取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
TiKTokドリームをつかんだ2人
──失礼ながら、安井さんは音楽の勉強をすごくやってきたわけじゃないですよね。でも、なかねさんの音域を下から上まで上手に使ってメロを作りますよね。
安井 最初はわからなかったんですけど、大体これぐらいってわかるようなって。今はだいぶ、かなちゃんの声が一番よく出る高さがわかるようになりました。
なかね 私もなんとなく歌いやすくなっていってますね。
安井 低すぎたらやっぱりどうしても出えへんかったり、でも高すぎてもあんまり良くないなってなったり。それは調整できるようになりました。だから最初の歌とか聴いてもらったらわかるんですけど、めっちゃ低い歌もあるんですよ。最近やっと安定してきましたけど。
──でも、なかねさんの低い声は、すごく魅力的ですよね。
安井 そうなんですよね。
なかね でも、低いと動画だと聴こえないことが多くて。やっぱりピーンと張ってる声のほうが聴きやすい。まあ、大体(高低)どっちも入れ込んでるところはあります。
──歌詞のテーマは、大体どこから持ってきてますか?
なかね 日常的にあった面白いことをまとめてメモっていたり、安井が面白いことあったら言ってくれるとか。あとは。それこそ「モテすぎて草、誘ってて森」とかもそうですけど、“これ歌にしたらオモロイんじゃない?”みたいな企画を2人で考えてっていう感じですね。私はわりと真面目なんで(笑)、事前にちゃんと歌詞を考えてきて。曲の長さは大体1分以内っていうのは決まってますかね。
──歌詞はワンコーラスでビシッと締めるのが基本スタイルになるわけですね。
なかね そうです。逆に言えば、むしろこの1分のが決まっちゃえば、フル尺にするってなった時ってめっちゃ簡単で。私らの中では、ここ(1分版)が難しすぎて。「モテすぎて草、誘ってて森」とか「ビジネスパートナー」とか、曲でリリースしたやつって、この一部は難しかったですけど、“じゃあフル尺出します”って言ったら一瞬だったんですよね(笑)。
──フル尺にすると、Cメロみたいな、落とすメロが欲しくなったりするじゃないですか。
なかね そう。それも、うちらの曲はAメロとサビしかないんですよ。でも、これ言わないと一生それでやり続けますからね、安井は(笑)。なので最近ちょっと“せめてBメロは入れよう”ってなったのが、「ハッピーバースデー己」でした。
──これから動画投稿をやりたい人の参考になるように、各SNSの特徴や反応の違いを教えてもらえますか?
なかね TikTokって、やっぱりすごい気軽なんですよね。1分以内でサクサク観られるから。YouTubeは、だいぶ違うけど、TikTokに比べたらちょっとテレビ的で、しっかり画面に映して長時間観る、みたいな。っていう意味だと、TikTokのほうが拡散された時に、ものすごい伸び率がある。拡散されるぶん視聴者さんからの反応も全然多いと私は思いますけどね。
安井 とりあえずやるならTikTokなんかなって。誰でも1日でめちゃくちゃフォロワーが増えて、明日からスーパースターみたいな可能性が高いのはTikTokかなと思う。YouTubeも継続的に続けてたら可能性があるけど、ホンマに今すぐに!ってことやったら、TikTokはありますよね。宝くじまではいかんけど、可能性が高いかなっていうイメージ。
──TikTokドリームがある。
なかね いや、私らはまさにそれでした。こんなことになると思ってなかったんで。今も思ってないもん。夢かと思う。
──「モテすぎて草、誘ってて森」は、曲ができた時にバズる手応えがありました?
なかね 全然なかったです。でも、TikTokあるあるなんですけど、“TikTokって、めっちゃバズるやろ、これ!”って思ったのって、大体そんな伸びないんですよね。で、“別に(伸びとか)気にしない”みたいなやつが、めっちゃバズったりするっていうのも、これ絶対TikTokあるあるなんですよ。たぶんTikTokerみんなが言うと思うんです。で、これもそのうちのひとつでしたね。一番初めに私たちが1本目を上げた時みたいに、“なんかとりあえず面白いし上げてみるか”ってアップして……。だからバズってるのもしばらく気づかず……。
安井 いつも通り上げてるからチェックもしてない(笑)。
なかね そんで5日目ぐらいに“なんかめっちゃ回ってない?”みたいになって。そこで初めて手応えがあった感じです。めっちゃ自信があったわけではなかったんで。
──それでワーナーミュージックさんから声がかかり?
