取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
和×メタル”の曲は絶対にアルバムに入れようと思っていた
──続いて2曲目が「ケサラバサラ」ですね。こちらは“和×ダンスミュージック”で、作曲が小高光太郎さんとUiNAさん、歌詞が鈴華さんとUiNAさんの共作クレジットです。
鈴華 ソロで最初のシングル曲だったんですけど、作曲面において私は好きな方向性が明確で自分のクセが出がちなんです。そこを別の人にやってもらいたいというコンセプトがありました。これは曲先ではあるんですけれども、たくさん曲を書いてくださった中で、これが良いんじゃないかっていうところでハマった曲ですね。忍者がテーマの子供向けアニメのタイアップ曲なので、子供たちも楽しく口ずさめるような、わかりやすさは重視しています。
──歌詞の面でゲームやアニメのストーリーからインスパイアされた部分はあるのですか?
鈴華 それは忍者というテーマのみかな。もちろん私は原作の内容を絶対に観るので。もともと先祖に忍者がいる子たちが活躍するようなお話なので、そういった要素はこの歌詞の中にも《受け継ぐ我が一族》とか、そういったところに入れているんですけど、ただメインが“くノ一”っていうところは、私らしくちょっと変えている部分ですね。
──ミュージックビデオでは「くノ一ダンサーズ」とともに、見事なダンスを披露されています。
鈴華 うまくはないけど高校生ぐらいからちょこちょこ趣味でダンスをやっていて、ライブの中では踊ったりしていたんですよね。バンドだとカット割りなどを考えて他のメンバーも見せなきゃいけないから、作品として出す隙がなかったのですが、今回は自分のソロということで、今までやっても良かったけどやらなかったことも取り入れてみようと思って、くノ一集団を結成しました(笑)。
──次は「Incubation」ですね。日本語に訳すると、「孵化」とか「潜伏」とか、いろんな意味がある言葉ですが、曲中には具体的な言葉として出てきません。このタイトルに込められた意味は?
鈴華 本当は思いっきり物申したいんだけど、「まぁいっか」とグッと我慢しているような生き方をしている人たちって大勢いると思っているんですけど、そこに対して自分が武将となって先陣を切り「お前らついてこい!」と号令を掛けるような気持ちの曲にしたいなと。大きく政治って見る人もいれば、会社の上司と部下って見ることもできるし、身近なものから広いものとしても捉えられると思うんですけど、ここでは明確にあえて言葉にしていない部分もあるけど、そういう“閉じこもったものから解き放つ”とう意味で、この「Incubation」というタイトルになりました。
──Aメロの念仏のような早口低音ボイスがカッコいいですよね。女性でこういった音域も含めて歌い方が苦手だという方は多いと思うんです。鈴華さんが意識している部分とか、カッコ良く歌うためのコツを教えてもらえませんでしょうか。
鈴華 唄を歌おうって思うだけではなく、“ちょっと役者になって演技してみよう”みたいな感覚で殻を破ることって、絶対ヴォーカリストもやったほうが良いと思っていて。例えば「まるでお経を唱えているお坊さんになった気持ちでやってみて」と言ったときに、けっこう恥ずかしがってやらなかったりする人が多いんですよ。まずその殻を破ってモノマネして、いろんな声を出してみる。歌舞伎だったら(歌舞伎風に声を出しながらAメロを歌い)こういう歌い方もやるかもしれない。いろんな自分の声のカラーを楽しんで、“あ、こんな声も出せるんだ”と思ったら、それを自分の楽曲に取り入れたりしたらいいのかなと。ちなみに、これに関してはまさにお経や念仏のような、そんな印象をヘヴィメタルの中に入れたかったんです。“和×メタル”の曲は絶対にアルバムに入れようと思っていたし、このアプローチはメタルの中でやりたかったので、低音ボイスからスタートしました。
──《手向けや花》など、Aメロ最後の部分にはファルセットで違う世界から声をかぶせてくるような、器楽的な歌声の使い方も印象的だと思いました。
鈴華 ここは歌い方によって感情をそのまま表現している印象ですね。わりとそれまでの念仏みたいに「あいつマジでムカつくんだけど」みたいなときもあれば、ちょっと作り笑顔してみたり、《この世の〜》って優しい感じの面も見せつつ……だけど、結果「そうじゃないだろう、言ってやれ!」と(サビの)《上等!》が始まる、みたいな(笑)。歌詞そのままの感情表現を声でやっています。サビのこの《上等!》を効かせるために、その二面性を見せたかったんです。《この世の〜》って、優しいのかな〜と思いきや……みたいな(笑)。
──ガナリがグッと入る部分も含めて、ヴォーカルの聴きどころ満載です。
鈴華 《上等!》って言ったら気持ちいいので、ぜひみんなにも言ってほしいです!
──確かに人生で一度は使ってみたい言葉ですよね、「上等だ!」って(笑)。
鈴華 「喝を入れるなら何とか乗り越えられる苦しみもあるかな」って思ってるくらいなら、先頭切って私が行くから「みんな行くぞ、限界突破!」みたいな気持ちです。
──あとこの曲、三味線の出すビートが本当にカッコいいですよね。
鈴華 ですよね。私がめっちゃ信頼している三味線奏者で、ライブでも度々出てきてくれている匹田大智くんは、津軽三味線で日本一を獲っているめちゃくちゃ上手な若手三味線奏者なんです。このリフは最終的に使用したギターっぽいパターンと、ガッツリ“じょんがら”で行く2種類のパターンを用意してくれていて。どっちもカッコよかったので、すごく悩んだんですけど、この曲に関しては今回選んだほうがグッとくるかなって。実はこれバンドメンバーにもちょっと聴かせて、「どっちが好きだった?」とかやりました(笑)。
──続いて「泥棒猫」ですね。こちらはジャズをベースにして……。
鈴華 ちょっとR&Bも入ってます。
──さらに艶のある歌詞も相まって、アルバム内でも異質な魅力を放っています。こちらの作曲はピアノを弾きながらですか?
鈴華 最初はピアノでしたね。実はこの曲を作ったのはけっこう前なんですよ。表にはあまり出してこなかった曲ですが、ビルボードでのライブのときだけよく歌うようになっていました。音源化をまだしていなかったので、もう少し和に昇華して出してみようかなと思って。実はこれね、ピアノと津軽三味線も全部鳴っていて、そういう形で出したんですけれども。こういうセクシーな歌詞はけっこう前に書いていたんですね(笑)。
──中盤にスキャットが入ってきますし、全体に息多めの歌い方をされています。
鈴華 艶感を出すためには、わりと広めに喉を開いた感じの声を使いますし、曲ごとによって使っている喉の位置が違いますね。逆に「ミトコンドリア」や「パピヨン」みたいな曲では、けっこう(喉を)締めた声で歌っているし。「泥棒猫」だったら《♪愛し合う》の部分では喉を開いて歌うことで、誘惑するときに近い声を意識して歌ってると思います。《♪蜂の巣の穴》と歌うところなんかも、喉を閉じると若い子が“悪戯したい”みたいな印象にもなると思うんですが、大人っぽい艶のある雰囲気のほうがいいなと思ったら、(喉を開いて)《♪蜂の巣の穴》となる。自然とそういう歌い方をしたくなる感覚を大事にして歌っています。
──なるほど。歌ってもらうと差がすごくわかりやすいのですが、文字で伝えるのが難しい(笑)。
鈴華 YouTubeにしたほうがいいですね(笑)。でも、どっちも正解じゃないですか。声優さんになったような気持ちになって、どういうキャラクターで歌いたいか?っていうところですよね。









