取材・文:竹内伸一 写真:ヨシダホヅミ
“マイクを使った練習がしたい”、“コンテストに応募する動画をきれいに撮影したい”……そんなときに便利なのが町のリハーサルスタジオ。中でも関東圏、関西圏を中心に多くのスタジオを展開しているBASS ON TOPは、アカペラ専用の「アカペラスタジオ」を運営しており好評を得ている。
今回は、BASS ON TOP「アカペラスタジオ」吉祥寺店に協力をいただき、系列のスタジオでよく練習しているというアカペラバンド、プリムラージュのスタジオ練習に密着する形で「アカペラスタジオ」の活用方法を紹介したい。
プリムラージュ
武蔵野大学のアカペラ同好会MAMに所属する4年生、みなみ(Lead)、りえ(1st)、このみ(2nd)、りな(3rd)、まき(Bass)による5人組。“ボカロ曲をバラードでお届けする”をコンセプトに精力的に活動中。
@primula_mam
1.受付
吉祥寺店のロビーに集合したプリムラージュの5人はまず受付へ。BASS ON TOPは料金前払い制なので、まずはスタジオ代を支払う(WEB上での事前決済も可能)。また、このときにマイクや撮影用照明など、必要なものをスタッフに頼んでおく。なお、吉祥寺店では、さまざまな特性を持つマイクが10種類も用意されている。どれを選んだら良いか迷ったら気軽にスタッフに相談してみよう。それぞれの状況に合ったアドバイスがもらえるはずだ。
吉祥寺店を統括する吉崎真人氏によれば、「どのマイクを使ったら良いかわからないというお客さんはけっこういます。まずは、ごくオーソドックスなものや、自分の好きなアーティストの使用マイクを使ってみるといいと思います。そのマイクを使っているうちに、もっと低音が欲しいなど、自分たちの指向性がわかってくるはず。その段階でご相談いただければ、ご要望に合ったマイクを提案しますよ」とのこと。彼女たちは“オーソドックスなものが良い”ということで、SHUREのSM58を借りていた。
2.リハーサル
彼女たちはこの日、動画の撮影と音源の録音をする予定でスタジオへやってきた。しかしその前にまずは発声練習。円になって、スマートフォンでクリックを鳴らしながら、それぞれに音を取り、やがて声を重ねていく。その後、まだマイクは使わずに曲を歌い、「まあまあだね」、「いつもよりピッチが高いね」などと微調整を繰り返していく。
入念に声の調子を合わせたところでマイク練習へ。まずはマイクをミキサーへとつなぐ。プリムラージュはこれまでもBASS ON TOPのアカペラスタジオを利用してきたとのことで、マイクのセッティングは手慣れたものといった様子。テキパキと準備を進めていった。
ところが、スピーカーから何やらノイズが発生。マイクを繋ぎ直してみたりと原因を探るも解消されないので、スタッフへ声をかける。すると、あっという間に解決。クリックを鳴らすために繋いだスマートフォンのボリュームが上がっていたため、それがノイズとなっていたようだ。このように何かトラブルがあれば、やはりスタッフに相談してみよう。
マイクの準備が整ったところで、まずは録音予定曲の一番音量が上がるところを歌い、それぞれの声の“マイク乗り”を確認。どうも思ったような歌声にならないようで、ここでもスタッフに相談。ミキサーでリバーブをかけてもらっていた。さらに、他のメンバーの声が聴き取りにくいという問題も発生し、フロアに置くモニターを用意してもらった。これは部屋に常設されてはいないものだが、要望があれば無料で貸してもらえる。その後も、何度も声を合わせながらマイクのバランスを調整。お互いに意見を出しながらベストを探っていった。
3.レコーディング&動画撮影
マイクの調整を終えてレコーディングと動画撮影へ。マイクに乗った音をスマートフォンに取り込めるオーディオインターフェイスiRigを使ったライン録音、収音マイクMV88とスマートフォンをつないだエア録音、そして、スマートフォンを使った動画撮影に挑戦する。メンバーはiRigにスマートフォンを繋いだり、5人の正面にMV88をセットしたり、動画撮影用の照明機器を用意したりと、自然と役割を分担しながら準備を進めていった。
録音&録画の準備が整ったところで、最終調整。スマートフォンの画角を確認して立ち位置を調整したり、試しに歌ったものを録音し、その音源をチェックしたり、ライティングの色味や光量を調整したりして状況を整えていく。「アカペラスタジオ」を利用して何度か動画撮影をした経験があるというプリムラージュだが、照明を使った撮影は初めて。そのため照明の調整には四苦八苦といった様子。スタッフや、この取材の撮影を担当したカメラマンなどに意見を聞きながら丁寧に調光していた。
さて、いよいよ本番! なのだが、ここで本番用の衣装にチェンジ。吉祥寺店のスタジオはカーテンでスペースを仕切ることができるので、部屋の中で着替えが可能だ。
全員が衣装に着替えると、録音&録画がスタート。お互いの歌について意見を出しながら、何度かテイクを重ねたところで作業を終了。どうやら納得のいくものが録れた(&撮れた)ようだ。
最後は部屋のモニターで録画した映像を確認することに。吉祥寺店ではモニターとスマートフォンを繋ぐコネクタを無料で貸出ししており、それを使えば大型モニターですぐに映像を観ることができる。「思った以上に照明がきれい!」、「最初のテイクのほうが好き」などと、5人は感想を語り合いながら映像に見入っていた。
4.録音&撮影終了
終了時間が迫ってきたので、スタジオを原状復帰して退出。最後はロビーでもう一度、映像や音源を確認しつつ、次回の練習日を決めて、この日の練習は終了。お疲れさまでした!
