【インタビュー前編】RYUICHI(LUNA SEA)、セルフカヴァーアルバム『MOTHER』と『STYLE』を語る。“「新しい作品」として自分たちも心の中に置ける”

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)ライヴ写真:上溝恭香

11月29日に2枚のセルフカヴァーアルバム『MOTHER』と『STYLE』を同時リリースしたLUNA SEA。『MOTHER』は1994年に発表された作品で、代表曲「ROSIER」や「TRUE BLUE」が収録された、それまでのファンのみならず一般リスナーにバンドの存在を知らしめたアルバム。『STYLE』は1996年リリースで、「DESIRE」や「IN SILENCE」などが収められ、名実ともにLUNA SEAをメジャーシーンのトップに押し上げた作品だ。

今回、Vocal Magazine Webに待望の初登場となるRYUICHIのインタビューは、2枚のアルバムをリリースした当時のツアーを現代に再現する『LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023』の真っ最中に行なわれた。

前編となる今回は、名作のセルフカヴァーアルバムのレコーディングに於ける、ヴォーカリストならではの細かなニュアンスの話を聞くことができた。また、後日公開の後編では、声帯にできた静脈瘤の除去手術や術後のリハビリの様子、喉のケアなどをお届けする予定なので、そちらも楽しみにしておいてほしい。

「過去なんだけど未来を感じる作品」になりました。

──2010年のREBOOT後、1stアルバム『LUNA SEA』のセルフカヴァーをリリースされました。そのときはオリジナルのアレンジをほぼ変えず、2010年当時のバンドの解釈、技術で再レコーディングをしたということでしたが、今回もその考えは基本的に踏襲されたのですか?

RYUICHI そう思います。LUNA SEAの場合は5人のバンド名義で作詞、作曲、アレンジしていますが、原曲を一番初めに持ってきた人間というのがいまして、今回もその人を中心に作ろうってミーティングをしました。その人がリアレンジをしたい場合は、「こういうアレンジはどうか?」と提案をしてもらいます。歌で言えば例えばコーラスワークだとか、楽器で言うと弦の違うラインを入れたいとか。それ以外に関しては、過去を否定するというよりは過去より推し進める、現代のLUNA SEAがその楽曲をやったときに、リリースからの約30年間でどう成長したのかということも含めて、現代の音で録りたいよねっていうのがやっぱり中心にありましたね。

──今回リリースした『MOTHER』と『STYLE』は、一般リスナーにLUNA SEAの存在を知らしめた代表作です。今聴いてもほぼ変える必要がないのでは?というぐらいの完成度の作品だと感じるんですが。

RYUICHI なぜセルフカヴァーをしたか?という話になると、やっぱりライヴが先行して決まっていくっていうのがあって。個人的にはバンドの宿命として、バンドを知らしめたアルバムの楽曲というのは、当然このあとも10年、20年と歌い継いでいくことがすごく大事だと思うんです。例えばポール・マッカートニーやザ・ローリング・ストーンズが来日公演をするとき、絶対に聴きたい曲ってあるじゃないですか、「それは外さないで」みたいな(笑)。だって次は何年後に日本へ来るかわからないし、もしかすると最後かもしれない。そういう意味でもLUNA SEAのこの2枚に入っている楽曲たちは、ファンにとって「絶対に聴きたい楽曲」が詰まっていると思うんですよね。でも、これが旧譜のままっていうのと、新録されて現在のLUNA SEAがやるってなると、やっぱり「新しい作品」として自分たちも心の中に置ける。個人的には、そういう想いがすごく強かったんですよ。

実際に新録してみると、やっぱり「過去なんだけど未来を感じる作品」になりました。それは、この『LUNA SEA DUAL ARENA TOUR 2023』が終わったあとも、LUNA SEAがライヴ活動を続ける限り、この楽曲たちをこれからも演奏し続けていく。例えば「ROSIER」とかやっていくわけですからね。そういう面でも、すごく意味のある新録になったなと思っています。

──聴き比べてみると、本当にどちらもいいなと感じます。同時に30年前のLUNA SEAは、当時のメンバーの年齢などを考えると、めちゃくちゃうまいバンドだったことを再認識させられました。

