【インタビュー】横山 剣(クレイジーケンバンド)、アルバム『世界』のレコーディング&制作秘話と理想のヴォーカリスト像を語る。“人間の声は最高の楽器”
2023.09.6
取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)
ライブ写真撮影:本多亨光(ダブルジョイレコーズ)
横浜が誇る東洋一のサウンド・マシーン、クレイジーケンバンドが、通算23枚目のアルバム『世界』を9月6日(水)にリリースした。昨年8月からゲスト出演していたファンキー・ドラマー白川玄大が2023年4月よりレギュラーメンバーとなり、シン・クレイジーケンバンドとしてスタートを切ってから初の作品となる。
ヴォーカル・マガジン・ウェブでは1年ぶりに横山 剣にインタビューを実施。今作も全曲ハンドマイクで、録音ブースではなくコンソールルームで録音したというレコーディング秘話から、楽曲制作に近年携わっているサウンドプロデューサーのPark(gurasanpark)との制作エピソードまで、全曲じっくりと語ってくれた。さらにスモーキー・テツニ、Ayeshaの歌声の魅力や、自身の理想とするヴォーカリスト像を訊いた。
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コメント動画
CKBが本当の自由を得た、シン・クレイジーケンバンドとしての1stアルバム
──ヴォーカル・マガジン・ウェブでは昨年、『樹影』のリリース時にインタビューさせていただきました。この1年で、歌に関する変化を感じることはありましたか?
横山 ドラマーが変わって、各ポジションが潜在的なポテンシャルをより発揮できるようになったんです。僕も歌に集中することができて、気分がめちゃめちゃ上がった。この変化により、歌いやすくなったというか、歌のキーも高くなってイイ感じになりました。やっぱりドラムとベースを中心に、そこに押し出されて歌のポテンシャルを発揮できるので。
──ドラマーが廣石惠一さんから白川玄大さんに変わったことで、剣さんが感じている変化はどんな部分ですか?
横山 ハット(ハイハット)がよく聴こえるのと、スネアがタイトですね。キックの押し出しが風圧を感じるぐらいある。廣石さんから受け継いだ部分では、フレキシブルにその場で対応できるというところがあります。
──今作は“せーの”で録ることが多かったそうですが、そこにも影響したのでしょうか?
横山 そうですね。わりと多重録音や編集が好きなので、レコーディングはレコーディング、ライブはライブって分けて考えてたんですけど、そういったライブ感のあるレコーディングがしたいという欲が出てきた。ただ、“せーの”で叩くとどうしても雑味が出ちゃったりするのが悩みだったんですけど、今回は打ち込み以上の精度の高さと、生ドラムならではの心地良い揺らぎみたいなものがちゃんと“いいとこ取り”できたので、これはもう絶対に“せーの”で録ったほうがいいだろうって思いました。
──どこのセクションまで一緒に録っていったのですか?
横山 ドラム、ベース、ギター、キーボードを“せーの”で録る曲もあれば、ドラムだけ別に録る曲もありました。ブラスとヴォーカルは最後に録りますね。もともとプリプロの段階で仮歌を入れてるんで、それを流して。わりと多重録音や編集が好きなんです。
──今作のアルバム『世界』で最初にキーとなった曲はありましたか?
横山 4曲目(「SHHH!」)とか、6曲目(「マンダリン・パレス」)ですね。リードトラックになった「観光」は実はかなり後半も後半で。16曲ぐらいでコンプリートになるところだったんですけど、たまたまカンボジアに行って、帰りの飛行機の中でこの曲が浮かんだんですね。そしたら、それがトップに躍り出ちゃった。リードシングルになっちゃった!
──キーになったという「SHHH!」は、レコーディングのときにハンドマイクで歌われてる感じが、すごく吹き込まれている気がしました。
横山 本当はぶら下がってるマイクで、録音ブースで録るのがベターだと思うんですけど、それよりもマイクとの距離感や臨場感、それをそのまんま成分無調整で出す。ちょっと癖はあると思いますけど、あまりにもひどいところはエンジニアさんに補正してもらって。
──剣さんが思うように歌って、そこから調整していくんですね。
横山 まずはそれでやって、やりすぎちゃったら微調整します。常識にのっとってないかもしれませんけど、ジャマイカで録ってる人を見ると、関係者がワーッとしてるところで平気で歌ってる。あの無意識過剰の感じがゴキゲンだね!って思ってるので。そういう感じで僕も、スタジオのソファに座ってるメンバーとかスタッフを客に見立てて熱唱してる。
──録音ブースに行かずに?
横山 ブースに行くと集中できないというか、人がいるほうが集中できる。ブースにいるとコンソールルームの様子がわからないし、みんなで何を相談してるんだ?って気分からネガティブになっていくんですよ(笑)。悪口でも言ってんじゃないかって。
──コンソールルームで歌うんですか?
横山 そうです。コンソールルームで。マイクの音がスピーカーから出た音を拾うわけですから、ロータリーするのは良くないとは思うんだけど。でも、ダニー・ハサウェイにしてもマーヴィン・ゲイにしてもライブ盤がいい。ライブ盤っていうのは(音が)回ってこそなんで、その感じにはなるなと思ってですね。
その理屈で言うと(音が)回るっていうのは悪いわけがないと思ってやってるんですけど、なかなか理解してもらえなかった時期がありましたね。初期の初期は。
──以前、Myマイクのインタビューをさせていただいて、レコーディングでハンドマイクのNEUMANN(ノイマン)/KMS104を使っているというお話でしたが、今回のアルバム『世界』も同じマイクを使ってレコーディングしたのですか?
横山 ノイマンですね。全曲同じですね。
──アルバム1曲目は「宇宙ダイバー」ですが、即興で生まれた楽曲なんですね。
横山 これはミラクルズというスモーキー・ロビンソンがかつていたバンドがあって、スモーキー・ロビンソンが辞めたあとのミラクルズに「Love Machine」という曲があるんですけど、そのコードが昔から好きで。そのコードでいっぱい曲を作ったことあるんですけど、またちょっと思い出してですね。Park君とそのコードでトラックを作って、歌詞とメロディをトッピングしたんです。
──即興で作られることも多いそうですが、最近見たもの感じたものが影響することもあるのですか?
横山 この曲に関しては無条件にバックトラックに押し出されて、歌詞世界とメロディ世界が“せーの”で出てきたんですけど、なんかスペイシーな感じですね。それと、“CKBが本当の自由を得た、シン・クレイジーケンバンドとしての1stアルバム”っていう気分になってる。バーッと大気圏突き抜けようみたいな、そういう気持ちが表われてる歌詞になってます。