果たして、どんな映像&音源に仕上がったのかは公開された映像で確認してほしいが、「アカペラスタジオ」を利用すれば、自分のスマートフォンだけでも素晴らしい映像が撮影できることに驚いてもらえるのではないだろうか。また、アカペラの魅力を引き出すことに特化し、アカペラの練習がしやすい環境が整った「アカペラスタジオ」を活用すれば、自分たちのグループのレベルアップに大いに役立つことだろう。アカペラを嗜む者ならば、一度試してみると得るものが大きいはずだ。
◎BASS ON TOP吉祥寺店で撮影したプリムラージュの動画はこちら
Interview
ギャルバンの良さを活かしつつ、他ではやっていないことをやってみよう
──今日は「アカペラスタジオ」でのレコーディングと動画撮影を体験していただきました。やってみていかがでしたか?
りえ これまで、機材の使い方とかがわからなくて、“これはやめておこう”ということも多かったんです。今回は自分たちだけではトライしなかったことが体験できて、貴重な時間になりました。特に動画撮影は、普段はもっと試行錯誤しながらやっていたんですけど、教えてもらいながらやってみたら、意外と簡単でしたし、いつもとは違う感じに撮れたので新鮮でした。
このみ ミキサーの調整とかも苦労しているんですけど、今日は教えていただけたので、これから、どんどん活用していきたいと思いました。
みなみ モニターを借りられることもわかったので、良かったです。
──普段はスタジオを使った練習を、どのくらいの頻度でやっているんですか?
みなみ イベントの前の1ヵ月くらいは、週1~2くらいのペースですね。吉祥寺店だけでなく、いろいろな「アカペラスタジオ」を使ってやっています。
まき マイクを使った練習がしたいので、イベントの前などは集中的にスタジオに入るようにしているんです。
りえ プリムラージュはそんなにやらないんですけど(笑)、私が他に参加しているグループでは、スタジオで動きの確認とか、ステージングの練習もしています。
──スタジオ練習のときに気を付けていることはありますか?
みなみ 衣装を忘れない(笑)。
りえ やっぱりお金もかかるので、時間配分には気をつかいます。
まき 時間が無駄にならないように、曲をちゃんと仕上げてからスタジオに入ること。スタジオではマイクを使って、細かいところを詰めていくようにしています。
このみ ミキサーなど、機材の使い方は、メンバーみんながある程度の知識は持っていた方がいいかなと思います。
りえ 誰かに任せきりにするのではなく、みんながマイクのバランスを取れたほうが、より効率も良いだろうし、スタジオを100%活用できると思います。
──プリムラージュはいつから活動しているんですか?
みなみ 組んだのは2年生の秋で……。
りえ ちゃんと活動するようになったのは3年の春からです。
まき 途中入部のメンバー3人いて、先輩たちとあまり交流がなくて、なかなかバンドが組めなくて。りなが文化祭のときに2つ上の先輩から「新しく入ってきた3人とバンドを組んだら?」って言われて始まったんです(笑)。
みなみ 最初は文化祭だけのバンドだったんですけど……。
まき 5人の性格の相性が良くて、ずっと続いているんです。
──ボカロ曲をアカペラで歌うというコンセプトだそうですが、どういうきっかけで?
