
【インタビュー】Little Black Dress 歌謡ロックをベースにさまざまな表情を見せるメジャー1stアルバム、『AVANTGARDE』を語る!(撮り下ろしグラフ多数)
2025.07.29
取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
撮影:松井伴実
シンガーソングライター、遼のソロ・プロジェクト、Little Black Dressのメジャー1stアルバム『AVANTGARDE』が7月23日にリリースされた。
歌謡ロックというジャンルを追求する彼女の“これまでとこれから”が詰まった7曲は全作詞・作曲を自身が担当。
さらに笹路正徳、曽我淳一、宮永治郎、塚田耕司という豪華なアレンジャーを迎えて制作された。
幼い頃から習っていたミュージカル仕込みの表現力と、路上ライブで培った圧倒的な声量は、聴く者をLittle Black Dressの世界観へと引きずり込んでいくことだろう。
Vocal Magazine Web初登場ということで、歌唱にまつわるルーツとアルバム全曲に関するヴォーカル表現を中心に話を聞いてみた。
愛器を手にしたクールな撮り下ろしグラフとともに楽しんでほしい。

ちあきなおみさんの存在にかなり影響を受けています
──ご家族の影響もあって小さい頃から昭和歌謡に惹かれていたそうですが、その中で特別だった人や歌はありますか?
Little Black Dress(以下:LBD) 家族が聴いていた中で印象に残っている曲は、寺尾 聰さんの「ルビーの指環」です。歌というところから少し離れてしまいますが、宝石(ルビー)とか、枯葉とか、車の窓から外を眺めながら聴いていると景色が浮かんできたんです。歌詞の世界観を絵本みたいに頭に浮かべて楽しんでいましたね。今ももちろん大好きで、ヴォーカルをユニゾンで重ねて表現するところや、唯一無二のリズム感、そして真似のできない気だるいヴォーカルなど魅力がいっぱいです。
──他にはどなたかいますか?
LBD シンガーとしては、“元祖憑依型”と言っても過言ではない、ちあきなおみさんの存在にかなり影響を受けています。私はもともとミュージカルを習っていて、ただ歌うよりも表現することが好きだったので、ちあきなおみさんは、“ミュージカルじゃなくても、このぐらいやっちゃっていいんだ。シンガーでもこんなに体現できてしまうんだ”と衝撃を受けた方ですね。
──高校時代にギターを弾き始めたそうですが、当時はどんな楽曲を歌っていましたか?
LBD わりと等身大というか、その頃に周りの友達も聴いていたmiwaさんやYUIさんの音楽などをアコギの弾き語りでカバーしていました。いわゆる“ギター女子”が出てきた時代だったんです。
──地元の岡山で路上ライブもやっていたそうですね。そこへ踏み出せたっていうのはどんな気持ちだったんですか?
LBD いきなりライブハウスでやろうとしても、“まず、お客さん来ないよね?”と思って、お客さんを集めるために始めました。最初はオリジナル曲もなくてカバーばかりだったので、お客さんの層を見ながらJポップだけでなく「ルビーの指環」などもやってましたね。路上ライブをやるのは駅の地下道など周りの音がうるさい場所が多くて、そこで声を届けようとしていたら、めちゃくちゃ声量が鍛えられました(笑)。また、“こんなに集まっていただけるんだな”って実感しやすい場じゃないですか。だから、すごく自信に繋がりましたね。
──ミュージカルを習っていた時期も含め、ボイストレーニングは、どのくらいの期間やっていましたか?
LBD ミュージカルは4歳から小学3年生くらいまで習っていて、その後は中学に上がる頃まで宝塚歌劇団とか劇団四季の方を輩出しているボイストレーナーの方に個人レッスンを受けていました。私も宝塚歌劇団を目指していましたね。
──ボイトレのスタイルとしてはJ-POPをやる感じではなかったんですか?
LBD 当時はミュージカルの曲が多かったですし、台詞も含めた表現も伴ってくる部分はありました。先生が好きな山口百恵さんの「いい日旅立ち」をミュージカル風の声の出し方で習ったりしていましたね。
──チェストボイスが鍛えられたのは、そのあたりなのでしょうね。
LBD そうですね。なるべく丹田を意識して力を入れて歌うような基礎は身に付いていました。ギターを背負っていると、けっこう肩に力が入ってしまい胸のほうで歌いがちになるんですけど、それでもドーンと腹式で歌えたのは、そのおかげです。でも、ギターを弾きながらだとバランスを取るのが難しくて。そこで編み出したのが、“ピンヒールを履いて歌う”ことだったんです。
──おお、どういう部分で効果が出るんですか?
LBD (ピンヒールを履いてギターを弾きながら歌うと)重心が前に行きやすいので、そこで仁王立ちをして腹筋に力を入れやすくするとか、体幹に力を入れやすくするっていうので、私式の“ピンヒール仁王立ちスタイル”みたいものができました(笑)。
──ボイトレでは、ヘッドボイス(裏声)とかミックスボイスについても勉強しました?
LBD ひと通りやりました。私、学生時代に「けっこうミックスボイスだね」って言われることが多くて、それが自分の中でけっこう……嫌だったんですよ。もっと太さが欲しい、力強さが欲しいと思っていました。声量についても自然に出てるっていうよりは、若さゆえのパワーで押し切っているような、そういう期間もありましたし、自分の声にちょっとコンプレックスがあったんですよね。
──そうなんですか? 一般論ではありますけど、遼さんのように背の高い方は声帯も長い方が多く、声が低い人が多いですよね。ご自身の声をどう感じてたんですか?
LBD 声は高いほうでした。以前は今よりもっと高くて、ボイトレの先生には「話し声のときに口周りや舌の筋肉をあまり使ってない」って言われていたんです……舌ったらず(笑)? 歌い始めた学生の頃は、その高い声があまり力強さを感じないなと思ってました。だから上京してデビューするときに、力強さが欲しくてお腹に力を入れたような野太いロックの曲を書いて出していたんです。でも、1回目のメジャーデビューのときに川谷絵音さんにプロデュースしていただいた曲が、すごく裏声を使うような楽曲で、プロデューサーに「遼の声の良さっていうのはここだよ」って言われて。“ええ!? 自分があんまり好きじゃないところが魅力って言われちゃった”と思って、そこからいろんな声の出し方を研究するようになりました。
──曲作りはどういうスタイルが多いですか?
LBD 最初の頃はギターの弾き語り一本でした。iPhoneのボイスレコーダーに録音していましたけど、今はパソコンのデスクトップで作業しています。ギターとヴォーカルを入れて、リズムパターンやベースパターンも打ち込んだデモを作り、アレンジャーさんに「こういうイメージで作りたいです」って渡すことが多いですね。