
【インタビュー】Little Black Dress 歌謡ロックをベースにさまざまな表情を見せるメジャー1stアルバム、『AVANTGARDE』を語る!(撮り下ろしグラフ多数)
2025.07.29
取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
撮影:松井伴実

本当に頭を空っぽにするって座禅くらい難しいです(笑)
──続いては「十人十色」です。都会のクールな夜を描くようなシティポップ調の曲ですが、こちらもデモの段階で近いものができていましたか?
LBD いえ、ここまでのオリエンタルというか異国感はなかったですね。もともと弾き語りで高校生のときに書いていたので。グルーヴ感とかはガラっと変わってますね。
──これが高校時代の曲だったんですか……大人っぽい(笑)。アルバムを順番に聴いてくると、歌唱的にもここで裏声とかミックスの成分が目立つパートが多く出てきます。こういう洋楽的な歌い方では誰かの影響がありますか?
LBD これは……ないです。ないって言い切りたいぐらい、本当に洋楽的なリズム感が苦手で(笑)。この曲を歌うときも英語を話せるスタッフさんに来てもらいました。サビはもともと英語だったんですけど、メロディを日本語の感覚で作っているので、やっぱちょっと日本語リズムな英語なんですよね。そこと発音の勢いを合わせるのが大変で、これはすごい難しいことをやってしまった……っていう感じでした(笑)。でも、シティポップのコンセプトアルバムを作ったからか、そういうリズムのとり方をボイトレの先生にレッスンしていただいたりしていたので、今まで以上に気持ち良くレコーディングは歌えています。ちょっと高校時代の声の出し方を思い出しながら歌ってみました(笑)。
──続いては、「メッチャいいじゃん!」ですね。ガレージ調のロックサウンドで、掛け合いも含めてライブでの盛り上がりが浮かぶような楽曲です。Aメロでは平成・令和っぽい歌い方をしていますね。あえてされていると思うんですけど、さっき言ってた“何も考えないで空っぽになって”というのは、この曲のことですか?
LBD そうです。
──あえて“何も考えないで作る”っていうのも、それはそれで難しいことですよね(笑)。
LBD 本当に頭を空っぽにするって座禅ぐらい難しいです(笑)。 この曲はプリプロの段階になっても歌詞が全然出てこなくて。もうヤケクソになって靴脱いでソファーに体育座りして、なんか日記みたいなのを書こう!と頭の中を真っ白にして書きました。私、井上陽水さんが好きなんですけど、陽水さんって……ちょっとジャンキーな感じのフレーズもあるじゃないですか(笑)。
──PUFFYの「アジアの純真」みたいな(笑)。
LBD そうです。あの時代の真似はもちろんできないんだけど、あの空っぽさ(笑)? 本当はすごく考えてるんでしょうけど、「いま頭に浮かんできたものを、ただ書きました」みたいな。そういう感覚にしたいと思っていて、このAメロのメロディラインとかも寝起き5分ぐらいで作ったんです(笑)。
──頭に空気が回らないうちに書きたい(笑)?
LBD そうそう。頭の回転がないうちに書いてしまおうって(笑)。
──6曲目が「チクショー飛行」で、こちらは遼さんの単独アレンジとなっています。70年代の洋楽ロックみたいなレンジの狭い、良い意味でいなたい鼻詰まり感があるギターサウンドが特徴的ですが、その辺は目指したところですか?
LBD この曲を作った当時、一緒にライブをやっていたギタリストの方がマイケル・シェンカーが好きで。私もたまたま(シェンカーの代名詞である)フライングVを手に入れたので、その方にこの曲をVで弾いてもらっていたんですよ。そうすると自然と演奏スタイルやフレーズがマイケル・シェンカー・グループになっていくじゃないですか(笑)。最初はもっといなたかったんですけど、私がMUSEとか、ちょっと打ち込みの要素が入ってるロックも好きなので、そういう要素を入れつつ、突き進む感じの曲を作りました。
──サビの頭に《チクショー》って言葉が入っているんですけど、これが「もとの英語を日本語に無理くり当てはめた」風の、日本の音楽にしかない独特の感じですごく良いのですが、そういう解釈で合ってますか?
LBD 合ってます(笑)。
──《Tik Show!》が《チクショー!》みたいな。
LBD そうです、そうです。そういう感覚です。この曲はアコギを弾きながらサビから作っていったんですけど、コード進行に合わせて歌詞とメロディがスッと一緒に出てきた感じでした。
──《チクショー》の直後はハイトーンで、たぶんこのアルバムの中でも地声では最も高い音だと思います。音程的にはどのぐらいですか?
LBD え〜、どのぐらいの音なんでしょうね。でも曲の中でめちゃくちゃ低いところがあるので、(この高い音が)すごいスッキリする(笑)。ホント、「Little Black Dressの曲はカラオケで歌いたくない」って言われるんです……難し過ぎるって(笑)。
──ここはまだ地声で余裕を持って出せるところですか?
LBD はい。地声で出したくて、このキーにしました。
──ここをミックスに持っていってしまうと……?
LBD やっぱり迫力がね……。
──そうですよね。そして最後の曲が「猫じゃらし」です。ラストはとても切ない“バラッド”だなと感じました。“バラード”じゃなくて、“バラッド”ってイメージです(笑)。可愛げなタイトルからちょっと想像できないエモいラブソングだなと。
LBD けっこうね、この曲、意外と男性ファンが多いんですよ(笑)。
──わかります(笑)。ピアノをバックにした息多めの囁き混じりの声から、徐々に地声が強くなってくる歌唱ですが、ここで表現したかったのはどういったことでしょうか?
LBD ちあきなおみさんに影響を受けて、以前に「心に棲む鬼」っていう曲を出したことがあって。もう本当におどろおどろしい女性の情念を歌った曲なんです。それは提供していただいた曲だったのですが、そこまでも行かず、シンガーソングライターとしてのおどろおどろしさを出すっていう、良い具合のところを探りながらの制作でした。曲自体がすごく重厚感があるので、ちょっと鼻にかかったような喉を細めた歌い方で、可愛らしさを最初らへんで出したりしてみました。
──そこからどんどん変化していくわけですね。
LBD そうですね、だんだん声を使う筋肉を下ろしていく感じ(笑)。
──最後はもう身体全体から音が発しているような声になっていくと。
LBD そうです。
──これで全7曲ですね、ありがとうございます。それでは、最後に読者の方へアルバムのアピールをしていただけますでしょうか。
LBD 物作りにおいて、いろんな芸術家の方に勇気をいただいて、それを皆さんに届けられたらっていう気持ちで力を込めて作りました。軽い気持ちでまずはピピピピッと引っ掛かったものを聴いていただいて、シュッとピッと押していただきたいです(笑)。