みなみ 最初は普通のバラードを歌っていたんです。でも、3年の春に“ちゃんとやっていこう”ということになったときに、コンセプトがあった方がいいんじゃないかってことになって。
まき ギャルバンの良さを活かしつつ、他ではやっていないことをやってみようということになって。
りえ みなみちゃんが歌が上手なので、みんなが知らない曲のほうが映えるんじゃないかってことで、ボカロ曲はあんまりやっている人がいないから、いいんじゃないかって。曲を探すのは大変ですけど(笑)。
このみ 曲探しとアレンジは大変だよね(笑)。
みなみ ボカロの機械的な曲を、人間味あふれる感じで歌うのが「けっこうハマっている」と周囲の人から言われるようになって、それでこの路線に固まっていきました。
りえ ボカロの曲を知らない人が、私たちが歌っているのを聴くと「これ、ボカロの曲なの!?」って驚くことも多いみたいです。
──アカペラで歌う魅力はどういうところにありますか?
みなみ もともと歌うのが好きなんですけど、アカペラはハモるのがすごく気持ち良くて。
りえ 熱量を共有できている感じが良いんです……すごく良いことを言ったと思います(笑)。同じタイミングで息が合ったり、盛り上がったりするのが醍醐味ですね。
このみ ひとりでは絶対にできないし。
みなみ 何人かが集まってひとつの声になるのはすごく楽しいです。
りえ それぞれのパートがひとりきりだから責任感もあって。
まき そのぶん、自分が頑張れば返ってくるものも大きくて、うまく歌えなかったパートができるようになったことを実感できたり、自分の成長も感じられるのがアカペラの良さだと思います。
このみ このグループでは、アレンジを担当しているんですけど、ボカロは単調な和音が多いので、それをアカペラとして聴き応えのあるものにできるか、そこが面白いです。アカペラはコーラスやベースで色を変えられるんです。原曲にはない良さが出せるので、そこもアカペラの魅力だと思います。今回収録した曲も、展開やコードを変えていて、より感動的なものになっていると思うので、ぜひ聴いてみてほしいです。
りえ メンバーがアレンジをしてくれると、それぞれの特徴を活かしてくれるので、すごく良いんですよ。アレンジを外注する方法もあるんですが、このメンバーはこの音域が苦手なのに、そこばかり出てくるとか、この人は字ハモが上手なのに活かされていないなんてこともあるんです。でも、プリムラージュではそういうことがなくて、それぞれの良さを引き出してくれるアレンジになっているので、そこは私たちの強みだと思います。
BASS ON TOP「アカペラスタジオ」推進役・木下和紀氏に聞く
「アカペラスタジオ」の意義とアカペラの未来
──まずは、BASS ON TOPでアカペラ専用のスタジオを始めることになった経緯を教えていただけますか?
木下 もともと私たちはバンドスタジオを中心に展開していまして、高田馬場のバンドスタジオに、アカペラの演者さんのご利用が徐々に増えているというのが、体感としてあったんです。その背景としては、アカペライベント……『ソラマチアカペラストリート』など、規模の大きなイベントが増えたことで、そこに向けての審査音源を録音する場所としてスタジオを利用する頻度が増えたということのようですね。そこで、そういうユーザーさんに向けてまずは高田馬場に「アカペラスタジオ」の1号店をオープンしました。関東からスタートして、その後は大阪の天王寺と連続で出店をいたしました、関西にもアカペラの学生サークルからも多くありますので。
──アカペラのグループに向けたサービスを充実させるのではなく、専用のスタジオを作ったのはなぜでしょうか?
木下 弊社にはレコーディングスタジオもありますので、録音をしたいと、そちらを利用されるアカペラグループも多かったんですが、そのスタジオには楽器が置いてあるので、それが邪魔なようだったんです。歌っているとシンバルが共鳴してしまうなんてこともありましたし。それで“最初から楽器がなければもっと利用しやすいのではないか”と。だとすれば、楽器のないスタジオを作ってしまったほうが早いということになりました。
──音楽スタジオと聞くと、ドラムセットやギターアンプなどが設置されているブースをイメージしてしまいますが、アカペラバンドからしたら、機材がないほうが使い勝手が良いんですね。高田馬場が最初だったというのは、アカペラサークルに所属している学生さんが多かったからですか?
木下 そうです。関東には社会人のアカペラグループも多いんですが、そういう方たちも学生時代は高田馬場周辺で過ごしていたりする方もいらして、馴染みのある場所なんです。ですので、高田馬場店に関しては、社会人の方の利用も多いです。
──アカペラの練習という面で、専用スタジオを使う利点はどこにあると考えていますか?
