取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
黒猫さんの歌い方をとてもリスペクトして歌いました
──アルバム後半に入りまして、「うたいびと」は包み込むような優しい歌声で、声に芯はあるけれどエッジを立てない歌い方の感じです。また他の曲とは声の使い方が異なると思ったのですけど、その辺はいかがでしょうか。
鈴華 例えば「七つの子」の「《カラス なぜ鳴くの》をどう歌いますか?」って言われたときに、「なんとなくこういう風に歌いたい」って、それぞれヴォーカリストは持っていると思うんですけども、そういう感覚ですね。懐かしさとか故郷とか母の温もりとか、私は「童謡のように歌い継ぎたい曲だな」というイメージで歌っています。これはサビからできた曲で、そのサビを「どのぐらいのキーで歌いたいか」っていうところから曲のキーも決まっていきました。《時がくればそう》の《そう》の部分が、これより高くても低くてもちょっと違ったので、ここのキーがベストだったんです。ただ、ピアノで弾くとちょっと嫌なキーなんですけどね(笑)。あとはコロナ禍に作った曲で、《時がくればそう 流した涙も星になる》っていうところは、ロックダウン中に出てきた旋律と歌詞です。
──もうだいぶ前のように感じちゃいますけど、まだ最近のことですよね。
鈴華 はい。本当に「この先どうなっちゃうんだろう」ってそのときは思いましたので。当時は1コーラスしかなかったんですが、2番以降を作ったことにより、コロナ禍だけの印象の曲ではなくなっていきましたね。
──「百年夜行」は、以前に杵屋七三社中(きねいえなみしゃちゅう)with 鈴華ゆう子としてもカバーされていました。今回のカバーはロックテイストで、ぽりふぉさんの原曲に近いですね。
鈴華 私がメジャーレーベルからリリースしたのって、実はこの曲が初だったんですよね。そのときのバージョンは和楽器だけに乗せて編曲されたものだったんですが、私のファンの中では、この「百年夜行」を原曲っぽくやってほしいという声が、もともとすごく多くて。それに応えるのは何となく和楽器バンドじゃなくてソロのほうだし、“ロックテイスト+和”で出すのには一番良いタイミングだなと。今この曲は私が舞扇子でちょっと踊りをレクチャーして、皆さんもグッズの舞扇子を広げて楽しむ定番曲になっています。
──歌唱として難しいところや聴きどころは?
鈴華 歌い方ひとつで、ちょっと古っぽくなる可能性がある曲ではあるので、コブシを利かせ過ぎても演歌調に聴こえちゃうと思うんですね。ギターロックであり、さらに旋律の運びがそういった特徴がある曲だし、歌詞もすごく和テイストなので、コテコテにし過ぎると若干“そういう系が好きな人しか聴かない食わず嫌いな曲”になりがちなので、しっかり和風に歌うんだけど、頭ノリになってしまうと重たい感じになってしまうから、常に裏拍を感じながら軽快で裏のノリを忘れないように気をつけて歌っている気がします。
──次は「甲賀忍法帖(Cover)」です。これは陰陽座による名曲のカバーですが、楽曲を自分のテイストに落とし込んでいく上で意識したことや、あえて原曲をリスペクトした部分を教えてください。
鈴華 原曲、そして(ヴォーカルの)黒猫さんの歌い方をとてもリスペクトしていて、自由に歌ったというよりは、細かく分析して歌い方にも気をつかってレコーディングしました。黒猫さんのクセについて「ここは崩していいけど、ここはきっとファンがすごく好きだから、ちゃんと尊重して、同じように歌ったほうがいいな」とか。
──もっと自由にできるカバー曲があるとするならば、それとはかなり感覚が違いますか?
鈴華 違いますね。ボーカロイドをカバーするのとはわけが違ったし。黒猫さんは、もともと人気で、同じ女性ヴォーカルで、同じ和風でやられているので、ヘタすると原曲ファンの方にも「なんだこれ」って失礼をかましてしまうので、すごく気を使っていて。「私自身が本当にこの曲が好きなんです」っていう気持ちの上で大切にカバーさせていただいてることを、歌い方でも出すべきだと思っていました。例えば《水の様に優しく》って、この《しく》のところで裏(声)を持ってくるのか、裏声を使わずに歌うのかって、どっちでも行けるけれども「黒猫さんの歌い方をここは踏襲したほうがいい」とか、裏声から地声に戻すタイミングなどを、けっこう細かく検証しまくっています。
──聴き比べをもっと真剣にやらなきゃいけないですね、これは(笑)。
鈴華 けっこう似ているところも多いと思うんですが、「ここはきっとファンは好きだから、違うことをやられたくないだろうな」っていうのは、(自分が楽曲を)好きだからわかるっていう。《殲》って掛け声が入るところの言い方も、タイミングやボリュームにめっちゃこだわりました。あとは《震える刃で貫いて》の《つ(らぬいて)》の言い方は《つらぬいて》って普通にも言えるし、《つらぬいてーーー》ともできるんですけど、《て》まで言ってしまえば、そこに節調を入れても害はなく私らしくなるなと思って、「ここだ!」って決めて《つらぬいて〜〜〜》と入れるとか。こだわって細かくやって動画に投稿したら、和楽器バンドのファンも、陰陽座さんのファンも、みんながすごく喜んでくださって。なので、配信する予定もなかったんですが、今回はアルバムに入れるのもありだなと思って、許諾を取らせていただきました。
──「これまで何でなかったんだろう」ってコメントもありましたし、親和性が高いカバーでしたね。
鈴華 「ずっと待ってました」っていう人もいたし、確かにすごくリクエストされていた曲なんです。