なかね そうですね。もともとワーナーさんに知り合いというか、普通に友達がいたんですけど。最初はTikTokから“楽曲登録をしませんか?”みたいなことを言われたんですね。で、楽曲登録をするために、冷蔵庫のブォーって音が入ってないような正規の音源を欲しいと(笑)。“レコーディングなら携わりますよ”みたいな感じで言ってくださったんで、じゃあお願いしま〜す!というような話を友達にポロっとしたら、じゃあ、サブスクの登録がワーナーでできるか聞いてみてあげるよって話だったのが、“メジャー・デビューの話が……”っていうことを言われて。“ん? メジャー・デビュー??????”って(笑)。渋谷のお酒280円みたいな安い居酒屋で、そんなんやってましたね、その時は。
──まったく実感がない?
なかね 実感ないし、詐欺かと思いましたよ(笑)。共通の友達に聞きましたから。“悪い人じゃないよね? 怪しくないよね”って。
安井 どう思ったというか……ええ〜〜〜って。かなちゃんはけっこう人の話をすぐ信じちゃうんで大丈夫かなって。最初は悪い人に引っかかってないかっていう心配のほうが勝ってましたから。いざホンマって話になってから、ああマジか。そんなことある?って2人でずっと話してましたね。
なかね でもなんか、たぶんこういうのって“やった! めっちゃ嬉しい”ってなるじゃないですか。うちらはそんな域でもなかったよね。時間差で嬉しさは来ましたけど、当時はなんか……。
安井 大丈夫かなって心配というか、不安だったよね。
なかね 合ってる?って。
──なかねさんは、歌1本でやっていこうという時期があったから、目指していたゴールにちょっと近いのでは?
なかね 違います、違います。全然、その“アーティストさんになろう”っていう気はなかったんです。私はどちらかと言うとお芝居が好きで、そっちの道へ行こうとオーディションとか受けてやっていた時だったんで……。私、歌手なるん??って感じでしたね(笑)。
──安井さんは東京に来てからは、ずっと別の仕事しながら?
安井 そうです。ずっと仕事と活動を併用しとって。ただ、コロナで何も仕事もせえへんようになり、かなちゃんと一緒に投稿をやってたって感じです。すごい暇やったなあ……(笑)。
──レコーディングで演奏するってことは……?
なかね まあ、ないでしょうね(笑)。
安井 ないか?
なかね ちょっと待って……? ないな。
──(笑)。でも、それって大作家先生ですよね。
なかね そう、大作家なんで(笑)。別に演奏ができないだけ。
安井 演奏ができないギタリストって(笑)。
──そしてなんと「モテすぎて草、誘ってて森」が『TikTok流行語大賞2021』大賞に決まりました。おめでとうございます。ベタですが、この喜びをどなたに伝えたいですか?
なかね ……私、誰に伝えたいんや(笑)。流行語大賞って。……あ、でもちょっとベタですけど、今パッと思い浮かんだのは……いや、これホンマにはずいな。マジで言いたくないけど、本当にファンの人です(笑)。大賞って言いたくない? 観てくださる視聴者さんの方々に、投票してくださいってめっちゃ促しとって。毎日のようにDM来てたんですよ、“投票しました!”みたいな。大賞って、そういうファンのおかげじゃないですか、やっぱり。みんなに言いたいのがホンマに一番強いかもしれないです。それ以外は別にいないな。
安井 誰にも言いたくないな。
なかね なんで? 言いたいやん。
安井 いや、その日までな。それを言うんやったら全員に言いたい。
なかね いやいや……めっちゃボケたいんですけど、ほんまにファンの人に言いたいです。本当にありがとうって。