木下 基本的にアカペラは、公園や学校の階段の下など、機材のない場所で練習されていると思うんです。でも、ライブに出演するとなるとマイクを使って歌わなくてはなりません。以前は、スピーカーから自分たちの声を聴きながら歌うということに慣れないまま、ステージに立つことになってしまったというケースも多かったそうです。アカペラスタジオの利点としては、ライブに即した音響環境で練習できるというのが大きいと思います。さらに、弊社のスタジオは全面が鏡張りになっているので、自分たちの動きを確認しながら練習ができます。そういう環境も実はあまりないと思いますね。バンドスタジオだと鏡のないところも多いですから。そして何と言っても録音・動画撮影ができること。それがアカペラスタジオの最大の利点かもしれません。
──アカペラスタジオでの録音・録画は、誰にでもできるものなのでしょうか?
木下 スマートフォンにケーブルを挿していただければ、そのまま録音ができるようになっていますし、動画撮影ついては照明機器の貸出しなども行なっています。今は撮影してSNSにアップするというのが、アカペラのひとつの楽しみ方になっているんですよ。みなさん我々が思っている以上に工夫して撮影されているので、それに対応したサービスができるようにしていきたいと思っています。
──アカペラスタジオは2016年から運営されているそうですが、7年ほど続けてきて改めて気付いたことはありますか?
木下 高田馬場店は、『ソラマチアカペラストリート』が人気イベントになったこともあって、その出演を目指すグループの方々が多く利用してくださったことで、すぐに浸透した感覚があるんです。しかし、関西では東京ほどイベントが多くないので、スタジオで練習するという文化の浸透が東京よりも遅かった気がします。アカペラのグループは全国にたくさんいますし、(地元にはアカペライベントがなくても)みなさん、遠方のイベントにも参加されているので、いずれはスタジオを使った練習をやることになるとは思うんですが、関東に比べると、地方はまだスタジオで練習する文化が根付いていないのかなとは思います。スタジオを使って自分たちを発展させるという文化も、私たちが徐々に大きなものにしていかないといけないなと思っています。それと、『ハモネプ』などの影響だと思うんですけど、アカペラにも毎年流行があるんです。激しめのバンドが流行ったりだとか、そのスタイルというのはいろいろと変化があるので、そういう部分にも対応していきたいと考えています。
──地方のアカペラシーンについて、活性化のために考えていることはありますか?
木下 アカペラを始めるのは大学生になってからという方がほとんどなんですね。それまでにアカペラを経験することはあまりなくて……名古屋では、高校生でもアカペラができる環境があるみたいなんですけど。それと九州などでは大学のアカペラサークルの数があまり多くないので、活動が盛んなひとつのサークルにみんな集まってくるんですね。ですので、アカペラのできる拠点を増やしていきたいなと思っています。それによってアカペラに触れる人も増えるでしょうし、アカペラという文化の規模も大きくなっていくのではないでしょうか。
──アカペライベントの主催、もしくは協力も積極的にされていますが、それもアカペラを広めたいという思いからなのでしょうか?
木下 私たちがサポートしている大阪・天王寺“てんしば”で開催されるイベント『てんしば Acappella Garden』を始め、アカペライベントは多くの人に観ていただけますし、それによって自分もやってみたいなと思ってもらえるきっかけになるものだと感じますので、とても有効なものだと考えています。私たちは関東と関西に店舗を構えていますが、それ以外の地域でもストリート形式のイベントを開催したり、地元のイベントにお力添えするなど、アカペラを広めていく活動は継続していきたいですね。
──そもそもイベントを主催されるようになったのは、どういうきっかけだったのでしょうか?
木下 アカペライベントは、アカペラスタジオができる前から開催していました。関西ではストリート形式のイベントが、まだそれほど多くなかったんです。アカペラの活動をされている方は、ライブに参加したいけど、その機会はあまりないという状況でした。そういう状況を知って、我々には音響の部署もありますから、“そのチームを連れて行ってストリートで音響環境を整えればライブができるよね”というところから始まりました。それで、より多くの人に楽しんでもらうにはどうしたらいいのか工夫を重ねて、規模が大きくなっていったんです。
──イベントを開催する上で心がけていることはありますか?
