【インタビュー】Daoko、自身初のバンド、QUBITの1st AL『9BIT』を語る。“機械と人間の狭間”で挑んだ楽器的解釈のヴォーカルスタイルとは?

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)

自分の声がこれで良かったなって、父と母に感謝してます。

──当初はウィスパーヴォイスとラップが特徴的だったDaokoさんですが、現在は本当にさまざまな発声で歌われている印象です。それは、歌唱力のアップで楽曲の幅が広がっていったのか、作曲者として自分が求める表現が膨らんで、それを歌うために練習をする、みたいな部分ではどちらが近いイメージですか?

Daoko 順序的にはボイトレとか普段の生活で歌唱力が段々向上していって、それに付随して表現力っていうものが広がっていったような感じはしますね。自分の歌も精神と筋肉のバランスというか、直接的にフィジカルとメンタルが“つうつう”だと思うんです。初期の歌などはやり方を知らないっていうのもありますし、意識してやろうと思ってもできなかったこともあって、表現の幅的には今ほどではなかったですから。

今年で歌を始めて11年目くらいなんですけど、やればやるほど音楽のことが好きになっていっている感覚があるので、音楽のために自分の歌を使いたいっていう気持ちはありますね。これはソロとバンド両方に共通していることですけど。

──Daokoさんは、“さあみんな、私の歌を聴いて!”みたいな、“ザ・シンガー”なタイプではなく、トラックの中に溶け込み、いかに楽曲に馴染むかを大事にするヴォーカリストのように感じています。

Daoko ひとつの音楽として、曲としていいなと思ってもらえることを目的としている感じがありますね。歌は作品の一部で、声もひとつの楽器だという認識です。特にここ最近の話ですけど、自分の声がシンセなり、何か楽器的な存在になって曲をバックアップするっていう感覚ではあるので、確かにそう考えると後者かもしれないですね。

──そのためにレコーディングで何パターンも歌い方を試したり、エフェクトの検討に時間をかけたりされますか?

Daoko それはあんまりないかもしれないですね。というのも、私の場合はレコーディング前に家で仮歌を録るっていうフローがあるんです。そこで「イメージと違う歌い方だったらおっしゃってください」みたいに一緒に制作される方と事前にやり取りをさせていただいて、「もうちょっとこういう歌い方がいいんじゃない?」みたいな案が出てくれば、それで歌ってみて。(仮歌の方向で)良ければそのまま進むし、お互い音楽的に気になることがあれば、こっちも調整していく感じですかね。

──なるほど。本番のときにはほぼ決まった状態で入ることが多いんですね。

Daoko そうですね。「これで録音しましょう」って言ったときのデモの声の感じを基にしつつ、そこからヴォーカルディレクションしてくださる方がいるときは、そのリクエストに応えつつ「ちょっと自由にやってみよう」とか、「ちょっと大人っぽい感じで」みたいなところは臨機応変に一回トライしてみるって感じですね。

──レコーディング時のこだわりやルーティンなどはありますか?

Daoko 前日なるべく深酒をしない、睡眠をしっかりとるっていうフィジカル面は、もちろん健康管理として当たり前に意識はしています。さらにレコーディングする前に30分から1時間くらいストレッチの時間をいただいて身体を動かしたり、ボイストレーニングの先生から教わった声のストレッチ的なものをしていきますね。

あとはスロートコートっていう、喉に良いハーブティーを水筒に入れて飲みつつ、10年くらい愛用している京都念慈菴のシロップを舐めています。このふたつはけっこうマストで、ライブ前とレコーディング時には必ず持ち込むようにしていますね。

──ヴォーカルの録音ブースで見る歌詞カードへは書き込むほうですか?

Daoko 私は絵を描くのが好きなので、もともと音楽をやる前は絵の仕事に就きたいと思ってたんです。だからレコーディングのときの歌詞の紙に落書きというか、女の子の絵をよく描いていて……曲の妖精っていうか見守ってもらう、みたいなのはちょくちょくやってますね。全曲ではやってないですけど(笑)。

もちろん歌いながら「あ、ここもうちょっと、こうだな」みたいなところは普通にメモを取ったりするので、歌詞カードは最終的にけっこう賑やかになってます。どういうレコーディングブースでも、なるべく自分がリラックスできる空間を作ったほうが声も伸び伸びとしていいかなと思って、そういうことをしてるのかもしれないですね(笑)。

──マイクは指定されていたりしますか?

Daoko 私はけっこういろんな方といろんなジャンルの音楽をやるので、基本的にはエンジニアさんにお任せしています。ただ、現場で何個かマイクを試し、聴き比べて「これにしよう」っていうのはやったりしますね。こちらから指定したことはないですけど、気に入ったマイクが見つかったらやってみたいことのひとつかもしれないです。

──「このマイクが良かったな」と覚えて帰ることは?

