでつながっているのがオーディオインターフェース?

加茂 そうです。MiNiSTUDIO CREATOR US-42Bという製品で、マイクやギターの音をデジタル信号に変換して、パソコンやスマートフォンへ送るための音響装置です。もともとライブ配信用として開発したので、声を響かせるリバーブというエフェクトをつまみひとつでかけられたり、メガホンで歌ったような声にできるエフェクトもボタンを押すだけでかけられるという、とても簡単な操作性が特徴です。

MiNiSTUDIO CREATOR US-42B

─MiNiSTUDIO CREATORはパソコンでも使えるんですね。

加茂 そうです。もともとはパソコンで生配信を楽しむ方のために誕生したこともあり、WindowsやMacを使った配信に必要な機能を多数盛り込んでいます。咳払いの際に便利なマスターミュートやブラウザ配信で重宝するループバック機能のほか、あらかじめ仕込んでおいた効果音をボタンひとつで再生できる”ポン出し”など、ライブ配信を音で盛り上げる機能が満載です。歌ってみたの録音や作曲はもちろんですがボイチェン(ボイスチェンジ)をかけてiPhoneで配信することもできるので最近ではVTuberの皆さんにもご愛用いただいています。

──上の写真でマイクの向きが気になるのですが……一般的にこういう形のマイクって縦にして使いますよね? 一発撮り動画の『THE FIRST TAKE』でもおなじみだと思うんですけど。

加茂 一般的にはそうです。『THE FIRST TAKE』で見かけるような縦にして使うマイクのことを“サイドアドレス”といいます。音を拾う部分が横側を向いているから縦にして使うわけです。それに対して、ここで使用しているTM-70というマイクは“エンドアドレス”といいます。マイクの縦の延長線上に向かって音を拾う部分が付いています。

サイドアドレスはマイクの横から歌うが、エンドアドレスはマイクの先端に向かって歌う

──マイクの中の音を拾うパーツがどこを向いているかという違いが、サイドアドレスとエンドアドレスの違いなんですね。

加茂 そういうことになります。それとは別にマイク自体の種類として、“コンデンサーマイク”と“ダイナミックマイク”があります。これは音を拾う仕組み自体が違うんですけど、コンデンサーマイクは繊細で小さな音まで拾ってくれるので、プロのレコーディングではよく使われるタイプです。でも、ちょっと繊細過ぎて自宅だと余計なノイズまで拾ってしまうこともあります。

そこで今回はダイナミックマイクのTM-70をコニーさんに使ってもらうことにしました。ダイナミックマイクはノイズを拾いにくく耐久性も高いので録音初心者でも扱いやすいと思います。それにTM-70はポッドキャストや生配信用に開発したのですが、声に特化しているので歌とも非常に相性がいいんです。

TM-70にはマイクケーブル、専用ショックマウント付きマイクホルダー、卓上スタンドが付属する

──そのマイクを取り付けているマイクスタンドも持ってきていただいたんですよね。

加茂 マイクはそれなりに重量があるので、マイクスタンドもしっかりしたものを使わないと倒れてしまう危険性があります。今回使用するTM-AM1というマイクスタンドには、マイクを取り付ける側とは反対の部分に“カウンターウェイト”というおもりが付いていてバランスを取りやすくなっています。

カウンターウェイト付きのマイクスタンドのTM-AM1

──さらに、今回はマイクケーブルまでご用意いただきました。

加茂 マイクケーブルはTM-70に付属していますが、今回はTASCAMが輸入代理店として取り扱っているドイツのメーカー、KLOTZのマイクケーブルを使用しました。最初はマイク付属のケーブルでよいと思いますが、音の良さを追求するにはマイクケーブルも重要ということをお伝えしたくてお持ちしました。

─ヘッドフォンはどういう製品なんですか?

加茂 TH-06というモデルで、これは“モニターヘッドフォン”と言われるタイプです。音楽を楽しむための一般的なヘッドフォンは音が心地よく聴こえるように調整されていますが、モニターヘッドフォンはそういう色付けをできるだけなくして、マイクが拾った音を可能な限り正確に再現できるようになっています。また音漏れが少ない密閉型なので、ヘッドフォンの音がマイクに入る恐れも少なくなっています。

モニターヘッドフォンのTH-06

─TASCAMでは歌の録音を行なうための機材が豊富にラインナップされているんですね。

加茂 そうなんです。”歌ってみた”シーンにかなり前のめりで取り組んでいます(笑)。例えば、今回はダイナミックマイクを使用していますが、コンデンサーマイクのTM-80もラインナップしていますし、レコーディング時の息によるノイズを防ぐTM-AG1もあります。TM-AG1のようなポップガードと呼ばれるものはコンデンサーマイクを使用される方には必須アイテムですね。また自宅では部屋の壁などに声が響いてきれいに録音できないことがよくあります。そんな時はアコースティックコントロールフィルターのTM-AR1を使っていただくと良いと思います。これは余計な響きを防いでくれる装置です。

──自宅でもいろいろな機材を使うことで良い音を録れるようになるんですね。

加茂 その通りです。そのためにTASCAMは“歌ってみた”で使いやすい録音用機器の製品提供に本気で取り組んでいます。

コンデンサーマイクのTM-80。マイクケーブル、振動吸収用のサスペンション、卓上マイクスタンドが付属する
アコースティックコントロールフィルターのTM-AR1
左がティアック株式会社 音響機器事業部 タスカムビジネスユニットの加茂尚広氏

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