木下 学生さんと社会人の方では楽しみ方が違うなと感じています。大学生は4年間でどれだけ自分たちが上達できるかが重要というか、ちょっと悲しくもあるんですけど卒業したら一区切りという方も多くて。卒業するまでという期限があるからこそ、そこに向かって『ハモネプ』に挑戦したり、いろいろな方にライブを観に来てもらえるようにいろいろ工夫したりして頑張っているんですね。
──4年間でいろいろなコンテストで優勝できるように、実力も知名度も上げて頑張ろうという感じで、ある意味オリンピックを目指すアスリートのようなストイックさがあるということですね。
木下 学生さんは、そういうグループも多いんです。一方、社会人のグループは、学生時代に頑張って活動していたんだけど、卒業して一旦はやめてしまった。でも、仕事も落ち着いてきたので、またライブをしていこうというような、楽しむことを目的に活動していることが多いんです。そういう方たちには、イベントも楽しんでもらえる内容やシチュエーションにしたいと思いますし、アカペラを極めたいと考えている方には、どうやってお客さまにアピールするのかといった部分も含めた、楽しいだけではないイベントが必要だと思っています。
──アカペラグループから活動にまつわるアドバイスを求められることもあるのではないですか?
木下 “どうやったらライブの集客が増えますか?”というような話はよくされますね。みなさんSNSでライブを告知したり、先輩がやっていた方法を真似てみたりしているようなのですが、私たちの目線で“こういうことをやっていけば、もっと注目されるんじゃないか”という話をさせてもらうことはあります。例えば、動画を撮影してSNSにアップするにしても“こういう部分を工夫したら、自分たちの良さが伝わるんじゃないか”とか、そういったことですね。
──アカペラスタジオでは、スタジオから配信することもできますか?
木下 できますよ。最近は減ってきましたが、コロナ禍では有観客ライブがなかったので、私たちの配信サービスを使ってライブをやるバンドもいました。最近はリアルなライブが増えたので、撮影という意味では、動画を撮影したらちゃんと編集をしてひとつの作品として発表するというグループが増えているんじゃないでしょうか。そのためにスタジオを利用するケースが多いように思います。
──より充実したスタジオ利用をするために、何かアドバイスはありますか?
木下 アカペラの練習ってわりと確立されていて、メンバーが円形になって歌う方法が多いように思うんです。なぜそうやっているのかを聞くと、“アイコンタクトをしっかり取りながら歌えるのでやりやすい”と、みなさんおっしゃるんですけど、実際のライブでは、そうやって歌うわけではないですよね。本番になるとあたふたしてしまうというケースも見受けられますし。ライブに向けて練習をしたいのであれば、ライブを想定してシミュレーションをするべきだと思います。ライブのときには6人がマイクを持ってお客さまに向かって演奏するわけですので、その並び順や立ち位置、距離感はステージ通りにやると効果的な練習になると思います。
マイクを通した音響も、PAさんに音を作ってもらうという方が多いのですが、少なくとも自分が歌いやすい音くらいは作れたほうがいいと思うんです。それもスタジオの機材を使って、練習というか試してみてほしいです。自分の歌いやすい音が理解できていれば、PAさんとのコミュニケーションもスムーズになりますから。それと練習の風景は常に動画に録っておくと良いです。それを見返して“ここを修正しよう”といった具合にすれば、効率的かつ効果的にな練習ができると思いますね。
──アカペラスタジオとしての今後の展望を教えてください。
木下 アカペラを楽しみたいという方は増えていますし、アカペラは初めてステージを観た方でも楽しめるコンテンツだと思いますので、その魅力を広めるお手伝いをしたいと考えています。まずは拠点となるスタジオの店舗をどんどん展開していきたいですね。また、大学生のサークルや、そのOBで社会人になっても続けている人たちだけではなく、高校生の段階でアカペラに親しめるような取り組みをやっていきたいんです。高校の文化祭にアカペラグループを連れて行って、実際に観てもらったり。もちろん、アカペラのイベントも継続して盛り上げていきたいですし、アカペラ以外のイベントでもアカペラというコンテンツを取り込んでもらい、観たことがなかった人にも触れてもらえればと考えています。
それから大きなステージ……例えば、京セラドーム大阪でアカペラのライブをやりますといった夢が持てるようにしたいですね。バンドだと、そういう夢を持っている人も多いじゃないですか。なので、まずはみんなが憧れるステージを私たちで作っていきたいですね。その一方で、バンドセットではなくアカペラなどに向けたライブハウスである浅草VAMPKINを最近出店しました。アイドルグループにも使っていただいているんですが、アカペラのライブも増えています。バンドセット前提ではないライヴハウスであれば、アカペラバンドもやりやすいのではないでしょうか。アカペラのライブはストリート形式が多いですが、ちゃんと結果を残したいと考えているバンドに対しては、しっかりとお客さんからチケット代をいただけるようなライブのプロデュースをしてあげたいと思っていますので、協力しながらやっていきたいですね。
──木下さんが感じるアカペラの魅力はどんなところでしょうか?