Daoko メジャーのときに使っていたノイマンのすごく良いマイク……型番とかわからないんですけど、そのマイクがあると「あ、いつものやつだ」っていう気持ちにはなったりしますね。マイクによってもだいぶ(録る声は)変わってくると思うんですけど、あくまで音楽の一部と思っているので。「あ、今回はこういう感じで自分の声は録れたんだな」って。わりとそこは柔軟に感じてますね。

──2019年からは個人事務所とレーベル「てふてふ」を立ち上げました。自分のレーベルでやってみたいこと、将来的に考えていることはありますか?

Daoko もちろん新しくバンドのヴォーカリストとして参加する、QUBITとしても頑張りたいことがたくさんあるんですけど、ソロアルバムがもう4年も出てないのかっていう感じなので……。ずっと稼働はしてたんですけどね(笑)。よりアクティブに来年はアルバムを出したり、音源をコンスタントにリリースして、ソロのライブもちょっとこだわっていきたいなと思います。

また、海外での活動機会も増やしていけたらいいなっていうのはあります。もちろん日本の方も聴いてくださっているんですけど、海外のファンの方々が総数的に多くて。もっと海外の方とのコミュニケーションを取っていきたいっていうのと、海外のアーティストさんともコラボしたいです。

ほかにも“ヲコダヲコ”っていう、子供と大人が楽しめるプロジェクトもあります。そういうワークショップ的なこともやりつつ。思いつく限りのことは、すべてやっていきたいなと思ってますね。

──ソロで言うと、11月1日に配信シングル「Allure of the Dark」がリリースされたばかりです。HIDEAKI KOJIMAさん作曲で、美しく荘厳な楽曲ですね。

Daoko この楽曲はRPGゲーム『メメントモリ』の主人公、イリアというキャラクターのテーマソング(ラメント)の楽曲制作の第2弾です。『メメントモリ』がローンチされたときにも、QUBITで一緒にやっている網守将平さんとイリアの曲を作ったんですけど、今回はそれこそゲームの世界観もあるしキャラクターも実際いるので「このキャラクターに似合う、この世界に似合う楽曲を作ろう」っていう、作品の一部として何かお力添えできる感じになればいいなという願いを込めながら、けっこう寄り添って作りましたね。

──ヴォーカリストとしては、どんな部分を意識して歌いましたか?

Daoko ゲームのストーリーも加味して、歌うときにイメージしていたのは、“ちょっと寂しげなだけど力強いエネルギーを秘めている少女”ですね。毎回ざっくりとしたキャラ設定を自分の中でしているんですが、今回はキャラクターのテーマソングの書き下ろしだったので、本当にイリアのつもりで、自分なりに世界観の中に入っていって歌いました。

──リスナーにとっても、キャラクターが前面に出て曲を耳にすることが多いでしょうしね。

Daoko そうですね。まあ、ちょっとクセは抑えたかもしれないです。自分の手癖的なところ……声グセ?みたいな独自のやつがたまに出てきちゃったりするんですけど。いろんな人に聴いていただきたいなっていうところで、フラットな表現設定にしてるかなと。切ないところは、ちゃんと切なく歌うよう歌詞と同期して感情のバランスを取っていたので、歌詞と一緒に歌を楽しんでいただければいいかなと思いますね。

「Allure of the Dark」Daoko

──6月にリリースされた『美少女戦士セーラームーンCosmos』の主題歌「月の花」と、また全然違う歌い方ですよね。

Daoko けっこう作品の精神性みたいなものを加味しているというか、やっぱり自分自身もその作品への愛があるので。「あの……お力添えできてますでしょうか?」みたいな感じで毎回やってるんです(笑)。「月の花」に関しては、やっぱりセーラームーンの気高く美しいセーラー戦士っていうのがあったから歌のイメージはしやすかったですね。トラックもロック調だったりJ-POP要素もあったりしたので。

「月の花」Daoko

──ご自身の歌声と物語の世界観を合わせる作業が大事なのですね。

Daoko こういうことを言うと、どこで折り曲げられるかわからないし、見る人が見たらちょっと嫌な気持ちになる可能性があるんですけど。私、自分の声が自分ですごい好きなんですよね。自分に自信がまったくないタイプなんですけど、好きだと確実に言えるものが、自分の声と、自分で書く歌詞なんです。

でも、実際に曲を聴くときってけっこう自分の声として聴いてるというよりかは、Daokoとして聴いてるんですよね。自分の曲もすごく聴くんですけど、「いちDaokoファンが、Daokoっていうオリジナルキャラクターを動かしているプロデューサーが私自身」みたいな感じで音楽をやっているかなって最近思いましたね。ちょっとわかりづらい概念的な話になっちゃったんですけど。自分の声が好きって、なんか良いのか悪いのか……。

──とても素敵なことですよね。プロの方でも、意外と自分の声が好きじゃないっていう人も多いですから。

Daoko そうですよね。本当にそこだけ。自分の声がこれで良かったなって、父と母に感謝してます。

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