撮影:高田 梓
シンガーソングライター、関取 花が『Vocal Magazine Web』にて4年以上にわたって連載したコラム『うたってなんだっけ』が書籍化されて12月19日に発売される。その書籍化にともなって、いきものがかりの水野良樹との対談が実現! 本の中では30ページ以上にわたり、“うたってなんだっけ”という、たったひとつのテーマを軸に、自由に語り合ってもらっている。
今回掲載するのは、同対談において、お互いの最新作を事前に聴いてもらい、ミュージシャン同士で思うがままに質問を投げかけていくというもので、書籍の対談のスピンオフ的なものとなっている。
いきものがかりの楽曲は、12月10日にCDリリースされる、TVアニメ『キングダム』第6シリーズ(©原泰久/集英社・キングダム製作委員会)のオープニングテーマに起用された「生きて、燦々」。関取 花は10月1日に配信リリースされている「わたしのねがい」。このお互いの新曲を軸に、対談を進めてもらった。
僕のくどい仮歌をフラットにするのが吉岡(聖恵)の作業(水野)
──水野さんが主宰するHIROBAのnote上で、2019年から30回にわたって関取さんが『はなさんさん』を連載し、その後に何度も対談するなど深い交流をされています。そもそも、水野さんが関取さんにコンタクトを取ったきっかけは?
水野 当時、僕は九州で音楽番組(RKB毎日放送『ミュージックスコップ』)の司会をやらせていただいていて、そこに出てくれたんですよ。覚えてくださってます?
関取 もちろん。友達の植田真梨恵ちゃんと一緒でしたね。
水野 そう、ふたりで出演してくれて。短い時間だったんですけど切り返しが早くて、ここ数年で一番聡明な人に出会ったなという印象でした。ちょうど関取さんの「べつに」が話題になっていてバラエティにも出ていた頃で、文章も何回か読む機会があったんです。それでTwitterだったと思うんですけど、「いろいろ書きたいです!」みたいなことが書かれていたから、すぐに「お願いします!」とHIROBAで連載をしていただきました。そのあと、ぴあさんで僕が連載していた『うた/ことばラボ』での対談企画に来ていただいたりして。今年(2025年)も、HIROBAの対談Qというコーナーでお話させていただきました。
HIROBA/対談Q
第1回:https://hirobaweb.com/taidanq_sekitorihana1/
第2回:https://hirobaweb.com/taidanq_sekitorihana2/
──ありがとうございます。関取さんの新刊書籍『うたってなんだっけ』の対談でも、少し触れていただいていますが、いきものがかりのニューシングル「生きて、燦々」について、関取さんから水野さんに聞いてみたいことはありますか?
関取 この曲、すごく厚いコーラスが入ってるじゃないですか。コーラスがこれだけ入る前提で(吉岡)聖恵さんにヴォーカルのディレクションをするんですか?
水野 この曲に関してはそうでしたね。自分が作ったデモの段階でもコーラスをバーっと入れてました。吉岡には「こうするから、その真ん中に立ってね」ってイメージを先に伝えた感じです。
関取 本当にそういう聴こえ方ですよね。ミックスも聖恵さんの歌だけがガンと前に出るのではなくて、『キングダム』の原(泰久)先生が描いたジャケット写真も相まって、“従えて”っていう雰囲気で。それがすごく新しいなって思いました。
水野 先にこういう展開にするからと伝えると、やり方が変わっていくんですね。サビの中でどれくらいコーラスが聴こえてくるかによって、彼女の歌い方は変わるから。
関取 そうですよね。《喜びから悲しみまで》のところとか、《きらきら》とかの歌い方が新しいなと勝手に感じていて。だからもしかして、コーラスがある程度入った状態で歌っていらしたのかなとか思ったんです。
水野 イメージはしてもらいましたし、歌入れのときもコーラスのデモ音源は流れていました。あと、僕のくどい仮歌というのがあるんですけど……デモを作ったときの。
関取 あ、聖恵さんが言ってたやつだ。なんだっけ……《まわる まわる》みたいな。