木下 私はもともとギターをやったりはしていたんですけど、アカペラスタジオの担当になるまで、アカペラについてはまったく知りませんでした。そこでまずは営業も兼ねてアカペラのライブに行ったんです。そのときに観たライブに非常に感銘を受けまして。目の前でハーモニーがきれいに折り重なっていく素晴らしさというのは、やはり生で体感してこそだなと思ったんです。そこからどんどん興味が沸いていきました。
その後、アカペラスタジオがオープンしてお客さまと接することが増える中で、みなさんが抱えている悩みというのが、これまで私がバンドスタジオの運営で見聞きしたものと共通していたんです。やはり音楽をお客さんに届けたいっていう気持ちは同じなんですね。それで、バンドのほうではすでに解決している問題も多かったんですよ。ですから、私たちの持っているノウハウを伝えてあげれば、アカペラバンドの活動も活発化していくんじゃないかという思いで、仕事を続けてきたという感じです。
アカペラバンドの方って、すごく真面目なんです。例えばサークルのライブを開催するとなると、本当に一生懸命取り組んでいるんですよ。裏方の仕事を担当している方も、すごく真剣にやっていて。そういう姿を見ると、自分も本気で取り組まないといけないと思いますよね。そんなみなさんの人間性に惹かれて、みなさんの思いに応えたいという気持ちは強いです。
──今後、日本のアカペラシーンはどうなっていくと考えていますか?
木下 日本のアカペラは『ハモネプ』の影響が大きいんです。みなさんが注目しますし、あれを観て始める方も多い。ただ、公のメディアに出ているものが『ハモネプ』しかないとも言えて、他の音楽番組でアカペラが登場することは、ほぼないですよね。今のままでは、この状況は変わらないと思うんですが、最近はYouTubeなどで、かなり質の高いアカペラ動画を制作しているグループも出てきました。アカペラスタジオの池袋東口店では、背景にこだわった仕様にしておりまして、多くのバンドに使っていただいています。店舗によってはグリーンバックのレンタルもやってます。そういうふうに、これまでとは違う形でアカペラの魅力を発信する方が増えることで、新たなものが生まれるような気がします。もちろん、これまでのようにリアルな現場で歌いたいという人もいるでしょうし、オンライン内で表現したいというグループも出てくるでしょう。そういう二極化が進むのではないでしょうか。どちらもアカペラの楽しみ方だと思いますが、個人的には、いずれにしても、もっと気楽に楽しめるコンテンツになったらいいなと思っているんです。
それとアカペラは譜面ありきというか、自分のパートの楽譜を見ながら練習するというイメージがあると思うんです。でも譜面って音楽をやっていない人からすると、ちょっとハードルが高いものだと思うんですよ。今は自分のパードだけを聴けるアプリもありますし、以前よりも気楽に始めることできる状況になってきたと思うので、そういったアプリの使い方なども私たちが教えてあげることで、アカペラを始めやすい環境は作っていきたいです。アカペラは若い方から年配の方まで楽しめるコンテンツだと思いますので、幅広い層に楽しんでもらいたいですね。
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【関東】
【関西】
Web:https://www.bassontop.co.jp/corporate/a-cappella/
BASS ON TOP主催/共催アカペライベント開催
【吉祥寺アカペラフェスティバル】 9月3日(日)コピス吉祥寺デッキ広場
MC:おくむら政佳 ゲスト:寿ファンファーレ
【てんしばAcappella Garden】9月11日(月)大阪天王寺公園エントランスエリア「てんしば」
【Minato Acappella Festival Vol.3】 10月29日(日)BESIDE SEASIDE 芝生広場
MC:とおるす ゲスト:Jane Doe、うたかるた
書誌情報
『アカペラスタイル』(リットーミュージック)
共著:baratti(Nagie lane)、かくたあおい
編集:Vocal Magazine Web編集部
2023年8月17日(木)発売
定価2,310円(本体2,100円+税10%)
ISBN9784845639199
商品ページはこちら!
https://www.rittor-music.co.jp/product/detail/3123243002/