RYUICHI 新録するにあたって、当時「どうやっていたんだ?」ということが解剖されていくわけです。「アナログレコーダー使ってたね」、「ギターはこうだったね、アンプはこうだったね」とか。「ヴォーカルのHA(ヘッドアンプ)はこうで、マイクはこうだった」みたいなことが、いろいろわかっていく中で、SUGIZOがある曲で「RYU、これさぁ、よく歌えてたね」と言うんです。「なんで?」と返したら「テンションがちょっと当たってるんだよね」って。SUGIZOはメンバーの中で一番音楽的な素養がある人間で、ご両親もクラシック畑の人だし子供の頃からバイオリンをやっていて、譜面や教科書的な音楽という「ルール」という意味では一番熟知している人。

でも、「そのコードの中にあるテンションの響きの中で、仮にその(メロディの)音が一度で当たっても関係ない。ロックだし、カッコいいし」となったときに、大人たちじゃ作れない音楽を我々は生んでたんじゃないか。当時の「いや、こっちのほうがカッコいいじゃん」っていう、その……若者って言うと変だけど(笑)、30年前の発想が型破りだったがために、このバンドの魅力がすごく高かったんじゃないかなと、僕ちょっと思ったんですよね。僕らは演奏していて昔の楽曲は新しく感じるんです。「いびつ」だったかもしれないけど、世の中にない音楽は作ってたんじゃないかってところに立ち返りましたよね。

──セルフカヴァーの『LUNA SEA』リリース時に、SUGIZOさん、INORANさん、Jさん、真矢さんそれぞれに話を聞いたんですが、オリジナルと今では同じフレーズでもリズムの解釈、間の取り方が違うという話が出ました。その点に関しては、RYUICHIさんはどう感じますか?

RYUICHI 真矢くんも言ってたんですけど、「グルーヴとは何か?」って問いには、たくさんの意見があると思うんです。レジェンドバンド……例えばストーンズで仮にメンバーがちょっと代わるとして、ギャラの高い凄腕ミュージシャンを世界中から「はい、今日集まってください」と呼んでパッとやっても、そのバンド独特のグルーヴは出ないっていうのは、よくあるような気がするんですよね。

LUNA SEAはずっと真矢くんのドラムを聴いてメンバーは演奏してたし僕も歌ってた。その真矢くんに対してJがベースでどう絡んでるか……。これはどっちが卵でどっちがニワトリかみたいな話でわからないけど、結局そういうグルーヴを聴きながら開拓されていくわけじゃないですか、自分たちの音楽センスとかグルーヴに対する価値観だったりが。世界中を見回したら僕らよりうまいアーティストなんて死ぬほどいるかもしれないけど、やっぱり35年とかやってきたアーティストだからこそ出せるキメの重厚感というか、本当に「ドン、ドン、ドン、シャーン」というときの決まり感が、「このバンドじゃなきゃ出ないんだよね」っていうのは、かなり感じますね。そこも含めて、例えば真矢くんのスネアの2拍4拍で入ってくるタイミングに対して、みんながどういうアプローチで、どういう風に寄り添っているのかっていうのは、そこに育てられているから、何かピタッと合っちゃうのかもしれないですよね。

アナログレコーダーの時代からデジタルのProToolsに変わって、波形上でピッタリとタイミングを合わせることなんて、いくらでもできるわけです。ところがロックの場合は、その波形のグリッドを全部合わせると「しょぼくなる」っていうのがあって。たぶん往年のレジェンドバンドも、良い意味で若干の揺らぎがそこにあるんだと思うんですよ、バーン!って決まる瞬間のね。だから音が複雑に聴こえたり破壊力を持っている。それがキーボードでグリッド通りに打ち込んだ音っていうのは、どうしても縦軸がピッタリ合うんで打ち消し合っちゃうっていうか、ちょっとフェーズ感があるというかね。LUNA SEAにしかないグルーヴっていうのは、必死にやってただけなんだけど、何十年っていう重みがそこにあるのかもしれないですね。

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