取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
私がその寂しさは全部手を広げて抱きしめる
──「巡り巡る」は琴箏の旋律と音色が映える美しいミディアムナンバーですが、イントロとアウトロには時計の秒針の音が入っており、現世の限りある時間を象徴的に示しています。鈴華さんの「死」に対する考えはタイトルでも示しているであろう、「輪廻転生」に近いものですか? その死生観についても、よければ聞かせてください。
鈴華 私が歌手になったきっかけの大きなタイミングに父の死があるんですね。ピアノがつらくて弾けなくなったときに、自分の悲しみや苦しみを昇華する方法が、曲にする、歌詞に書くことでした。それまで私が歌っていても大して興味を持ってくれなかった母が「良い曲できたね」って聴いてくれるようになって。そのタイミングくらいから耳を傾けてくれる人が周りに増えていったんです。私が歌手として生きていく上で、自分が体験した苦しみや悲しみっていうものは、すべて今生きている誰かに寄り添えるものだと。そこを知らなければ絶対に無理だと思っているので。
もちろんこの歳になれば親を亡くしている人も普通にいますが、当時はまだ私も学生で父も40代、しかも突然死という形だったので。でもそのときに「一生分の幸せを短期間にいただいて、父は亡くなっていったんだな」とか、「実際一番悲しんでいるのは、残された私たち自身よりも、今姿も見えなくなっている父自身なんじゃないか」とか、すごい考えたんです、死生観を。そして、そのときの気持ちを定期的に文字起こししたくなるんですよね。死生観は誰しもが体験するものなので、そういった曲に救われる瞬間って絶対あると思っていますしね。だから私が作ってきたアルバムの中には必ずこのテーマの曲が入っています。和楽器バンドでも「砂漠の子守唄」、「IZANA」、「鳥のように」、「風鈴の唄うたい」など、全部これ死生観を歌っている曲で、今回のアルバムにもそういったものは絶対に入れようと決めていました。
この曲には、よく聴くと舟を漕いでるFX(効果音)も裏に入っているんです。《巡り巡る命の舟に乗って》っていう歌詞が出てくるからですね。これって宗教観が関わってくるので人それぞれですが、私は特筆した宗教がどうのこうのっていう気持ちではなくて、人が苦しいときに、その哲学がきっかけで少しでも救われて生きられればいいと思っているんです。そんな中で私がいくつか救われたテーマがあって、そのひとつが輪廻転生だったりします。あくまで魂の修行として今世にいて、もし今世での寿命が短かったとしても、それはもともとの寿命として選んでここに来ている。その上でまた繰り返し次の生を受けて生きているので、この苦しみとか悲しみは意味があって起きているものだっていう考えに、すごく救われました。こういった仏教的な考えだけじゃなくて、例えば他の海外のものでも「これは良い考えだな」と思えば、そういう曲も残したりすると思います。
──ありがとうございます。そして「The Battle of the Monkey and the Crab feat.HIROKI(ORANGE RANGE)」は、表題どおり、『さるかに合戦』をモチーフに、ORANGE RANGEのHIROKIさんと一緒に歌っています。昔話を題材にするのは、もともとシライシ紗トリさんと語り合ってきたアイデアだそうですね。
鈴華 シライシさんとは仲が良くて、よくスタジオでプリプロをしていたんですね。全然リリースとか関係なくやっていたときに、「昔話をテーマにしたら面白いよね。いつか海外でも出したいね」なんて話をしていて。ソロでフットワークが軽くなったこともあり、「今回どうです?」って声をかけました。あとは男性ヴォーカルと1曲は一緒にやりたいとずっと思っていたんです。めちゃくちゃ歌える人か、ラップいける人かと思って、シライシさんに何人か提案いただいた第一候補としてHIROKIさんが挙がっていて、お声掛けさせていただいたら、二つ返事で「ぜひ!」だったんですね。さらにHIROKIさんから『さるかに合戦』とかいいんじゃない?って案が出てきて。私も昔話の候補のひとつにあったんです。ふたりで歌うからサルとカニっていうのも面白いし、「もうこれだね」となって、まずはシライシさんの作曲からスタートした感じです。私、ずっと民話や昔話、妖怪とかをテーマにした作品作りをやりたかったんです。「そういうコンセプトアルバムを今後やってもいいな」って思っているぐらいやりたかった形ですね。
──本当にカッコいい仕上がりですよね。レコーディングはどうでしたか?
鈴華 この曲はおもにシライシさんがディレクションしたんですけど、私はこういう曲すごく好きで歌いやすかったし、ほぼ一発録りくらいのテンポ感でした。正味30分くらいで録り終わったかな。私が先だったのでHIROKIさんパートはシライシさんが仮のラップを入れてくれていて、その上に見当をつけて節調を乗せていきました。「これくらいの音量でここに入れたい」みたいな感じで録っていったんですけど、結果オールOK。めちゃくちゃ楽しく、あっという間にできあがった感じでした。それぐらいバシッとハマっていたんですよね。今まで作品として英語の曲をあまり歌ってなかったんですが、歌いやすいし、楽しい。この曲はリリックビデオを作ったので、気軽に聴いてもらえたらなと思います。
──13曲目は「パピヨン」で、こちらは2025年1月に発表されていました。ファンを想って作った曲とのことですが、2024年12月31日をもって和楽器バンドが活動休止に入ってすぐのタイミングと考えると、本当に鈴華さんらしいなと感じました。
鈴華 このタイミングで絶対に出すって決めていたので。メジャーとかインディーズとか関係ない、とりあえず急いで配信!みたいな。
──和楽器バンドのベストアルバム(『ALL TIME BEST ALBUM THANKS~八奏ノ音~』)に書き下ろした新曲「GIFT」とこの「パピヨン」は繋がっている気がします。
鈴華 はい、私の中では繋がっています。ファンの方が好きなアーティストに求めるものには、楽しいだけではなく、辛いとき、悲しいときに心の穴を埋めてくれたり、寄り添ってくれる部分もあると感じています。だからこそ音楽にお金と時間を費やしてくださったりするのですけど、それがこちらの都合で一回なくなると、ポカーンって穴が空く人はたくさんいると思って。
──そうですね。特に和楽器バンドには熱烈なファンが多かったですから。
鈴華 はい。私自身も好きなアーティストがいて、その音楽に救われた経験がたくさんありましたし、そのバンドが解散しちゃって、もう一生ライブで聴けないというときの喪失感はとても大きなものでした。その気持ちがわかるからこそ、(活動休止は)申し訳ないっていう気持ちがあって……。もちろんバンドのファンにとっては、ソロではバンドほどの力はないかもしれない。だけど、「私がその寂しさは全部手を広げて抱きしめるから。その寂しさも本当にわかっているから。これから先、まだどうしていいかわからないかもしれないけど、その穴を埋めるいろんなエンターテイメントを届けていくからね。ずっと寄り添っているよ」っていう気持ちで、自分の経験とファンの気持ちとをリンクさせながらこの曲を作りました。