水野 《悲しみがまわって、めぐって》みたいな仮歌があって(笑)。今回はちゃんと歌詞を書いてますけど、普段は“めちゃくちゃ語”で書いて歌うことが多いんです。その仮歌のくどさが原料としたら、それをどれくらいフラットにするかが彼女のバランスの取り方というか。もちろん、同じようにくどく歌ってもいいんですよ。くどく歌う場所と、サーッて薄味にする場所と、それで曲を普遍的なものにしていくっていう作業があって。だから《喜びから悲しみまで》のような大サビ部分は、わりあいくどさを残しながら歌う。サビの部分はもっとフラットにして、僕がワーって力強く歌ってるニュアンスを減らすんです。
関取 確かにメロ的にも展開があるところですものね。
水野 ちょっと盛り上がってても大丈夫とか、濃い表現があっても自然と受け入れられるようなバランスを、彼女の中で取っていくことはありますね。
関取 なるほど、そういうことだったんだ。また《きらきら》が本当にキラキラして聴こえて。《きらきら》って歌ってる人がいるんじゃなくて、《きらきら》が歌ってるっていう感じ。それもすごく新しく感じました。あとこれは本当に個人的な「相談」ぐらいの話なんですけど。大サビで《きらきら》って使って、そのあとは《きらり》じゃないですか。私、こういう歌詞をずっと書きたい、書き続けたいんですよ。こうありたいんですけど、長く続けていると、「ここでもう《きら》は使ったな」っていうのが勝っちゃって。「でもここは絶対《きらり きらり》じゃん。でも前で使っちゃってる」って。
そうなると、使いたくても文章でパッと見たときに、音楽以上に自分を納得させるほうを取っちゃうパターンがあるんですよ。《きらり きらり》は使わないで我慢して、例えば《輝け 輝け》にちょっと変えるとかしちゃう自分が最近すごく嫌で。過去の自分の歌詞を見返したら、そんなことないんですけどね。これを今もできるのは、それこそ、たどり着いたのか(注1)、無意識なのか、すごく気になって聞きたいんですよ、本当に(笑)。
注1:この「たどり着いた」の流れは書籍『うたってなんだっけ』の対談を受けていますので、詳しく知りたい方はぜひ本書を読んでみてください!
水野 答え方としては2パターンあって。ひとつはカッコいいほうで、「歌として良くなるならサビの歌詞は全部同じでもいいんだ、それで成立していればいいんだっていうことを考えなきゃなと思ってます」という答え方がひとつ。もうひとつは……意外と僕、適当なんで(笑)。
関取 あとのほうがカッコいいじゃないですか! それこそたどり着いてますね、やっぱり(笑)。
水野 最近、40歳を超えて思ったんですけど、ちょっとキャリアも長くなってくると、「水野さんって『EIGHT JAM』とか観るとすごい解説してて。本当にいろいろ考えて考え尽くして、理詰めでやる人なんでしょうね」って言われることが多くなって。いや、全然そうじゃないから「あ、オレ適当なんだな」って(笑)。他の人と作業すると、けっこう皆さんこだわるわけですよ。もちろんこだわってるのは尊重したいから一緒に付き合って「そうですね……」っていろいろ話すんですけど、どこか頭の中で「どっちでもいいじゃん」って(笑)。僕、そういうタイプなので、どっかいい加減なんですよ。それは良かったかも、そう生まれてきたのは。
関取 そうなんですね〜。
水野 もちろん一生懸命に書いているんですよ。だけど、忘れてるんですよね(笑)。「あれ?(この言葉)前に使ってるな」とか、「《きらり きらり》とかほかの曲でも使ったな」とか。
関取 私、そういうことばっかり考えちゃうんですよ……そうですよね。いや、そのほうが絶対にいいですよ。最近、けっこうガチで悩んでて。
水野 鈍感さもどこかで必要かもしれないですね。
関取 それって最初の頃からですか?
水野 最初っからみたいです。コツコツやるとかが無理なので、そのときは熱中してワーッとやるんですけど、その姿が細かいことまで気にしてるように思われるんでしょうね。でも、ある程度までやって飽きてくると、あとはどうでもいいかって。「まあまあまあまあ、いいんじゃない? そっちで」みたいなタイプなんですよ(笑)。
関取 そうなんですか。いろんなことに挑戦される方って、確かに……。
水野 あれね、いい加減だからできるんですよ。真面目な人はやっぱり「その業界の方に失礼だな」とか、「こんなことやったらちょっと恥ずかしいよな」って思うんですけど、僕は根が適当だから。「いいよ、面白そうだからやってみようか」みたいな。
関取 次の目標ができました。私もそこに行きたいですね、本当に。でも、絶対「出てきたこと」のほうが良いんですよ。昔の自分の曲を聴いてたら、めっちゃ同じ言葉が出てきますもん。









